未来を創造するための投資にかかる新しい財源
高市首相は5日の衆院本会議で、防衛力強化、子育て、教育、科学技術予算について、「リスクを最小化し、未来を創造するための投資にかかる新しい財源調達の在り方」を前向きに検討していると述べた。また、それらを「教育国債」や「防衛国債」との名称を使うか否かは未定、と述べている。
長期にわたって利用できる道路を建設するような公共投資は、将来世代がそこから利益を得ることから、将来世代にも相応の負担を求めるのは適切だ。こうした考えの下で発行されているのが「建設国債」である。
しかし、防衛力強化、子育て、教育、科学技術予算については、将来世代が得る利益は明確ではなく、主に現役世代が利益を得る。そのため、これらの予算を賄うために発行する国債は財政法で認められている建設国債ではなく、財政法自体は発行を認めていない「赤字国債」となる。
「教育国債」、「防衛国債」、その他の名称を新たに検討するというのは、名称を変えることで実質的な赤字国債の発行のハードルを下げることを目指すものだろう。しかしそれは、財政健全化の観点からは適切ではない。
長期にわたって利用できる道路を建設するような公共投資は、将来世代がそこから利益を得ることから、将来世代にも相応の負担を求めるのは適切だ。こうした考えの下で発行されているのが「建設国債」である。
しかし、防衛力強化、子育て、教育、科学技術予算については、将来世代が得る利益は明確ではなく、主に現役世代が利益を得る。そのため、これらの予算を賄うために発行する国債は財政法で認められている建設国債ではなく、財政法自体は発行を認めていない「赤字国債」となる。
「教育国債」、「防衛国債」、その他の名称を新たに検討するというのは、名称を変えることで実質的な赤字国債の発行のハードルを下げることを目指すものだろう。しかしそれは、財政健全化の観点からは適切ではない。
建設国債と赤字国債の違いは?
教育国債の発行は、国民民主党が長らく提案してきた政策だ。教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的な経費であることから、赤字国債とは区別した教育国債の発行でその財源を賄えるように財政法を改正して、これらの支出を公債発行対象経費とすることを主張してきた。そのうえで、教育国債を毎年5兆円発行し、教育・科学技術予算を年間10兆円規模に倍増させることを、昨年の衆院選の公約に掲げた。
現在、教育国債というものは存在しない。国債には、普通国債とそれ以外の国債(財投債、出資・拠出国債、交付国債等)があるだけだ。そして普通国債には、建設国債、特例国債(赤字国債)、復興国債がある。ただし、国債の大半は建設国債、特例国債(赤字国債)である。
国債発行による資金調達自体、例外的措置と法的には位置付けられている。財政法第4条第1項は、「国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入をもって賄うこと」と規定しているが、ただし書きにより公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、例外的に国債発行又は借入金により調達することが認められている。この財政法第4条第1項ただし書きに基づいて発行される国債が建設国債である。
建設国債は60年で償還されるルールとなっている。60年かけて償還することで、将来の人が支払う税金もその償還財源に使われる。公共事業の結果作られる道路や設備などは、将来の人も使うものであることから、将来世代もそれを負担することが正当化されるのである。
建設国債を発行しても、なお歳入が不足すると見込まれる場合には、政府は公共事業費以外の歳出に充てる資金を調達することを目的に、特例公債法に基づき、国債を発行する。これが特例国債であり、赤字国債とも呼ばれる。
建設国債の発行自体が例外的なものであるが、まさに例外中の例外であるのが赤字国債だ。それにもかかわらず、赤字国債は1994年度以降、財政赤字の穴を埋めるために毎年発行されている。例外的なものが常態化してしまっている。さらに、この赤字国債にも建設国債と同様に60年償還ルールが適用され、60年かけて償還することが認められているが、それを正当化する根拠は乏しいだろう。
現在、教育国債というものは存在しない。国債には、普通国債とそれ以外の国債(財投債、出資・拠出国債、交付国債等)があるだけだ。そして普通国債には、建設国債、特例国債(赤字国債)、復興国債がある。ただし、国債の大半は建設国債、特例国債(赤字国債)である。
国債発行による資金調達自体、例外的措置と法的には位置付けられている。財政法第4条第1項は、「国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入をもって賄うこと」と規定しているが、ただし書きにより公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、例外的に国債発行又は借入金により調達することが認められている。この財政法第4条第1項ただし書きに基づいて発行される国債が建設国債である。
建設国債は60年で償還されるルールとなっている。60年かけて償還することで、将来の人が支払う税金もその償還財源に使われる。公共事業の結果作られる道路や設備などは、将来の人も使うものであることから、将来世代もそれを負担することが正当化されるのである。
建設国債を発行しても、なお歳入が不足すると見込まれる場合には、政府は公共事業費以外の歳出に充てる資金を調達することを目的に、特例公債法に基づき、国債を発行する。これが特例国債であり、赤字国債とも呼ばれる。
建設国債の発行自体が例外的なものであるが、まさに例外中の例外であるのが赤字国債だ。それにもかかわらず、赤字国債は1994年度以降、財政赤字の穴を埋めるために毎年発行されている。例外的なものが常態化してしまっている。さらに、この赤字国債にも建設国債と同様に60年償還ルールが適用され、60年かけて償還することが認められているが、それを正当化する根拠は乏しいだろう。
教育国債、防衛国債には無理がある
国民民主党は、財政法の改正を通じて、教育関連の支出を賄う国債に、建設国債と同様のステータスを与えようとしている。高市首相はさらに、防衛力強化、子育て、科学技術予算などにも幅広くそうした考えを適用し、国債発行による資金調達をより容易にする意図を持っているのだろう。
繰り返しになるが、建設国債は、将来世代も享受する政府サービスは将来世代も負担するのが適切、という考えに基づき発行されるものだ。しかし、教育、防衛、子育て関連、科学技術などの政府サービスは、主に現役世代が享受するものであり、現役世代がその対価を税金で支払うことが適切だ。
国民民主党は「教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的な経費」と説明している。高市首相は、国防費については、国民の安全を守ることで、将来の成長や税収を保障する経費であるため、赤字国債とは異なる、等と主張するのかもしれないが、その法解釈には無理がある。そのため、財政法の改正は困難だろう。
財政法を改正せずに、ニックネームのように名称だけ変えることは可能であるかもしれないが、名称だけ変えてもその実態が赤字国債であることは変わらない。名称を変えることで赤字国債発行を容易にしようとする取り組みは、「責任ある積極財政」とは言えないだろう。
繰り返しになるが、建設国債は、将来世代も享受する政府サービスは将来世代も負担するのが適切、という考えに基づき発行されるものだ。しかし、教育、防衛、子育て関連、科学技術などの政府サービスは、主に現役世代が享受するものであり、現役世代がその対価を税金で支払うことが適切だ。
国民民主党は「教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的な経費」と説明している。高市首相は、国防費については、国民の安全を守ることで、将来の成長や税収を保障する経費であるため、赤字国債とは異なる、等と主張するのかもしれないが、その法解釈には無理がある。そのため、財政法の改正は困難だろう。
財政法を改正せずに、ニックネームのように名称だけ変えることは可能であるかもしれないが、名称だけ変えてもその実態が赤字国債であることは変わらない。名称を変えることで赤字国債発行を容易にしようとする取り組みは、「責任ある積極財政」とは言えないだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。