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石破首相の後継者を決める自民党総裁選が22日に告示され、届け出順に小林鷹之・元経済安全保障相、茂木敏充・前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗・前経済安保相、小泉進次郎農相の5名が、立候補を届け出た。いずれも昨年9月の総裁選に出馬した面々だ。

今回の総裁選で大きな論点である野党連携については、小林氏と小泉氏が積極的な発言をしており、小林氏は、国民の声を政策に反映するには、与野党の垣根を越えた議論が必要と述べ、特定の政策分野では野党との協調も視野に入れる姿勢を示した。小泉氏は、「政治の透明化と改革は与野党の協力なくして進まない」と述べ、野党との連携に前向きな姿勢を見せた。林氏も、「地方の課題は党派を超えて取り組むべき」とし、野党との協力も排除しない柔軟な姿勢を示した。

他方、立候補記者会見では日本維新の会、国民民主党と具体的な政党名を挙げて連携、さらには連立の可能性を示唆した茂木氏は、今回は野党との連携については明言を避けた。野党との連携に最も慎重であるのは高市氏で、「自民党が責任を持って国難に立ち向かう」と強調した。

現時点で最有力候補とされるのは高市氏、小泉氏であるが、高市氏は保守性を前面に出す一方で、国民に支持されやすいテーマに言及する姿勢も目立った。

高市氏は自ら短歌を詠む演出を見せた後、自身の出身である奈良で、鹿や神社などが外国人観光客によって傷つけられていることを批判し、文化の違う人をまとめて受け入れる考えには否定的であり、しっかりとした外国人対策を講じる必要性を訴えた。

また、現在話題となっている釧路湿原に太陽光パネル敷設についても批判した。これに関連し、歪んだ補助金制度を見直すとした。坂本龍馬の言葉を借りて「日本を洗濯する」と、自身の政策姿勢を表現した。

昨年と比べて最も政策の軌道修正が目立ったのは小泉氏だ。規制改革の旗を下ろし、昨年の総裁選挙で打ち出した「解雇規制」は封じ込めた。他方で、党内融和を訴え、「改革」から「融和」に軸足を大きく移した感がある。

さらに、総裁選での決選投票を意識した戦略なのか、石破首相に敬意を払う発言、他の4候補を持ち上げる発言も目立った。他の候補にも言えることだが、「敵を作らない全方位戦略」を取っている印象が強い。

経済政策では、林氏の発言が最も印象的だった。先週、林プランで掲げた「日本版ユニバーサルクレジット」構想についても言及し、低所得層に給付を行い中間層に引っ張り上げる、そして分厚い中間層を形成する考えを示した。他の4候補が似たような物価高対策、減税策を掲げる中、抜本的でオリジナリティーが最も高いのは、この林氏の「日本版ユニバーサルクレジット」構想だ。

さらに、コストプッシュ型インフレをディマンドプル型インフレに転換するには成長戦略が重要と指摘し、市場主義とは異なる「官民協調の新しい資本主義」を目指すとした。その具体例となるのが、GX移行債で20兆円の投資資金を賄い、民間と合わせて150兆の投資拡大を目指すGX戦略だ。

他の候補には、野党との連携を意識して、野党が掲げる所得減税策やガソリン暫定税率廃止を支持するばかりでなく、オリジナリティーの高い経済政策を提示し、林氏に続いてほしい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。