各種報道によれば、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行は、ステーブルコインを共同で発行することを検討している。3行は同じ規格で互換性がある法人向けステーブルコインの枠組みを構築する。まずは、三菱商事の社内、社外の資金決済で使えるようにする。
当面は円建てのステーブルコインの発行から始め、将来はドル建てのステーブルコインも発行する計画だ。新興フィンテックのプログマのシステムを使う。実証実験を経て今年度内の実用化を見込んでいる。
金融庁は2023年6月に施行された改正資金決済法で、国内でのステーブルコインの発行、流通に関する法整備を行った。これに基づき、今年8月には新興フィンテックのJPYCが金融庁からステーブルコインの発行に必要な資金移動業の登録を受けた。ステーブルコイン発行者の第1号となる見込みだ。
ただし、JPYCが認可を受けた第二種資金移動業者というライセンスでは、送金の上限が一回100万円までとなっており、企業間決済にはほぼ使われない。今後は、個人の決済でJPYC、企業間決済でメガ3行、という棲み分けがなされていくだろう。
また、日本では法定デジタル通貨の中銀デジタル通貨(CBDC)の発行計画も進められている。これは現金を代替する個人の決済での利用を想定したものであり、仮にメガ3行が発行するステーブルコインの利用が企業間で拡大しても、両者は競合しない。
米国では今年7月にステーブルコインを規制するジーニアス法が成立し、そのもとで買い物などに使われるステーブルコインの発行が増加していくことが見込まれる。法整備で先行した日本では、ステーブルコインの発行が大幅に増加していくとの見通しはなされていなかった。その背景の一つには、ステーブルコインの信用力に対する利用者の不安があるだろう。ステーブルコインを発行する際には、発行者は法定通貨を準備資産として保有することが義務付けられている。発行者は四半期ごとに、その準備資産の構成、分別管理の状況、管理場所などを金融庁に報告することが求められる。しかし、それでもステーブルコインに対する信用は、100%は保証されない。発行者の信用力が低下すれば、利用者が保有するステーブルコインの価格が毀損される恐れが残るだろう。大手銀行以外の企業、特に規模の小さい企業がステーブルコインの発行者である場合には、こうした点から利用者はステーブルコインの利用を躊躇い、それがステーブルコインの発行拡大の妨げとなる可能性が日本にはあるように思われる。
この点から、メガ3行がステーブルコインを発行することになれば、日本でもステーブルコインの利用が広がる可能性が高まる。ブロックチェーン上で行われるステーブルコインによる決済は、銀行の決済手数料収入を大きく減らしてしまう。しかし、ステーブルコインの発行者は準備資産を保有するため、銀行が発行者となる場合にはその運用益が銀行の決済手数料収入の減少を相殺することが期待される。法定通貨の銀行預金や短期国債からなる準備資産の運用益は、この先、日本銀行の政策金利の引き上げが進む中でより高まり、それがステーブルコインの発行増加を促す可能性が考えられる。
(参考資料)
「3メガバンク、ステーブルコイン共同で発行 三菱商事が決済で利用へ-」、2025年10月17日、日本経済新聞電子版
当面は円建てのステーブルコインの発行から始め、将来はドル建てのステーブルコインも発行する計画だ。新興フィンテックのプログマのシステムを使う。実証実験を経て今年度内の実用化を見込んでいる。
金融庁は2023年6月に施行された改正資金決済法で、国内でのステーブルコインの発行、流通に関する法整備を行った。これに基づき、今年8月には新興フィンテックのJPYCが金融庁からステーブルコインの発行に必要な資金移動業の登録を受けた。ステーブルコイン発行者の第1号となる見込みだ。
ただし、JPYCが認可を受けた第二種資金移動業者というライセンスでは、送金の上限が一回100万円までとなっており、企業間決済にはほぼ使われない。今後は、個人の決済でJPYC、企業間決済でメガ3行、という棲み分けがなされていくだろう。
また、日本では法定デジタル通貨の中銀デジタル通貨(CBDC)の発行計画も進められている。これは現金を代替する個人の決済での利用を想定したものであり、仮にメガ3行が発行するステーブルコインの利用が企業間で拡大しても、両者は競合しない。
米国では今年7月にステーブルコインを規制するジーニアス法が成立し、そのもとで買い物などに使われるステーブルコインの発行が増加していくことが見込まれる。法整備で先行した日本では、ステーブルコインの発行が大幅に増加していくとの見通しはなされていなかった。その背景の一つには、ステーブルコインの信用力に対する利用者の不安があるだろう。ステーブルコインを発行する際には、発行者は法定通貨を準備資産として保有することが義務付けられている。発行者は四半期ごとに、その準備資産の構成、分別管理の状況、管理場所などを金融庁に報告することが求められる。しかし、それでもステーブルコインに対する信用は、100%は保証されない。発行者の信用力が低下すれば、利用者が保有するステーブルコインの価格が毀損される恐れが残るだろう。大手銀行以外の企業、特に規模の小さい企業がステーブルコインの発行者である場合には、こうした点から利用者はステーブルコインの利用を躊躇い、それがステーブルコインの発行拡大の妨げとなる可能性が日本にはあるように思われる。
この点から、メガ3行がステーブルコインを発行することになれば、日本でもステーブルコインの利用が広がる可能性が高まる。ブロックチェーン上で行われるステーブルコインによる決済は、銀行の決済手数料収入を大きく減らしてしまう。しかし、ステーブルコインの発行者は準備資産を保有するため、銀行が発行者となる場合にはその運用益が銀行の決済手数料収入の減少を相殺することが期待される。法定通貨の銀行預金や短期国債からなる準備資産の運用益は、この先、日本銀行の政策金利の引き上げが進む中でより高まり、それがステーブルコインの発行増加を促す可能性が考えられる。
(参考資料)
「3メガバンク、ステーブルコイン共同で発行 三菱商事が決済で利用へ-」、2025年10月17日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。