&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

自民党総裁選はいよいよ最終盤に入った。5人の候補者のうち、小泉氏、高市氏がリードし、それに林氏が続く展開とされる。金融市場は積極財政政策と金融緩和政策を重視する高市氏が新総裁になるのか、あるいはそれ以外の候補者が総裁になるのか、という点に最も注目している。
 
短期的な株式市場の反応は、高市氏が新総裁に選出される場合が最もポジティブとなるだろう。同氏が掲げる政府による投資拡大や各種減税策が短期的な経済にはプラス、と市場は考えるためだ。さらに、予想される円安も株式市場に追い風となるだろう。
 
小泉氏は、財政健全化を支持する姿勢ではあるが、2030年度までに国内投資135兆円、平均賃金100万円増を掲げるなど、緊縮財政ではなく成長重視の姿勢だ。その結果、小泉氏が勝利すれば、株式市場には追い風となるだろう。今回の総裁選では、規制改革を進める改革者としてのイメージが後退したが、父親の小泉政権の規制改革の記憶もあり、小泉氏が勝利する場合には規制改革への期待も株式市場にとってプラスとなる可能性がある。
 
林氏は、候補者の中で最も財政健全化を重視するが、その分、短期的な景気にはマイナスとの見方もあり、林氏が勝利する場合には、株式市場に若干の失望をもたらす可能性がある。林氏が勝てば円高が進むとの見方も、株式市場にはやや逆風となるだろう。
 
金融緩和の継続を望む高市氏が勝てば、低金利持続への期待から為替市場では円安が進みやすい。さらに、積極財政による財政環境悪化が通貨価値を損ねるとの懸念から、「悪い円安」が進む可能性がある。
 
小泉氏が勝利する場合には、為替市場には比較的中立的となろう。ただし、高市氏との比較では小泉氏は日本銀行の独立性を尊重する姿勢であり、その分利上げが進みやすくなるとの観測から、為替市場では緩やかな円高が進む可能性がある。
 
財政健全化を支持し、また日本銀行の独立性を尊重する姿勢の強い林氏が勝てば、大きく円高が進む可能性がある。これには、短期金利の見通しの上方修正や長期金利の上昇の影響に加えて、財政健全化による円の信認回復という「良い円高」の側面もある。
 
積極財政を志向する高市氏が勝利すれば、債券価格は低下し、長期金利は上昇するだろう。特に超長期ゾーンの金利には上昇圧力がかかりやすい。小泉氏が勝利する場合には、債券市場には概ね中立、あるいは若干プラスとなるだろう。
 
林氏が勝利する場合には、債券市場で債券価格は上昇し、長期金利は低下すると見込まれる。これは、財政健全化重視の政策姿勢が、債券市場の財政リスクを低下させると共に、日本銀行の利上げが進むことで、中長期のインフレリスクが抑えられるとの期待が生じるためだ。
 
それぞれの候補者が総裁選で勝利した場合の短期的な金融市場の反応は、以上のように予想される。ただし、新総裁の下で進む経済政策は、新総裁がどの野党との連携を強め、あるいは連立を実現するかによって大きく変わってくる。そのため、総裁選後の金融市場は、そうした政治情勢を見据えて、なお大きく動く可能性がある。
 
図表1 自民党総裁選候補者の財政・金融政策スタンスの比較


図表2 自民党総裁選の結果と金融市場の反応

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。