日本銀行は安倍政権以来の政治介入リスクに直面
高市自民党総裁は、日本銀行が金融緩和を継続することを望んでいる。さらに、政府は財政政策とともに金融政策にも責任を持ち、金融政策の方針を決めるのは政府である、との趣旨の発言をしている。これは、「(金融政策は)政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう」「(日本銀行は政府と)十分な意思疎通を図らなければならない」ことを求める日本銀行法第4条が求める点を逸脱している可能性があり、日本銀行法の日本銀行の独立性を尊重する基本的な考え方とは相いれないだろう。
高市総裁のもと、日本銀行は安倍政権以来の政治介入を受けるリスクに直面している。米連邦準備制度理事会(FRB)がトランプ政権からの利下げ要求など強い政治介入を受ける中、日本で日本銀行への政治介入が強まれば、それは通貨の信認を損ね、金融市場を不安定化させる恐れがあることから、世界の中央銀行及び金融市場が大いに懸念するところとなるだろう。
高市総裁のもと、日本銀行は安倍政権以来の政治介入を受けるリスクに直面している。米連邦準備制度理事会(FRB)がトランプ政権からの利下げ要求など強い政治介入を受ける中、日本で日本銀行への政治介入が強まれば、それは通貨の信認を損ね、金融市場を不安定化させる恐れがあることから、世界の中央銀行及び金融市場が大いに懸念するところとなるだろう。
「政策金利引き上げ=金融引き締め」ではない
高市総裁は、現在の高い物価上昇率はコストプッシュ型であり、経済に悪影響を与えるものであることから、物価高を理由に日本銀行が政策金利を引き上げると景気に悪影響が生じ、国民生活が圧迫される恐れがある、との考えを持っていると見られる。こうした懸念は間違っていないだろう。
ただし重要なのは、日本銀行は物価の基調はまだ2%の物価目標に達していないと説明していることだ。そのもとでは、政策金利は経済に中立的な水準を下回り、金融緩和状態は維持される。中央銀行は政策金利の方向性ではなく水準を重視する傾向が強く、通常は、「政策金利引き上げ=金融引き締め」とは考えない。この点を高市総裁に理解してもらうよう、日本銀行は今後働きかけを行うのではないか。
ただし重要なのは、日本銀行は物価の基調はまだ2%の物価目標に達していないと説明していることだ。そのもとでは、政策金利は経済に中立的な水準を下回り、金融緩和状態は維持される。中央銀行は政策金利の方向性ではなく水準を重視する傾向が強く、通常は、「政策金利引き上げ=金融引き締め」とは考えない。この点を高市総裁に理解してもらうよう、日本銀行は今後働きかけを行うのではないか。
政治介入で高まる円安進行とその弊害
さらに、政策金利を中立水準に向けて緩やかに引き上げていく日本銀行の金融政策正常化を牽制する政治的な動きは、経済、金融市場の安定にマイナスの影響を与え得る。国民生活にはむしろ逆風となるだろう。
既に足もとで生じているように、高市総裁の下で日本銀行の政策金利引き上げに向けた障害が高まるとの見方が金融市場に広がると、為替市場では円安が進む。円安は輸出企業の収益を増加させ、また株高を生じさせることで、株式を多く保有する富裕層に恩恵をもたらす。
しかし、円安進行は輸入物価を押し上げ、食料・エネルギーを中心に物価高を長期化してしまう。これは、低所得者を中心に国民生活に悪影響を与えるだろう。高市総裁は、減税を中心とする物価高対策を優先する姿勢であるが、日本銀行への政治介入を強めると、円安、物価高によって国民生活をむしろ圧迫してしまうという矛盾を抱えることになるだろう。
日本銀行は、為替市場への影響を想定して金融政策を運営していない、という建前があることから、上記の問題点を直接対外的に主張することはできない。しかしこのような問題点についての指摘が世間で広まっていき、日本銀行に対する政治介入に対する批判的な論調が醸成されていけば、実際に政治介入のリスクを下げてくれる、ということを期待しているのではないか。
既に足もとで生じているように、高市総裁の下で日本銀行の政策金利引き上げに向けた障害が高まるとの見方が金融市場に広がると、為替市場では円安が進む。円安は輸出企業の収益を増加させ、また株高を生じさせることで、株式を多く保有する富裕層に恩恵をもたらす。
しかし、円安進行は輸入物価を押し上げ、食料・エネルギーを中心に物価高を長期化してしまう。これは、低所得者を中心に国民生活に悪影響を与えるだろう。高市総裁は、減税を中心とする物価高対策を優先する姿勢であるが、日本銀行への政治介入を強めると、円安、物価高によって国民生活をむしろ圧迫してしまうという矛盾を抱えることになるだろう。
日本銀行は、為替市場への影響を想定して金融政策を運営していない、という建前があることから、上記の問題点を直接対外的に主張することはできない。しかしこのような問題点についての指摘が世間で広まっていき、日本銀行に対する政治介入に対する批判的な論調が醸成されていけば、実際に政治介入のリスクを下げてくれる、ということを期待しているのではないか。
日本銀行は麻生氏にも期待か
高市総裁が任命した党4役の半数が麻生派であり、さらに麻生氏が副総裁に就任したことは、高市総裁の経済政策も、麻生氏の影響力を強く受ける可能性を示唆している。麻生氏は財政健全化とともに日本銀行の独立性を尊重する姿勢と考えられる。そのため、麻生氏の影響力のもとで、高市総裁の積極財政、金融緩和継続という政策志向も弱められる可能性があるだろう。
日本銀行は麻生氏の力を得つつ、水面下で高市総裁との調整を進め、その介入姿勢の修正を図ることになるだろう。そうした調整は、10月29・30日の次回金融政策決定会合には間に合わないため、日本銀行は利上げを見送る可能性が高い。しかし、調整が進むことで12月の金融政策決定会合では追加利上げが実施されると見ておきたい。
以上のような経緯から、高市総裁のもとでも日本銀行の利上げ路線は妨げられないとの見方が最終的に広がれば、金融市場では円安・株高は巻き戻され、円高・株安の流れが生じることになるだろう。
日本銀行は麻生氏の力を得つつ、水面下で高市総裁との調整を進め、その介入姿勢の修正を図ることになるだろう。そうした調整は、10月29・30日の次回金融政策決定会合には間に合わないため、日本銀行は利上げを見送る可能性が高い。しかし、調整が進むことで12月の金融政策決定会合では追加利上げが実施されると見ておきたい。
以上のような経緯から、高市総裁のもとでも日本銀行の利上げ路線は妨げられないとの見方が最終的に広がれば、金融市場では円安・株高は巻き戻され、円高・株安の流れが生じることになるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。