多くの経済政策を掲げるが優先順位と実行の時間軸は見えにくい
10月21日に高市政権が発足し、同日夜に高市首相は初の記者会見を開いた。高市首相は物価高対策の実施を最優先させるとし、記者会見直後の夜の閣議で、物価高を受けた経済対策を取りまとめるよう指示する考えを示した。
臨時国会で決まる可能性が高い即効性の高い経済対策は、現時点ではガソリン税の暫定税率廃止と電気・ガス補助金であるが、それ以外は不確実だ。高市首相は、自民党総裁選で掲げたように、国民民主党が主張する178万円までの基礎控除などの引き上げを行う考えを示したが、財源確保やその具体的な設計など不透明な部分が多く残る。
さらに、物価高で苦しむ中小企業、賃上げ税制の恩恵を受けていない中小企業への支援、農業への支援、7割が赤字の医療機関、福祉施設の支援などについて高市首相は総裁選でも掲げており、今回の記者会見でもそれを繰り返した。こうした支援策も臨時国会での経済対策に含まれる可能性はある。
さらに高市首相は、持論である防災、食料・エネルギー安全保障のための政府投資など、危機管理投資の実施も強調した。こうした施策がすべて臨時国会の経済対策に盛り込まれる場合には、そのコストは膨大になると見られるが、税収の上振れなどでは賄いきれない。その財源をどのように確保するかは、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」の実態を示す試金石になるだろう。
日本維新の会との幅広い合意事項、危機管理型投資といった高市首相の持論の経済政策、野党との連携を視野に入れて総裁選で幅広く掲げた他の野党の減税策などの経済政策の3点が現時点では混在しており、高市政権としての経済政策の優先度や実施の時間軸などが見えにくくなってしまっている印象は否めない。
臨時国会で決まる可能性が高い即効性の高い経済対策は、現時点ではガソリン税の暫定税率廃止と電気・ガス補助金であるが、それ以外は不確実だ。高市首相は、自民党総裁選で掲げたように、国民民主党が主張する178万円までの基礎控除などの引き上げを行う考えを示したが、財源確保やその具体的な設計など不透明な部分が多く残る。
さらに、物価高で苦しむ中小企業、賃上げ税制の恩恵を受けていない中小企業への支援、農業への支援、7割が赤字の医療機関、福祉施設の支援などについて高市首相は総裁選でも掲げており、今回の記者会見でもそれを繰り返した。こうした支援策も臨時国会での経済対策に含まれる可能性はある。
さらに高市首相は、持論である防災、食料・エネルギー安全保障のための政府投資など、危機管理投資の実施も強調した。こうした施策がすべて臨時国会の経済対策に盛り込まれる場合には、そのコストは膨大になると見られるが、税収の上振れなどでは賄いきれない。その財源をどのように確保するかは、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」の実態を示す試金石になるだろう。
日本維新の会との幅広い合意事項、危機管理型投資といった高市首相の持論の経済政策、野党との連携を視野に入れて総裁選で幅広く掲げた他の野党の減税策などの経済政策の3点が現時点では混在しており、高市政権としての経済政策の優先度や実施の時間軸などが見えにくくなってしまっている印象は否めない。
日本銀行の利上げに慎重な姿勢は現時点では変わらず
記者会見で、日本銀行の金融政策への対応についての質問に対しては、高市首相は総裁選での発言を繰り返した。金融政策についても政府が責任を持つのが良いとしており、日本銀行には具体的な政策手段の選択は任せるが、政策方針の決定には政府が関与する考えを示唆した。
高市首相は、日本銀行の政策は政府の経済政策と整合的であることや、政府と十分な意思疎通を行うことを求める日本銀行法第4条を根拠に、このような主張をしている。しかし実際には、政策手段の選択のみならず、政策方針の決定は日本銀行が独立した立場で実施することが日本銀行法の本来の主旨と考えられる。また、政府と日本銀行の共同声明の見直しについては必要ない、と高市首相は質問に答えた。
記者会見での高市首相の発言を踏まえると、高市政権の下で日本銀行が金融政策決定のフリーハンドを得るためには、一定期間の対話を通じて日本銀行が高市首相を説得する時間が必要となるだろう。10月の金融政策決定会合では新政権との決定的な対立を避け、またその姿勢をうかがう観点から、日本銀行は追加利上げを見送る可能性が高い。ただし、今年12月の会合では0.25%の利上げは可能となるのではないか。
財務相に任命された片山さつき氏は、2025年3月のロイターのインタビューで、「ドル円レートは120円台の時期が長かったので、120円から130円が実力」「物価高の沈静化に向けて円高進行が望ましい」など円高を望む見解を述べていた。同氏は、政府が日本銀行の利上げを牽制することで円安が進み、物価高を助長して国民生活を苦しめてしまうことを懸念する可能性があるだろう。またインタビューでは、厳しい経済状況ではあるが、日本銀行が絶対に金利を上げられない状況ではない、と利上げを容認する姿勢も見せていた。
日本維新の会や政権の後ろ盾である麻生派が日本銀行の独立性を尊重する基本姿勢であることからも、日銀の利上げを牽制する高市政権の姿勢は今後次第に修正されていくことを予想したい。こうした姿勢の修正は、円安修正につながるだろう。
高市首相は、日本銀行の政策は政府の経済政策と整合的であることや、政府と十分な意思疎通を行うことを求める日本銀行法第4条を根拠に、このような主張をしている。しかし実際には、政策手段の選択のみならず、政策方針の決定は日本銀行が独立した立場で実施することが日本銀行法の本来の主旨と考えられる。また、政府と日本銀行の共同声明の見直しについては必要ない、と高市首相は質問に答えた。
記者会見での高市首相の発言を踏まえると、高市政権の下で日本銀行が金融政策決定のフリーハンドを得るためには、一定期間の対話を通じて日本銀行が高市首相を説得する時間が必要となるだろう。10月の金融政策決定会合では新政権との決定的な対立を避け、またその姿勢をうかがう観点から、日本銀行は追加利上げを見送る可能性が高い。ただし、今年12月の会合では0.25%の利上げは可能となるのではないか。
財務相に任命された片山さつき氏は、2025年3月のロイターのインタビューで、「ドル円レートは120円台の時期が長かったので、120円から130円が実力」「物価高の沈静化に向けて円高進行が望ましい」など円高を望む見解を述べていた。同氏は、政府が日本銀行の利上げを牽制することで円安が進み、物価高を助長して国民生活を苦しめてしまうことを懸念する可能性があるだろう。またインタビューでは、厳しい経済状況ではあるが、日本銀行が絶対に金利を上げられない状況ではない、と利上げを容認する姿勢も見せていた。
日本維新の会や政権の後ろ盾である麻生派が日本銀行の独立性を尊重する基本姿勢であることからも、日銀の利上げを牽制する高市政権の姿勢は今後次第に修正されていくことを予想したい。こうした姿勢の修正は、円安修正につながるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。