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ガソリン税の暫定税率12月31日廃止で与野党が合意

10月31日に与野党6党の税制実務者は、ガソリン税の暫定税率を12月31日に廃止することで合意した。高市政権は当初、廃止時期を来年2月1日まで遅らせることを提案していたが、最終的には野党に歩み寄った形だ。ガソリン税の暫定税率で野党に譲歩することで、その他多くの項目を含む補正予算の編成で野党の協力を得やすくする狙いもあったとみられる。
 
現在、ガソリンには1リットル当たり10円の補助金が支給されているが、最終的にこの補助金も廃止される。ガソリン暫定税率の廃止で1リットル当たり25.1円分、ガソリン価格は低下するが、同時に10円分の補助金が廃止されるため、実質的には15.1円の減税措置となる。
 
ガソリン小売価格の大きな変動を避けるために、11月13日からガソリンへの補助金を積み増していき、12月11日に暫定税率と同額分まで引き上げたうえで、12月31日に暫定税率と補助金がともに廃止される。
 
軽油についても、11月13日から補助金を積み増して、11月27日に軽油引取税の暫定税率(1リットル17.1円)と同額となるようにする。そのうえで、軽油引取税の暫定税率は補助金とともに2026年4月1日に廃止される。

暫定税率の廃止は1.5兆円の減税規模

暫定税率の廃止はガソリン税で年に約1兆円、軽油引取税で年に約5000億円、合計で1兆5000億円程度の税収減になる。その財源については決まっていないが、法人税の租税特別措置や高所得者の負担の見直しが検討されており、年末までに結論を得るとされる。
 
大企業に恩恵が多いとされる租税特別措置では、賃上げ税制や研究開発税制の縮小などが検討されるとみられる。また、高所得者の負担の見直しについては、金融所得が10億円超などの超高額所得者に対して、金融所得課税を強化する案などが検討される見通しだ。

家計負担は世帯当たり4,907円軽減される

資源エネルギー庁によると、10月27日時点でのレギュラーガソリンの全国平均は1リットル173.5円だった。10円分の補助金がなければ183.5円である。ここから、10円分の補助金と25.1円の暫定税率がともに廃止されれば、ガソリン価格は1リットル158.4円へと現状から8.7%下がる計算となる。
 
総務省の家計調査によると、2024年の総世帯の世帯当たりガソリン購入額は5万6,408円だった。これが8.7%分下がるとすれば、ガソリン購入額は年間4,907円減少し、家計の負担はその分軽減される計算となる。またこの1.5兆円の恒久減税措置により、実質GDPは+0.25%押し上げられる計算だ。

物価高による家計への打撃の16.3%分を軽減

他方、最新9月分で前年同月比+2.9%の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は、世帯に年間87,323円の負担になっていると計算できる。また、最新8月の所定内賃金の前年比上昇率+1.9%に基づいて、賃金上昇で相殺しきれない部分の物価高の世帯当たりの負担は年間30,112円となる。
 
ガソリン暫定税率廃止によって家計の物価高の打撃を相殺できる割合は、16.3%に過ぎない計算となる。

所得税制の改正は喫緊の課題

補正予算編成で実施される本格的な物価高対策はガソリン暫定税率廃止となる見通しであり、その場合、物価高対策としては小粒で力不足だ。自民党と日本維新の会との連立合意の中で実施しないことが決まったが、低所得層に絞った給付金は、即効性のある物価高対策としては検討すべきではなかったか。
 
また、物価高による所得税負担の増加を緩和することが喫緊の課題であり、所得税の課税最低限や税率区分を物価に連動させる制度改正を早急に検討すべきだ。
 
今後も物価高から国民生活を守るためには、所得税の課税最低限引き上げ(いわゆる年収の壁対策)、給付付き税額控除制度導入などよりも、こうした制度改正を優先的に実施すべきだろう。
 
(参考資料)
「焦点:ガソリン暫定税率廃止 13日から段階引き下げ 野党「結束」折れた自民 来年2月に先送り案、空回り」、2025年11月1日、毎日新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。