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野村総合研究所と
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銀行間の国際決済ネットワークである「国際銀行間通信協会(SWIFT)」と世界の30行以上の大手銀行は9月29日に、国際決済の即時実行と、新たなデジタル通貨に対応するために、ブロックチェーン(分散型台帳)を用いた「共有デジタル台帳」の構築に取り組んでいることを発表した。これによりSWIFTは、「スマートコントラクトを通じた取引の記録、順序付け、認証とルールの執行」ができるようになる、と説明している。
 
このプロジェクトには、JPモルガン、HSBC、ドイツ銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、BNPパリバ、サンタンデール、OCBCに加え、中東・アフリカの複数行など、世界の大手金融機関30行超が参画している。
 
米国では、ステーブルコインの規制整備を進めるジーニアス法が、7月に議会で成立した。さらにトランプ政権は、ドルの基軸通貨の地位を維持するために、ドル建てのステーブルコインの利用を国際決済分野に広げていく考えだ。
 
現在の国際資金決済は、主に銀行間送金で成り立っている。仮にドル建てのステーブルコインが広く利用されるようになれば、銀行の国際決済業務は減少し、利益とともにプレゼンスの観点からも銀行に打撃となる。
 
銀行のネットワークを用いた国際決済には、仲介者が多いこともあり、時間とコストがかかることが弱点だ。マネーロンダリング(資金洗浄)対策のチェックやその他の規制上の顧客確認にも時間がかかる。
 
その点、ブロックチェーン上で取引されるステーブルコインであれば、より低いコストでより迅速に決済を行うことができる。SWIFTは、ブロックチェーンを用いた決済システムを構築することで、こうした弱点を克服し、国際決済でステーブルコインの利用拡大に対抗しようとしている。これが完成すれば、現在は数日を要する国際決済が、24時間体制で即時に実行されるようになる。
 
さらにSWIFTは、ステーブルコイン、トークン化された銀行預金、中央銀行デジタル通貨(CBDC)といった新しいデジタル資産向けのシステムと、SWIFTの既存システムとを相互運用可能にすることも計画している。
 
国際決済システムは、既存の銀行間決済にデジタル決済が挑む構図となっているが、SWIFTがデジタル決済を取り込む形で既存のシステムを発展させていけば、銀行とデジタルが融合する新たな決済システムとなっていくだろう。
 
(参考資料)
「SWIFTと30超の大手銀、国際決済即時化へ 分散型台帳活用」、2025年9月29日、ロイター通信ニュース
「SWIFT、決済にブロックチェーン導入 ステーブルコインに対抗」、2025年10月1日、NIKKEI FT the World

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。