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利上げについての明確なメッセージはなし

日本銀行の植田総裁は10月3日に、大阪経済4団体共催の懇談会で講演を行った。日本銀行が公表したテキストには、10月29・30日の次回金融政策決定会合で利上げを行うかどうかについて、明確なメッセージは見出されなかった。
 
日米関税合意により関税政策の不確実性が低下したこと、1日に発表された短観が良好な企業の景況感と収益環境などを示した点に総裁が言及したことは、利上げ時期が近づいていくことを示唆していると考えることもできる。前日の内田副総裁も、同様な主旨の発言を行っていた。
 
特に注目されたのは、「海外の経済・物価動向を巡る不確実性は高い状況が続いており」との表現が使われるかどうかであった。ともに政策金利の据え置きを決めた8月の展望レポート、9月の金融政策決定会合の対外公表文では、リスク要因としてこの表現が使われていた。この表現を用いることで、日本銀行は次の会合では利上げはしないというメッセージを送っていると推察される。前日の内田副総裁の講演でも、この表現が用いられていた。
 
しかし今回の植田総裁の講演では、同じ表現を使わなかった。これが、意図したことなのかどうかは不明だ。「先行き、海外経済や各国の通商政策等を巡る不透明感が高い状況が続くような場合には」という表現が用いられており、現時点では不確実性・不透明感が高い状況が続いている、との判断を示しているとも解釈できる。

総裁選後の副総裁の講演に注目

今回の植田総裁の講演では、次の利上げの時期についての明確なメッセージが込められなかった理由の一つは、自民党総裁選の前日であったことだ。総裁選の結果を見るまでは、日本銀行は10月29・30日の次回金融政策決定会合での政策スタンスを決められないだろう。
 
仮に金融緩和継続を主張する高市氏が新総裁に選出されれば、日本銀行は次回金融政策決定会合での利上げを見送る可能性が高まる。それ以外の候補者が選出されれば、日本銀行は金融政策決定でフリーハンドを得るだろう。
 
次回金融政策決定会合での利上げ実施の有無を占うには、総裁選の結果を踏まえた上での、10月17日(木)の内田副総裁による全国信用組合大会での挨拶、10月21日(火)氷見野副総裁ユーラシア・グループ主催イベントでの講演に、利上げを示唆するメッセージが込められるかどうかが注目点だ。
 
現時点では、日本銀行の執行部は、なお米国経済を中心に、関税の影響をしばらく見極めることが予想される。仮に高市氏以外が新総裁に選出される場合でも、10月29・30日の次回金融政策決定会合での利上げの可能性は50%を若干下回っており、12月に利上げされる可能性がより高いと見ておきたい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。