米連邦準備制度理事会(FRB)が15日に発表したベージュブック(地区連銀景況報告)は、米国経済の停滞が続いていることを示した。経済活動は前回の報告書から全体的にほとんど変化がなく、経済活動は3つの地区でわずかな成長から緩やかな増加、5つの地区で変化なし、4つの地区でわずかに軟化と報告されている。
9月末の税額控除の期限切れを前に、電気自動車(EV)の売上が伸びたが、個人消費全体はここ数週間で小幅に減少している。製造業の活動は地区によって異なるが、関税の引き上げと全体的な需要の減退による厳しい状況が広く報告されている。
労働需要は地区や部門全体で概ね鈍化した。ほとんどの地区では、レイオフや離職によって人員削減を報告する企業が増えており、需要の低迷、経済の不確実性の高まりが背景にある。一方、人工知能(AI)技術への投資の増加などが雇用増加をもたらしているとの指摘も一部にある。雇用増加を報告した企業でも、フルタイムの労働者ではなく、臨時労働者やパートタイム労働者の雇用を志向する傾向があると指摘された。
価格はさらに上昇した。関税による投入コストの増加は多くの地区で報告されたが、最終価格に転嫁される程度はさまざまだ。関税によるコスト圧力に直面している一部の企業は、市場シェアを維持し、価格に敏感な顧客からの反発に対応するため、販売価格をほぼ据え置いた。しかし、一部の製造業や小売業の企業は、輸入コストの上昇分を最終の販売価格に完全に転嫁しているという報告もある。いくつかの地区では、関税による輸入コストの上昇に加えて、保険、ヘルスケア、テクノロジーソリューションなどのサービスのコストの上昇が報告された。
今回のベージュブックの報告内容は、前回9月分と大きく変わっていない。雇用情勢の下方リスクが高まっている一方、消費の弱さが輸入物価上昇の小売価格への転嫁を阻み、関税による物価上昇は比較的限定的、一時的という側面がある。全体としては、FRBが雇用の下方リスクにより配慮した利下げを進めることを正当化する内容と考えられる。
一方、アトランタ連銀が公表しているGDPNowによれば、7-9月期の実質GDPの最新予測は前期比年率+3.8%とかなり上振れており、雇用関連統計の弱さやベージュブックが報告する定性的な経済状況とは大きく乖離している。景気判断は難しい局面にある。そうしたなか、当面の経済活動に影響を与えるのが、10月1日に始まった政府閉鎖の影響だ。
ベッセント米財務長官は15日に、2週間が経過した連邦政府機関閉鎖が米経済の根幹に悪影響を及ぼし始めたと指摘し、「1日当たり最大150億ドルの損失をもたらす可能性があると考えている」と語った。
この150億ドルという数字を用いて計算すると、2週間の政府閉鎖がもたらす経済損失は2100億ドルとなる。前回2018年12月から2019年1月にかけて生じた政府閉鎖は35日間続いた。仮に今回も同じ期間閉鎖が続く場合、経済損失は5,250億ドルとなる。この場合10-12月期の実質GDPは年率0.25%低下する計算となり、経済への打撃は顕著である。
9月末の税額控除の期限切れを前に、電気自動車(EV)の売上が伸びたが、個人消費全体はここ数週間で小幅に減少している。製造業の活動は地区によって異なるが、関税の引き上げと全体的な需要の減退による厳しい状況が広く報告されている。
労働需要は地区や部門全体で概ね鈍化した。ほとんどの地区では、レイオフや離職によって人員削減を報告する企業が増えており、需要の低迷、経済の不確実性の高まりが背景にある。一方、人工知能(AI)技術への投資の増加などが雇用増加をもたらしているとの指摘も一部にある。雇用増加を報告した企業でも、フルタイムの労働者ではなく、臨時労働者やパートタイム労働者の雇用を志向する傾向があると指摘された。
価格はさらに上昇した。関税による投入コストの増加は多くの地区で報告されたが、最終価格に転嫁される程度はさまざまだ。関税によるコスト圧力に直面している一部の企業は、市場シェアを維持し、価格に敏感な顧客からの反発に対応するため、販売価格をほぼ据え置いた。しかし、一部の製造業や小売業の企業は、輸入コストの上昇分を最終の販売価格に完全に転嫁しているという報告もある。いくつかの地区では、関税による輸入コストの上昇に加えて、保険、ヘルスケア、テクノロジーソリューションなどのサービスのコストの上昇が報告された。
今回のベージュブックの報告内容は、前回9月分と大きく変わっていない。雇用情勢の下方リスクが高まっている一方、消費の弱さが輸入物価上昇の小売価格への転嫁を阻み、関税による物価上昇は比較的限定的、一時的という側面がある。全体としては、FRBが雇用の下方リスクにより配慮した利下げを進めることを正当化する内容と考えられる。
一方、アトランタ連銀が公表しているGDPNowによれば、7-9月期の実質GDPの最新予測は前期比年率+3.8%とかなり上振れており、雇用関連統計の弱さやベージュブックが報告する定性的な経済状況とは大きく乖離している。景気判断は難しい局面にある。そうしたなか、当面の経済活動に影響を与えるのが、10月1日に始まった政府閉鎖の影響だ。
ベッセント米財務長官は15日に、2週間が経過した連邦政府機関閉鎖が米経済の根幹に悪影響を及ぼし始めたと指摘し、「1日当たり最大150億ドルの損失をもたらす可能性があると考えている」と語った。
この150億ドルという数字を用いて計算すると、2週間の政府閉鎖がもたらす経済損失は2100億ドルとなる。前回2018年12月から2019年1月にかけて生じた政府閉鎖は35日間続いた。仮に今回も同じ期間閉鎖が続く場合、経済損失は5,250億ドルとなる。この場合10-12月期の実質GDPは年率0.25%低下する計算となり、経済への打撃は顕著である。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。