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政府閉鎖は解決のめどが立たず

米議会上院では8日に、政府機関への予算措置に関する6回目の採決が実施されたが、共和党案と民主党案の両方が否決された。政府閉鎖は解決のめどが立たず、2週目に入った。
 
ブルームバーグ通信によると、連邦政府の職員25万人以上に対する給与が未払いとなっており、政府閉鎖が続けば、さらに200万人の職員が無給となる見通しだという。政府閉鎖で一時帰休となった職員への未払い給与を支払わない可能性を政権が検討している、との報道もある。無給で勤務を強いられている連邦職員が病気を理由にして欠勤する例も増えており、空港の人員不足による航空便の遅延や各地の国立公園での一部施設の利用が制限されるなどの混乱が既に出ている。
 
トランプ政権は、政府閉鎖とともに連邦職員の大量解雇を行う考えを示している。複数の政権当局者は、数千人の連邦職員の解雇を検討していると述べている。連邦職員の労働組合は、トランプ大統領の大量解雇をちらつかせるこうした脅しが「違法」として政権を提訴した。

世論と金融市場の動向が政府閉鎖終了の鍵に

政府閉鎖が続く中、共和党議員からはトランプ大統領を批判する声も上がってきた。共和党のジョン・スーン上院院内総務、その他の共和党幹部議員らは、広範囲にわたる政府支出削減と解雇は国民の反発を招き、共和党が有権者から批判される恐れがあるとしてトランプ大統領を諫めたとされる。

他方でトランプ大統領は、民主党がつなぎ法案の可決を拒否する背景にある医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)の補助金延長について民主党と協議していると述べ、一部の共和党議員を動揺させた。保守派を中心に共和党議員らは、民主党とのいかなる交渉も民主党がつなぎ予算を可決し、政府閉鎖が解消された後に行われるべきとの主張で結束している。

ただし、一部の穏健派共和党議員はプログラムの範囲を狭め、悪用を防ぐ変更と組み合わせた延長を望んでいる。政府閉鎖を巡っては、トランプ大統領と共和党議員、そして共和党内部でも足並みの乱れが目立っている。

過去にも繰り返されてきた政府閉鎖は、世論の動向が解決の鍵を握る。政府閉鎖で国民生活を犠牲にしているとより批判される政党が、次の選挙などへの悪影響に配慮して譲歩するのが常だ。さらに、金融市場の動揺が強まれば、両党ともに歩み寄りをみせるきっかけともなる。

経済実態を政府統計で把握できない不安

米国市場では政府機関閉鎖の長期化による経済への悪影響が懸念されている。さらに、政府閉鎖によって政府の経済統計の発表が遅れていることも、経済実態が把握できないことへの不安を高め、金融市場の不安定化につながっている。特に、9月分雇用統計の発表が遅れていることは、金融市場にとって大きな懸念だ。
 
先月利下げ再開を決めた米連邦準備制度理事会(FRB)は、10月28~29日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)でも0.25%の利下げを決めるとの見方が強いが、雇用統計などで経済実態を正確に把握できないまま利下げを継続することへの不安も金融市場にはある。
 
そこで民間が発表する経済指標や民間の推計などがより注目を集めている。米プライベートエクイティ(PE)投資会社カーライル・グループは7日に、出資先企業のデータに基づき、9月の雇用は既に軟化していた8月の公式統計からさらに伸びが鈍化したとの試算を示した。出資先企業の従業員数などのデータを使い、労働統計局の過去の雇用統計との相関を加味して算出するカーライルの推計によると、9月の雇用増加数は1万7,000人で、既に弱かった8月の2万2,000人からさらに減少した。
 
政府閉鎖が長期化し、さらに連邦政府職員の解雇が実施されれば、米国の雇用情勢は一段と悪化する可能性がある。それでも、その実態を政府統計で正確に把握できない不安が金融市場ではより強まっていく可能性がある。
 
(参考資料)
“Republicans Caution White House on Inflicting Shutdown Pain(政府閉鎖の悪影響を抑制すべき、トランプ氏に共和幹部が助言)”, Wall Street Journal, October 9, 2025
「米政府閉鎖1週間 航空便遅延、観光地にも影響」、2025年10月9日、産経新聞 
「米労働市場の軟化、民間データも示唆」、2025年10月9日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。