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中国への100%追加関税の表明で内外の金融市場は動揺

トランプ米大統領は10日に、中国からの輸入品に追加で100%の関税をかける考えを示した。加えて、必要不可欠なソフトウエア製品に新たな輸出規制を導入する構えも示している。実施は11月1日となる。トランプ大統領は、10月末で調整してきた中国の習近平国家主席との首脳会談をキャンセルする可能性も示唆している。
 
トランプ政権が4月に相互関税を各国に課した際に、米国と中国の対立は激化し、それぞれ145%、125%の極めて高い税率の制裁関税をかけあった。その後、5月には両国間で関税の一時停止措置が合意され、激しい貿易面での対立は緩和方向にあると見られていた。
 
しかし今回の事態で、両国は再び貿易戦争に突入する可能性が出てきた。実際そうなれば、世界経済への影響も深刻になる。10日の米国金融市場では、このニュースを受けて株価が大幅に下落し、ドル安が進んだ。日本では、公明党の連立離脱とこの中国への100%の追加関税という2つの大きな悪材料が重なり、日経先物は10日の海外市場で2000円を超える下落となり、4万5千円台まで下落した。またドル円レートは151円程度まで円高が進んだ。

米中貿易戦争の再燃は回避される可能性も

トランプ政権が中国に対して100%の追加関税を課す考えを表明したのは、中国がレアアースの輸出規制を再び導入する計画を示したことへの対応だ。中国がなぜ、突然それを決めたのかは明らかではないが、米国が外資系企業に対する新たな規制を導入したことが理由との推測がある。
 
中国が輸出するレアアースは、半導体、電気自動車、ジェット戦闘機などの製造に必要であり、規制が再び導入されれば、米国の産業、経済に甚大な影響を与える。
 
中国はレアアースの輸出規制を12月1日に設定した。トランプ政権も、100%の追加関税の適用を11月1日に設定している。お互いに交渉の余地を残す狙いがあり、今後、両国が歩み寄る可能性はあるだろう。特にレアアースの輸出規制が米国に与える影響は甚大であることから、5月のように米国が譲歩することで決定的な対立が避けられることは十分に考えられるところだ。実際、トランプ大統領はその後に、中国との対立が回避できる可能性を示唆している。それでも今後の事態はなお不透明である。

トランプ関税の日本のGDPへの1年間の影響は海外要因も含め-0.85%に拡大

現在の相互関税全体が世界の実質GDPに与える影響は3年間で-0.62%、1年間では-0.21%程度と推定される(経済協力開発機構(OECD)によるモデル計算)。中国に100%の関税が課せられれば、それぞれ-1.00%、-0.33%へと悪影響は拡大する計算となる。
 
相互関税全体が他国の経済を通じて日本の実質GDPに与える影響は、3年間で-0.40%、1年間では-0.13%程度と推定される。中国に100%の関税が課せられれば、それぞれ-0.89%、-0.30%へと悪影響は拡大する計算となる。
 
15%の相互関税や自動車関税など、トランプ関税全体が日本の実質GDPに与える直接的な影響は1年程度で-0.55%と推定される。これに上記の他国の経済を通じた間接的な影響を加えると、実質GDPに与える影響は1年程度で-0.85%と計算される。中国への100%の追加関税によって、トランプ関税の日本経済への悪影響はかなり増幅されることになる。
 
(参考資料)
“Trump to Hit China With Additional 100% Tariff, Citing Restrictions on Rare-Earth Elements(トランプ氏、対中追加関税100%と表明 レアアース規制理由に)”, Wall Street Journal, October 11, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。