日本銀行は9月19日の金融政策決定会合で、政策金利の据え置きを決めた。ただし2人の政策委員は0.25%の政策金利引き上げを求め、政策金利の据え置きに反対した。それでも、次回10月の決定会合で利上げが行われる可能性が高まったとは言えないだろう。
今回の会合で日本銀行は、保有するETF、J-REITの売却を実施することを決定した。日本銀行が金融システム安定の観点から銀行より買い入れた株式の売却が今年7月に終了し、その経験を活かしてETF、J-REITの売却に着手する。銀行より買い入れた株式売却を続ける中で、ETFの売却を仮に始めていれば、株式市場に悪影響を与えてしまうことを日本銀行は警戒したのだろう。
売却は市場に対して時価で実施する。銀行より買い入れた株式の売却は時価で年間6,200億円程度、市場全体の売買代金に占める売却割合で0.05%程度の規模で実施したが、これと同様に、ETFについても時価で年間6,200億円程度(簿価で3,300億円程度)、売却割合で0.05%程度とする。J-REITの売却は、時価で年間55億円程度(簿価で50億円程度)、売却割合で同じく0.05%とする。
9月10日時点で日本銀行が保有するETF(簿価)は37兆1,862億円、J-REIT(簿価)は6,550億円だ。これを上記のペースで売却する場合、112.7年、131.0年かかる計算となる。これは本当の意味での出口のスキームとは言えないのではないか。
日本銀行は、銀行から買い入れた株式の売却が混乱なく7月に終了したことを受けて、今回ETF、J-REIT の売却を決めたものと考えられるが、政策金利の引き上げ、国債保有残高の削減に次いで、ETF、J-REITについても売却を始めることで正常化に着手することに最大の意義があるように思われる。
しかし、このペースでの売却では完了までに膨大な時間がかかることを踏まえれば、緩やかなペースで市場売却を続けるのではなく、植田総裁の任期中、あるいは次期総裁のもとなどで、受け皿機関などにETF、J-REITをまとめて移管するようなオフバランス化の出口戦略が、別途講じられることが予想される。
この枠組みについて、市場環境が悪化すれば、売却額の調整・停止を行う、また、売却ペースを見直すことがありうる、と柔軟な枠組みであることを日本銀行は強調している。ただし、今回示した売却ペースを大きく加速させて、早期の売却完了を目指すことはかなり難しい。日本銀行は、銀行から取得した株式を売却する際に、この程度の規模で売却すれば株式市場に悪影響を与えない、との基準を示した。今回は、その基準に沿ってETF、J-REITの売却を始めるが、仮にその基準を大きく上回るペースに修正して売却すると、何らかの理由で株価が下落した際に、日本銀行が自ら示した基準を大きく超えてETF、J-REITの売却を進めた結果との批判を浴びる可能性がある。そうした政治的リスクを回避するためには、日本銀行は今回示した売却ペースを概ね維持していくだろう。
その結果、売却完了までには膨大な時間を要することになってしまうことから、この枠組みは正常化の最終形とは言えず、正常化に着手したことの証拠づくりの意味合いが強いと言えるのではないか。
今回の会合で日本銀行は、保有するETF、J-REITの売却を実施することを決定した。日本銀行が金融システム安定の観点から銀行より買い入れた株式の売却が今年7月に終了し、その経験を活かしてETF、J-REITの売却に着手する。銀行より買い入れた株式売却を続ける中で、ETFの売却を仮に始めていれば、株式市場に悪影響を与えてしまうことを日本銀行は警戒したのだろう。
売却は市場に対して時価で実施する。銀行より買い入れた株式の売却は時価で年間6,200億円程度、市場全体の売買代金に占める売却割合で0.05%程度の規模で実施したが、これと同様に、ETFについても時価で年間6,200億円程度(簿価で3,300億円程度)、売却割合で0.05%程度とする。J-REITの売却は、時価で年間55億円程度(簿価で50億円程度)、売却割合で同じく0.05%とする。
9月10日時点で日本銀行が保有するETF(簿価)は37兆1,862億円、J-REIT(簿価)は6,550億円だ。これを上記のペースで売却する場合、112.7年、131.0年かかる計算となる。これは本当の意味での出口のスキームとは言えないのではないか。
日本銀行は、銀行から買い入れた株式の売却が混乱なく7月に終了したことを受けて、今回ETF、J-REIT の売却を決めたものと考えられるが、政策金利の引き上げ、国債保有残高の削減に次いで、ETF、J-REITについても売却を始めることで正常化に着手することに最大の意義があるように思われる。
しかし、このペースでの売却では完了までに膨大な時間がかかることを踏まえれば、緩やかなペースで市場売却を続けるのではなく、植田総裁の任期中、あるいは次期総裁のもとなどで、受け皿機関などにETF、J-REITをまとめて移管するようなオフバランス化の出口戦略が、別途講じられることが予想される。
この枠組みについて、市場環境が悪化すれば、売却額の調整・停止を行う、また、売却ペースを見直すことがありうる、と柔軟な枠組みであることを日本銀行は強調している。ただし、今回示した売却ペースを大きく加速させて、早期の売却完了を目指すことはかなり難しい。日本銀行は、銀行から取得した株式を売却する際に、この程度の規模で売却すれば株式市場に悪影響を与えない、との基準を示した。今回は、その基準に沿ってETF、J-REITの売却を始めるが、仮にその基準を大きく上回るペースに修正して売却すると、何らかの理由で株価が下落した際に、日本銀行が自ら示した基準を大きく超えてETF、J-REITの売却を進めた結果との批判を浴びる可能性がある。そうした政治的リスクを回避するためには、日本銀行は今回示した売却ペースを概ね維持していくだろう。
その結果、売却完了までには膨大な時間を要することになってしまうことから、この枠組みは正常化の最終形とは言えず、正常化に着手したことの証拠づくりの意味合いが強いと言えるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。