英国ユニバーサルクレジット制度の概要
自民党総裁選では、候補者の一人である林官房長官が、「日本版ユニバーサルクレジット(Universal Credit)構想」を掲げている。これは、英国など海外の制度を日本に導入することを検討するものだ。
英国を例にとれば、ユニバーサルクレジット制度は、社会保障制度の簡素化を目指して、複数の社会保障給付を統合した制度であり、就労インセンティブの強化、貧困の緩和なども目的とされている。
英国では2013年よりユニバーサルクレジット制度が段階的に導入されてきた。それは、求職者手当、雇用・生活支援給付、所得補助、住宅給付、子ども税額控除、勤労税額控除の6つを統合したものだ。
申請は基本的にオンラインで行われる。働くことで勤労所得が増えればその分給付額が減額されるテーパリング方式が採用されているが、働き損にはならず、勤労意欲を削がない仕組みとなっている。さらに、所得の変動に応じて給付額が自動調整される柔軟な仕組みとなっている。
18歳以上で年金受給年齢未満が対象であり、資産が£16,000(約320万円)以下であることも受給の要件だ。25歳以上の単身者が月£317.82(約6.4万円)、25歳以上のカップルが月£498.89(約10.0万円)などと、基準給付額が設定される。さらに、扶養児童数、障害の有無、住居費・育児費用などに応じて給付が加算される。そして、最終的に所得の63%を差し引いた金額が給付される(テーパリング方式)。
英国を例にとれば、ユニバーサルクレジット制度は、社会保障制度の簡素化を目指して、複数の社会保障給付を統合した制度であり、就労インセンティブの強化、貧困の緩和なども目的とされている。
英国では2013年よりユニバーサルクレジット制度が段階的に導入されてきた。それは、求職者手当、雇用・生活支援給付、所得補助、住宅給付、子ども税額控除、勤労税額控除の6つを統合したものだ。
申請は基本的にオンラインで行われる。働くことで勤労所得が増えればその分給付額が減額されるテーパリング方式が採用されているが、働き損にはならず、勤労意欲を削がない仕組みとなっている。さらに、所得の変動に応じて給付額が自動調整される柔軟な仕組みとなっている。
18歳以上で年金受給年齢未満が対象であり、資産が£16,000(約320万円)以下であることも受給の要件だ。25歳以上の単身者が月£317.82(約6.4万円)、25歳以上のカップルが月£498.89(約10.0万円)などと、基準給付額が設定される。さらに、扶養児童数、障害の有無、住居費・育児費用などに応じて給付が加算される。そして、最終的に所得の63%を差し引いた金額が給付される(テーパリング方式)。
日本版ユニバーサルクレジットとは何か?
林氏が掲げる日本版ユニバーサルクレジット構想の詳細は明らかでないが、この英国のユニバーサルクレジット制度をベースにしたものと推察される。日本では現在、生活保護、児童手当、就学援助、住宅扶助など複数の福祉制度が存在しているが、それらを統合することが検討されるだろう。小泉氏は24日の日本記者クラブ主催の討論会で、英国の例ではユニバーサルクレジット制度は段階的導入から完全導入まで15年という長い時間を有したと指摘したのに対して林氏は、全世帯の所得、給付状況をすべて調べるには時間がかかるが、日本ではサンプリングで一部世帯を調べることで、より短時間で制度導入が可能、と説明している。さらに、対象を中低所得層に絞り込む考えを示した。
英国ではPC、スマホを用いたオンライン申請が行われているが、日本ではマイナンバー連携による自動給付が検討されている。
英国ではPC、スマホを用いたオンライン申請が行われているが、日本ではマイナンバー連携による自動給付が検討されている。
日本版ユニバーサルクレジットには6つの大きな課題
日本版ユニバーサルクレジット制度導入には6つの大きな課題があると考えられる。第1は、制度の複雑さと縦割り行政の問題だ。日本の福祉制度は厚労省、文科省、内閣府など複数の省庁にまたがって運営されており、統合には縦割り行政を克服する省庁間の調整が不可欠となる。また、既存制度の重複や不整合を整理する必要がある。
第2は、政治的利害の調整だ。統合によって一部の支援が減る可能性があるため、既得権益層や支援団体からの反発が予想される。支援対象の見直しには、国民的合意形成が必要となるだろう。
第3は、自治体との役割分担の問題だ。現在の福祉制度は自治体が大きな裁量を持っているため、統一制度への移行には地方自治体の反発が予想される。
第4は、インフラの整備の必要性だ。日本版ユニバーサルクレジットには、マイナンバー制度を活用した所得・資産情報の連携が前提になると考えられるが、現状ではそれらは十分に整備されていない。デジタル申請・自動給付の仕組みを構築するためのシステム投資が必要になるだろう。
第5は、給付に対する社会的理解の深化である。生活保護などの既存制度については、「恥」、「不正受給」などの偏見が根強く、それらを統合する際にも、福祉制度への国民の理解と信頼の向上が必要となる。
第6は、財源の確保である。各種福祉制度の統合によって給付対象が拡大する可能性があり、その安定的な財源確保が不可欠となる。また、消費税や所得税の見直しなど、税制改革と連動した包括的な制度の抜本的な見直しが必要となる可能性もあるだろう。
このように、日本版ユニバーサルクレジットには多くの課題が残されており、実現するとしても相当に時間を要するだろう。今回の自民党総裁選で、物価高対策、税制改革、社会保障制度改革が幅広く議論される中で、日本版ユニバーサルクレジット構想についても国民が知るところとなり、今後の国民的議論の起点となっていくことを期待したい。
第2は、政治的利害の調整だ。統合によって一部の支援が減る可能性があるため、既得権益層や支援団体からの反発が予想される。支援対象の見直しには、国民的合意形成が必要となるだろう。
第3は、自治体との役割分担の問題だ。現在の福祉制度は自治体が大きな裁量を持っているため、統一制度への移行には地方自治体の反発が予想される。
第4は、インフラの整備の必要性だ。日本版ユニバーサルクレジットには、マイナンバー制度を活用した所得・資産情報の連携が前提になると考えられるが、現状ではそれらは十分に整備されていない。デジタル申請・自動給付の仕組みを構築するためのシステム投資が必要になるだろう。
第5は、給付に対する社会的理解の深化である。生活保護などの既存制度については、「恥」、「不正受給」などの偏見が根強く、それらを統合する際にも、福祉制度への国民の理解と信頼の向上が必要となる。
第6は、財源の確保である。各種福祉制度の統合によって給付対象が拡大する可能性があり、その安定的な財源確保が不可欠となる。また、消費税や所得税の見直しなど、税制改革と連動した包括的な制度の抜本的な見直しが必要となる可能性もあるだろう。
このように、日本版ユニバーサルクレジットには多くの課題が残されており、実現するとしても相当に時間を要するだろう。今回の自民党総裁選で、物価高対策、税制改革、社会保障制度改革が幅広く議論される中で、日本版ユニバーサルクレジット構想についても国民が知るところとなり、今後の国民的議論の起点となっていくことを期待したい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。