候補者らは消費税減税に慎重で所得税減税に前向き
自民党総裁選の候補者らは、総じて消費税減税に慎重、あるいは否定的である一方、所得税減税には前向きな姿勢を示している。参院選前には消費税の軽減税率を一時ゼロ%にする案を支持していた高市前経済安保相も、今回の総裁選では、実施までに時間がかかることを理由に消費税減税の提案を取り下げ、所得税減税を掲げている。
候補者らが総じて消費税減税に慎重あるいは否定的である背景には、それが社会保障支出の基礎的財源に位置付けられていることがあるだろう。さらに、野党の選挙戦略に倣う形で、現役世代に恩恵が及ぶ政策を掲げる傾向を強めていると考えられる。消費税減税は全ての世代に恩恵が及ぶが、単純な所得税減税では、勤労所得を得ている現役世代にのみ恩恵が及ぶためだ。
候補者らが総じて消費税減税に慎重あるいは否定的である背景には、それが社会保障支出の基礎的財源に位置付けられていることがあるだろう。さらに、野党の選挙戦略に倣う形で、現役世代に恩恵が及ぶ政策を掲げる傾向を強めていると考えられる。消費税減税は全ての世代に恩恵が及ぶが、単純な所得税減税では、勤労所得を得ている現役世代にのみ恩恵が及ぶためだ。
高市氏は給付付き税額控除を支持
自民党、公明党、立憲民主党の3党は、「給付付き税額控除(Refundable Tax Credit)」の制度設計を議論する新たな協議体を設け、政策責任者どうしで検討を進めていくことで一致した。
総裁選候補者の中でも、高市氏は給付付き税額控除を支持している。また林官房長官は、海外の事例にならって「日本版ユニバーサル・クレジット」を提唱している。これは、生活保護・児童手当・住宅扶助・税額控除などを一体化し、所得に応じて自動的に給付額を調整する仕組みを目指すものと考えられ、給付付き税額控除の考えも包含したより広い制度の見直しだ。
単純な所得減税では、退職世代を含む所得が課税最低限以下の低所得層に恩恵が行かないという欠点があるが、給付付き税額控除なら、低所得層にも現金給付を通じて恩恵をもたらすことができる。
立憲民主党が掲げる給付付き税額控除は、所得税や住民税の控除額を設定し、納税額がその控除額より少ない場合は、その差額を「現金給付」として支給するものだ。例えば、控除額が50万円で納税額が30万円なら、20万円が現金で給付される。納税額がゼロの非課税世帯であれば、50万円が全額給付され、所得水準に関わらず同額の減税及び給付の恩恵を受けることができる。
ただし、高額所得者は対象としない中低所得層向け施策であり、年収1,000万円以下の中間層までを主な対象とする案が検討されている。
総裁選候補者の中でも、高市氏は給付付き税額控除を支持している。また林官房長官は、海外の事例にならって「日本版ユニバーサル・クレジット」を提唱している。これは、生活保護・児童手当・住宅扶助・税額控除などを一体化し、所得に応じて自動的に給付額を調整する仕組みを目指すものと考えられ、給付付き税額控除の考えも包含したより広い制度の見直しだ。
単純な所得減税では、退職世代を含む所得が課税最低限以下の低所得層に恩恵が行かないという欠点があるが、給付付き税額控除なら、低所得層にも現金給付を通じて恩恵をもたらすことができる。
立憲民主党が掲げる給付付き税額控除は、所得税や住民税の控除額を設定し、納税額がその控除額より少ない場合は、その差額を「現金給付」として支給するものだ。例えば、控除額が50万円で納税額が30万円なら、20万円が現金で給付される。納税額がゼロの非課税世帯であれば、50万円が全額給付され、所得水準に関わらず同額の減税及び給付の恩恵を受けることができる。
ただし、高額所得者は対象としない中低所得層向け施策であり、年収1,000万円以下の中間層までを主な対象とする案が検討されている。
立憲民主党は消費税の逆進性対策として給付付き税額控除を導入する考え
