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政府閉鎖8週間で10-12月期実質GDPは前期比年率2%低下

共和党と民主党の対立を背景に、つなぎ予算が成立しないために生じている米国の政府機関閉鎖の期間は、11月4日で過去最長記録の35日に並んだ。
 
議会予算局(CBO)の試算によると、政府閉鎖が6週間、つまり11月中旬まで続く場合には、経済損失は280億ドルに達し、10-12月期の実質GDPは前期比年率1.5%押し下げられる。また閉鎖が8週間、つまり11月27日の感謝祭まで続く場合には、経済損失は390億ドルに達し、10-12月期の実質GDPは前期比年率2.0%押し下げられる計算だ。
 
過去の政府閉鎖や政府債務上限引き上げ問題は、金融市場が混乱するか、あるいは世論が共和党と民主党のどちらかへの批判を強め、より批判を受けた政党が次の選挙などへの悪影響に配慮して譲歩することで解消に向かうことが多かった。しかし現状では、世論が政府閉鎖をどちらかの政党の責任と考えているのかは明らかではない。
 
それでも政府閉鎖は、国民がトランプ大統領への批判を強める要因になっている。米CNNテレビは11月3日、トランプ大統領の支持率が37%で1月の2期目就任後最低を記録したとの世論調査の結果を発表した。不支持率は63%で、1期目と2期目を通じて最高水準となった。また、政府閉鎖を危機あるいは問題だと答えた人は計81%で、さらに61%がこの問題でトランプ大統領の対応を支持しないとした。

新たなつなぎ予算案が作成されるか

政府閉鎖問題で共和、民主両党の譲歩を阻んでいる一因は選挙であるとされてきた。しかし、4日にはニューヨーク市長選のほか、ニュージャージー州とバージニア州の知事選などの多くの選挙が終わったことから、今後は両党が歩み寄るとの見方もある。
 
しかしこれまで下院が13回の採決を行い、民主党が否決してきたつなぎ予算案は、11月21日までのものであり、もはや期限が短すぎる。そこで、新たなつなぎ予算案が作られると見られるが、その場合には、民主党にとっては新たな要求を盛り込む機会を得ることになる。
 
今まで民主党は、2025年末に期限切れを迎える医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)の税額控除の延長を要求してきた。これによって国民が民間医療保険を購入するのを後押ししたい考えである。
 
共和党が新たなつなぎ予算案を作成する場合には、政府閉鎖で一時帰休となった連邦職員への給与補償やその他の保護措置などが検討課題となり得る。これが、共和党と民主党の対立をさらに煽る形となってしまう可能性もあるだろう。
 
既に見たように、政府閉鎖が長期化すると、打ち切られるプログラムも増えてくるため、経済への悪影響は加速度的に高まる。政府機関の閉鎖中は、雇用統計など重要な経済指標の発表がなされないため、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策判断には大きな支障となる。
 
しかし、政府閉鎖の長期化自体が経済の下方リスクを高めることになるため、それはFRBによる利下げを後押しする要因となるだろう。
 
(参考資料)
「トランプ氏支持37%で最低-CNN、2期目就任後不支持最高」、2025年11月4日、共同通信ニュース
「米政府閉鎖、米経済に最大140億ドルの損失=議会予算局」、2025年10月29日、ロイター通信ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。