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第1次トランプ政権以来の政府機関閉鎖に現実味

米国は政府閉鎖の危機に直面している。つなぎ予算案が可決されなければ、新年度初日となる10月1日から、一部政府機関が閉鎖される。下院は9月に、共和党がまとめた11月下旬まで政府支出を手当てするつなぎ予算案を僅差で承認した。しかし、議員や連邦当局者向けの警備費増額が盛り込まれた同案は、上院では民主党の反対により否決された。上院民主党はつなぎ予算案への支持を拒否し、共和党が最近実施した医療費削減の撤回を盛り込むように要求している。
 
共和党は議会上下両院で過半数を握り、上院では53議席と民主党の47議席を上回る。しかし議事妨害(フィリバスター)を打ち切るには、少なくとも60票の賛成が必要であり、民主党の協力が欠かせない。
 
上院は早ければ29日にも、民主党が一度否決したつなぎ予算案の再投票を行う。トランプ大統領と与野党幹部はその29日に会談を行い、トランプ大統領は、民主党側に協力を呼びかける。
 
現時点で、政府閉鎖回避の見通しは立っておらず、メキシコ国境の壁建設費用を巡る対立で1か月以上にわたり予算の一部が止まった第1次トランプ政権以来となる政府機関閉鎖が現実味を帯びている。

雇用統計発表延期で金融政策判断に影響も

政府閉鎖となっても、人命や財産の保護に不可欠な活動は継続される。軍事、法執行、食品検査、連邦航空局、運輸保安局などがこれらに含まれる。大統領、ホワイトハウス、通商代表部(USTR)も業務を継続する。上院で承認された政府機関の高官も業務を続ける。議員の給与も支給が継続される。
 
他方、過去の政府閉鎖では、連邦職員の約4割が一時帰休となった。大半の国立公園は閉鎖された。
 
政府閉鎖となれば、10月3日に予定されている9月分雇用統計の発表が遅れ、閉鎖が長引けば10月中旬の9月分消費者物価統計などの発表にも影響が出る可能性がある。政府予算に依存しない米連邦準備制度理事会(FRB)は業務を続けるが、重要な経済指標が発表されなければ、10月28日~29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での金融政策決定に支障が生じることになる。

前回と同期間の政府閉鎖で10-12月期の実質GDPは前期比年率0.6%下振れる

さらに従来の政府閉鎖と異なるのは、政府閉鎖になった場合には「大統領の優先事項」ではない部署の職員に解雇通知を出すよう9月24日に米行政管理予算局(OMB)が各省庁に求めたことだ。今回の政府閉鎖は、連邦職員の大量解雇につながり、足もとで明らかになってきた雇用悪化を加速させる可能性がある。
 
政府閉鎖が長期化すれば経済活動への悪影響も避けられない。議会予算局(CBO)は、2018年から2019年の政府閉鎖によってGDPが約110億ドル減少し、そのうち30億ドルは恒久的に失われたと試算した。それは、2018年10-12月期のGDPを前期比0.1%、2019年1-3月期のGDPを前期比0.2%、それぞれ押し下げたと試算される。
 
閉鎖期間が長引くと、企業が連邦政府の許可や認証を取得できず、連邦政府からの融資も受けられなくなるため、民間部門の投資や雇用決定に悪影響を与えるとCBOは指摘している。
 
仮に、2018年から2019年と同様に政府閉鎖が35日間続く場合、10-12月期の実質GDPは前期比年率0.6%下振れる計算となる。大量の連邦職員の解雇が行われれば、その影響はさらに大きくなる。
 
また、米国経済が微妙な局面にある中で政府閉鎖が生じ、米国の経済活動への悪影響が意識されれば、株価下落など金融市場にも悪影響が生じる可能性がある。財政リスク上昇への懸念から、長期金利の上昇が生じる恐れもあり、それらが経済に追加的な打撃を与える可能性も考えておく必要があるだろう。

 
(参考資料)
「トランプ氏、政府閉鎖回避でぎりぎりの交渉開始へ」、2025年9月29日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
「米政府閉鎖なら「職員解雇」 政権つなぎ予算、民主党に圧力」、2025年9月27日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。