立憲民主党は消費税の逆進性対策として給付付き税額控除を導入する考えを掲げてきた。全ての消費者は、その消費額に対して一定の割合で消費税を負担する。しかし、低所得層は消費性向が高い(貯蓄率が低い)、つまり所得のうち消費に回す割合が高所得者と比べて高いことから、所得に対する比率で見れば消費税負担の割合は高くなる。これが消費税の逆進性だ。この逆進性を緩和する狙いで、低所得層の消費に占める割合が高い必需性の高い食料品には軽減税率が適用されている。それでも逆進性は残ってしまう。
先般の参院選で立憲民主党は、物価高対策として、一律2万円の給付金を公約に掲げたが、これは消費税の軽減税率を一時的に0%とする措置が実施できるまでの繋ぎの施策という位置づけだった。さらに、消費税の軽減税率を一時的に0%とする措置も、給付付き税額控除を導入するまでの繋ぎの位置づけ、という二重構造になっていた。
最終的に、消費税は維持しつつ、低所得者層への負担軽減を給付と控除で行うというのが、立憲民主党の構想だ。
先般の参院選で立憲民主党は、物価高対策として、一律2万円の給付金を公約に掲げたが、これは消費税の軽減税率を一時的に0%とする措置が実施できるまでの繋ぎの施策という位置づけだった。さらに、消費税の軽減税率を一時的に0%とする措置も、給付付き税額控除を導入するまでの繋ぎの位置づけ、という二重構造になっていた。
最終的に、消費税は維持しつつ、低所得者層への負担軽減を給付と控除で行うというのが、立憲民主党の構想だ。
制度のメリットと課題は?
給付付き税額控除を導入することのメリットとしては、すでに指摘した消費税の逆進性を緩和することがまず挙げられる。さらに、物価上昇による生活への影響を受けやすい中低所得層の所得を増やし、生活の安定を図ること、所得再分配機能を強化し、格差是正や少子化対策に資することなどが期待される。
他方で大きな課題としては、税額控除と給付の財源確保がある。立憲民主党は、将来世代に負担をかけないという観点から、赤字国債には頼らずに、税制全体の見直しで財源を確保する方針だ。
大企業への優遇措置を是正し、応分の負担を求める「法人税制の見直し」、株式の配当や売却益などに対する課税を、給与所得との公平性を図る形で強化する「金融所得課税の強化」、高額所得層に対する所得税の最高税率引き上げなど「富裕層への課税強化」などを検討している。
赤字国債の発行ではなく恒久財源を確保するという方針は、自民党、公明党も概ね共有しており、今後、給付付き税額控除の導入に向けた議論が3党間で比較的迅速に進む可能性もあるだろう。
ただし、給付付き税額控除の導入に向けた本格的な議論が始まるのは、新政権発足の後となる。導入に前向きな高市氏あるいは林氏が選出されるかどうかで、この議論は大きな影響を受ける。総裁選を通じて候補者間でどのような議論がなされるかにも注目しておきたい。
他方で大きな課題としては、税額控除と給付の財源確保がある。立憲民主党は、将来世代に負担をかけないという観点から、赤字国債には頼らずに、税制全体の見直しで財源を確保する方針だ。
大企業への優遇措置を是正し、応分の負担を求める「法人税制の見直し」、株式の配当や売却益などに対する課税を、給与所得との公平性を図る形で強化する「金融所得課税の強化」、高額所得層に対する所得税の最高税率引き上げなど「富裕層への課税強化」などを検討している。
赤字国債の発行ではなく恒久財源を確保するという方針は、自民党、公明党も概ね共有しており、今後、給付付き税額控除の導入に向けた議論が3党間で比較的迅速に進む可能性もあるだろう。
ただし、給付付き税額控除の導入に向けた本格的な議論が始まるのは、新政権発足の後となる。導入に前向きな高市氏あるいは林氏が選出されるかどうかで、この議論は大きな影響を受ける。総裁選を通じて候補者間でどのような議論がなされるかにも注目しておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。