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野村総合研究所と
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10日の東京市場では、日経平均株価が一時500円を上回る下落で4万8000円程度、ドル円レートが1ドル152円台となり、高市総裁の誕生を受けた週初めからの急速な円安・株高の流れが逆回転を始めた。いわゆる「高市トレード」の巻き戻しである。
 
そのきっかけとなったのは、公明党が連立を離脱するとの観測が生じたことだ。金融市場は、本日行われる自公党首会談での連立協議の行方を見守っている。本日の会談でも結論が先送りされる可能性があり、その場合には「高市トレード」の巻き戻しの動きはさらに強まるだろう。
 
仮に公明党が連立の離脱を決めれば、野党は立憲民主党、国民民主党、日本維新の会を中核とする連立政権を新たに設立する可能性がある。政権樹立には、衆院での首班指名の決戦投票でより多数の支持を得る必要がある。現在の衆議院の議席は、自公の合計で220議席、野党3党の合計で210議席である。仮にれいわ新選組の9議席が加わっても、自公の議席を上回ることはない。8議席を持つ日本共産党や3議席を持つ右派色の強い参政党などの政党が野党連合に加わる可能性は低いだろう。つまり、公明党が連立にとどまる限り、高市新政権が成立する可能性が高い。
 
他方、公明党が連立の離脱を決めれば、仮に公明党が野党連合に加わらず、首班指名選挙で棄権票を投じても、自民党の票は196にとどまり、野党3党の210票を下回る。立憲民主党は、野田代表ではなく国民民主党の玉木代表を首班に指名することを選択肢に入れて、国民民主党、日本維新の会に首班指名で統一候補を支援することを呼びかけている。その場合、野党3党を中核とする新たな連立政権が生まれ、自民党は野党となり、高市総裁は首相ではなく、野党の総裁にとどまる。
 
このような可能性が浮上してきたことから、高市総裁が掲げる積極財政、金融緩和継続が実現するとの期待で進んできた円安・株高の「高市トレード」に巻き戻しの動きが出てきたのである。
 
仮に公明党が連立にとどまり、高市政権が発足しても、高市氏の政策は従来以上に公明党に配慮したものとなり、高市カラーは弱められる。また、公明党が連立を外れる一方、野党が首相候補の一本化に失敗する場合には、自民党単独で高市政権が発足する。しかしその場合、現在よりも議席を減らした少数与党となり、政策運営は石破政権よりも行き詰まることになるだろう。そして、野党の連立政権が成立すれば、高市氏が掲げる経済政策はほぼ実現することがなくなり、「高市トレード」は完全に巻き戻される。
 
先週末時点でのドル円レートは1ドル147円台、日経平均株価は4万4000円台だった。「高市トレード」が本格的に巻き戻される場合、円高・株安はそれ以上に進むだろう。「高市トレード」は、石破首相が退陣を表明した9月7日時点で既に始まっていたからだ。その前日のドル円レートは1ドル147円台、日経平均株価は4万2000円台だった。仮にその水準まで株価が短期間で下落するならば、10%を超える下落幅となり、暴落と受け止められる可能性がある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。