規制改革の旗を降ろしたか
9月20日に小泉農水相は、自民党総裁選に向けた政策案を記者会見で説明した。全体的に政策方針の軌道修正が図られ、従来の「改革者」のイメージを後退させた印象がある。経済政策では保守色を弱める一方、外交・安全保障、社会政策では逆に保守色を強めることで、党内の支持を獲得するとともに野党との連携を重視した結果なのではないか。
経済政策において小泉氏は、父親の小泉純一郎氏の政策を引き継いで、規制改革を進める姿勢をアピールしてきた。昨年の総裁選では、労働市場改革、ライドシェア規制解除など規制改革を進める姿勢を強調した。
しかし、解雇規制緩和の主張では、他の候補者から強い批判を浴び、総裁選の序盤でややつまずく要因ともなった。この点も踏まえ、今回は解雇規制緩和の主張を封じた。小泉氏は、解雇規制緩和の主張が失業者を増やすなど、国民の不安を高めてしまった面があるとして、今回の政策案には盛り込まなかったと主張した。
ただし、解雇規制に限らず、今回は規制改革の旗を降ろしたようにも見える。他方で、生活支援、物価高対策など左派色の強い経済政策を優先する姿勢を見せている。経済政策の方針が右から左に大きく旋回した印象である。選挙での大敗を受けて、国民のニーズが規制改革よりも目先の実質所得増加にあると考えたのだろう。さらに、減税策や可処分所得の増加策を掲げる野党との連携を意識しているのではないか。
経済政策において小泉氏は、父親の小泉純一郎氏の政策を引き継いで、規制改革を進める姿勢をアピールしてきた。昨年の総裁選では、労働市場改革、ライドシェア規制解除など規制改革を進める姿勢を強調した。
しかし、解雇規制緩和の主張では、他の候補者から強い批判を浴び、総裁選の序盤でややつまずく要因ともなった。この点も踏まえ、今回は解雇規制緩和の主張を封じた。小泉氏は、解雇規制緩和の主張が失業者を増やすなど、国民の不安を高めてしまった面があるとして、今回の政策案には盛り込まなかったと主張した。
ただし、解雇規制に限らず、今回は規制改革の旗を降ろしたようにも見える。他方で、生活支援、物価高対策など左派色の強い経済政策を優先する姿勢を見せている。経済政策の方針が右から左に大きく旋回した印象である。選挙での大敗を受けて、国民のニーズが規制改革よりも目先の実質所得増加にあると考えたのだろう。さらに、減税策や可処分所得の増加策を掲げる野党との連携を意識しているのではないか。
インフレ時代に合った所得税制度の見直し
小泉氏は臨時国会で物価高対策を中心とする経済対策を打ち出す考えを示した。ガソリン暫定税率を廃止するとともに、インフレ時代に合った所得税制度の見直しを訴えた。具体的には物価の上昇に合わせて基礎控除を引き上げることで、物価上昇がもたらす実質増税を回避することを狙っている。減税の財源は、税収の上振れ、歳出改革で捻出するとした。
自民党、公明党、立憲民主党は給付付き税額控除制度を巡る協議体の設立で合意した。小泉氏は、給付付き税額控除制度の議論は中長期の課題であり、短期的な物価高対策としては所得税の見直しが重要であると説明した。しかし、物価高に対応して課税最低限や税率区分を物価に連動させるような制度に向けた改革を考えるのであれば、それは同様に実施までに時間を要するのではないか。
小泉氏は、平均賃金を100万円増加させるとし、所得増加を重視する姿勢を強調している。石破政権の実質1%の賃金上昇の方針に基づき、2%の物価上昇、3%の名目賃金上昇を持続的に実現させることで、2030年度にかけて国民所得を100万円増加させる構想を示した。総裁選への出馬を表明している茂木氏も、所得増加の数値目標を掲げるが、それを実現するための説得力のある具体策が示されていない点は、両者に共通している。
自民党、公明党、立憲民主党は給付付き税額控除制度を巡る協議体の設立で合意した。小泉氏は、給付付き税額控除制度の議論は中長期の課題であり、短期的な物価高対策としては所得税の見直しが重要であると説明した。しかし、物価高に対応して課税最低限や税率区分を物価に連動させるような制度に向けた改革を考えるのであれば、それは同様に実施までに時間を要するのではないか。
小泉氏は、平均賃金を100万円増加させるとし、所得増加を重視する姿勢を強調している。石破政権の実質1%の賃金上昇の方針に基づき、2%の物価上昇、3%の名目賃金上昇を持続的に実現させることで、2030年度にかけて国民所得を100万円増加させる構想を示した。総裁選への出馬を表明している茂木氏も、所得増加の数値目標を掲げるが、それを実現するための説得力のある具体策が示されていない点は、両者に共通している。
選択的夫婦別姓の導入を公約から外す
小泉氏は、昨年の総裁選挙では、選択的夫婦別姓の導入を公約に掲げ、「法案を提出し、採決時には党議拘束をかけない」と明言していた。しかし今回は、政策案から選択的夫婦別姓の導入を外している。自民党内あるいは野党での意見の集約が難しいことから、政策実現の優先順位を下げた、との説明だった。
また、外国人政策について、現在のルールは外国人の流入増加に対応できていないとして、外国人問題の司令塔機能を構築し、年内にアクションプランを作るとした。また、防衛力強化も主張した。
小泉氏は、経済政策では保守色を後退させる一方、社会政策、経済・安全保障政策では逆に保守色を強める方向で、政策の軌道修正を図ったように見受けられる。この結果、総裁有力候補の一人である高市氏との対立軸は従来よりも弱まった印象だ。
こうした戦略が、自民党や国民の支持を高め、総裁選で有利に働くのか、それとも個性の後退が不利に働くのか。小泉氏の戦略の成否が、総裁選での大きな焦点の一つとなるのではないか。
また、外国人政策について、現在のルールは外国人の流入増加に対応できていないとして、外国人問題の司令塔機能を構築し、年内にアクションプランを作るとした。また、防衛力強化も主張した。
小泉氏は、経済政策では保守色を後退させる一方、社会政策、経済・安全保障政策では逆に保守色を強める方向で、政策の軌道修正を図ったように見受けられる。この結果、総裁有力候補の一人である高市氏との対立軸は従来よりも弱まった印象だ。
こうした戦略が、自民党や国民の支持を高め、総裁選で有利に働くのか、それとも個性の後退が不利に働くのか。小泉氏の戦略の成否が、総裁選での大きな焦点の一つとなるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。