医薬品関税の対象は限定的か
トランプ米大統領は25日に、米国内で工場建設に着工していない製薬会社が製造する、高額な先発薬や特許が有効なブランド薬に対して、10月1日から100%の関税を課すと発表した。今後、大統領令を出して医薬品関税の詳細を公表する見通しだ。
後発薬(ジェネリック医薬品)は対象から外れる見込みである。米国の処方箋の約9割はジェネリック医薬品が使用されているが、それらはこの関税措置の影響を受けないとみられる。
米国内で工場建設に着工している企業は追加関税の対象外となるが、主要な製薬会社は既に米国での大型投資を進めており、実際に関税の対象となる商品は限られるとみられる。ただし、着工の定義は不明確であり、依然として不確実性が残る。
トランプ大統領は、医薬品の国内投資、生産を拡大させるため、関税率を段階的に250%まで引き上げる考えを示してきた。今回の関税措置は、対象がかなり限定されたように見えるが、この背景には、海外生産比率が高い米国の医薬品メーカーが、関税による打撃を懸念してトランプ政権に働きかけた結果である可能性が考えられる。
米国の医薬品企業の多くは、海外に製造拠点を持っており、グローバルな供給体制を構築している。ファイザー、メルク、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの主要企業の海外生産比率は50%以上とみられる。原薬や中間体の製造はインドや中国などのコスト競争力のある国に依存し、最終製品の製造や包装は、品質管理や規制対応の観点から、欧州などの先進国で行われることが多い。
後発薬(ジェネリック医薬品)は対象から外れる見込みである。米国の処方箋の約9割はジェネリック医薬品が使用されているが、それらはこの関税措置の影響を受けないとみられる。
米国内で工場建設に着工している企業は追加関税の対象外となるが、主要な製薬会社は既に米国での大型投資を進めており、実際に関税の対象となる商品は限られるとみられる。ただし、着工の定義は不明確であり、依然として不確実性が残る。
トランプ大統領は、医薬品の国内投資、生産を拡大させるため、関税率を段階的に250%まで引き上げる考えを示してきた。今回の関税措置は、対象がかなり限定されたように見えるが、この背景には、海外生産比率が高い米国の医薬品メーカーが、関税による打撃を懸念してトランプ政権に働きかけた結果である可能性が考えられる。
米国の医薬品企業の多くは、海外に製造拠点を持っており、グローバルな供給体制を構築している。ファイザー、メルク、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの主要企業の海外生産比率は50%以上とみられる。原薬や中間体の製造はインドや中国などのコスト競争力のある国に依存し、最終製品の製造や包装は、品質管理や規制対応の観点から、欧州などの先進国で行われることが多い。
日本の医薬品にかかる関税率は15%か
米国と欧州連合(EU)が8月に発表した共同声明の中で、米国がEUの医薬品に分野別関税を課す場合には、15%を上限とするとされた。他方で、米国は7月の日米関税合意で日本に医薬品、半導体関税を課す場合には、すべての国・地域で最低水準となる「最恵国待遇」を適用すると約束したと日本政府は説明している。この最恵国待遇の適用は、9月の共同声明でも改めて確認された。
大統領令に書き込まれた訳ではないことから、不確実性はわずかに残るものの、日本の医薬品にかかる関税率も15%となる可能性が高そうだ。さらに、米国内に工場を建設していない製薬会社、ジェネリック医薬品を除くなどの条件を踏まえると、日本からの医薬品に課される関税はかなり限定的と考えられる。
大統領令に書き込まれた訳ではないことから、不確実性はわずかに残るものの、日本の医薬品にかかる関税率も15%となる可能性が高そうだ。さらに、米国内に工場を建設していない製薬会社、ジェネリック医薬品を除くなどの条件を踏まえると、日本からの医薬品に課される関税はかなり限定的と考えられる。
関税率が15%の場合には日本のGDPへの影響は-0.01%と限定的
トランプ大統領が示唆したように、段階的にすべての輸入医薬品に250%の関税が課される場合、日本のGDPへの影響は1年間程度で-0.12%、今回発表された100%の関税が課される場合には-0.05%と試算される。医薬品業界に打撃となるだけでなく、日本経済全体にも相応に悪影響を与える。関税率が15%の場合には、その影響は-0.01%と限定的だ。
注目されるトランプ関税の違法性を巡る最高裁の判断
トランプ大統領は今回、医薬品に加えて大型トラックに25%、キッチンキャビネットや洗面化粧台、その他の同様の製品に50%、布製家具には30%の関税を課すと発表している。今後は半導体にも関税が課される見込みであり、トランプ関税はなお拡大方向にある。
そうした流れに司法の壁がストップをかけるかが注目されるところだ。トランプ関税のうち相互関税については、地方裁判所、高等裁判所で大統領の権限を逸脱しているとして違法判決が出ている。最高裁判所は、各国に対する関税措置の救済に向けたトランプ政権の取り組みについて、11月に弁論を聞くことに合意した。早ければ年内にも最高裁判所の判断が示される可能性が出てきた。
(参考資料)
“Trump to Impose New Tariffs on Pharma, Big Trucks(トランプ氏、医薬品・大型トラックに関税 10月から)”, Wall Street Journal, September 26, 2025
「米国が医薬品に100%関税 日本は最恵国なら15%」、2025年9月27日、日本経済新聞
「米政府、日欧の医薬品関税の軽減適用へ 大手製薬株も崩れず」、2025年9月27日、日本経済新聞電子版
そうした流れに司法の壁がストップをかけるかが注目されるところだ。トランプ関税のうち相互関税については、地方裁判所、高等裁判所で大統領の権限を逸脱しているとして違法判決が出ている。最高裁判所は、各国に対する関税措置の救済に向けたトランプ政権の取り組みについて、11月に弁論を聞くことに合意した。早ければ年内にも最高裁判所の判断が示される可能性が出てきた。
(参考資料)
“Trump to Impose New Tariffs on Pharma, Big Trucks(トランプ氏、医薬品・大型トラックに関税 10月から)”, Wall Street Journal, September 26, 2025
「米国が医薬品に100%関税 日本は最恵国なら15%」、2025年9月27日、日本経済新聞
「米政府、日欧の医薬品関税の軽減適用へ 大手製薬株も崩れず」、2025年9月27日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。