物価高対策の柱はガソリン暫定税率廃止、電気・ガス補助金、「おこめ券」活用
政府は月内をめどに、経済対策のとりまとめ作業を進めている。物価高対策の柱となるのは、ガソリン暫定税率廃止、電気・ガス補助金、「おこめ券」活用、の3つとなりそうだ。
ガソリンと軽油の補助金を段階的に増やした上で、ガソリンは12月31日に、軽油は来年4月1日に、それぞれ暫定税率を廃止する。減税規模は1.5兆円だ。世帯当たりの年間負担軽減額は4,900円程度と推定される。実質GDPを0.12%程度押し上げると推計される(図表)。
電気・ガス補助金は来年1月から3月までの3か月間実施される見込みだ。その具体的な中身は明らかでないが、今年1月から2月に実施されたものと同様に、電気料金▲2.5円/kWh、都市ガス料金 ▲10円/㎥の場合、両者の合計で月額1,300円の補助となる。3月は補助金が半減される場合、3か月間の合計は3,250円となる。この措置は総額1.0兆円程度、実質GDPを0.04%程度押し上げると推計される。
政府は、コメの高騰への対応として「おこめ券」の活用を経済対策に盛り込む方向だ。一部の自治体は既に、重点支援地方交付金を活用しておこめ券を配布している。政府はこの交付金を拡充し、「おこめ券」の活用を推奨事業として明確に位置付ける。
ただ、おこめ券の配布には事務費や輸送費などがかかり、おこめ券として使える額の1.5倍程度の事業費がかかる例もあるという。そのため、「おこめ券」の活用に慎重な自治体も少なくなく、国が強制できない中でどの程度活用が広がるかは不透明だ。
また、「おこめ券」の活用は、コメの価格を安定化させる政策の転換との受け止めから、コメ価格の高止まりへの不満が消費者の間で高まる可能性もあるだろう。
ガソリンと軽油の補助金を段階的に増やした上で、ガソリンは12月31日に、軽油は来年4月1日に、それぞれ暫定税率を廃止する。減税規模は1.5兆円だ。世帯当たりの年間負担軽減額は4,900円程度と推定される。実質GDPを0.12%程度押し上げると推計される(図表)。
電気・ガス補助金は来年1月から3月までの3か月間実施される見込みだ。その具体的な中身は明らかでないが、今年1月から2月に実施されたものと同様に、電気料金▲2.5円/kWh、都市ガス料金 ▲10円/㎥の場合、両者の合計で月額1,300円の補助となる。3月は補助金が半減される場合、3か月間の合計は3,250円となる。この措置は総額1.0兆円程度、実質GDPを0.04%程度押し上げると推計される。
政府は、コメの高騰への対応として「おこめ券」の活用を経済対策に盛り込む方向だ。一部の自治体は既に、重点支援地方交付金を活用しておこめ券を配布している。政府はこの交付金を拡充し、「おこめ券」の活用を推奨事業として明確に位置付ける。
ただ、おこめ券の配布には事務費や輸送費などがかかり、おこめ券として使える額の1.5倍程度の事業費がかかる例もあるという。そのため、「おこめ券」の活用に慎重な自治体も少なくなく、国が強制できない中でどの程度活用が広がるかは不透明だ。
また、「おこめ券」の活用は、コメの価格を安定化させる政策の転換との受け止めから、コメ価格の高止まりへの不満が消費者の間で高まる可能性もあるだろう。
図表 経済対策の経済効果試算


防衛費増額と「危機管理投資」の拡大
物価高対策以外では、防衛費(関連費を含む)の名目GDP比率を2%まで引き上げる防衛費増強計画を2年前倒しで達成するため、約1.3兆円の予算を積み増すと見られる。それは、実質GDPを0.07%程度押し上げると試算される。
また、企業による大型投資を促すため「大胆な設備投資促進税制」の創設が検討されている。設備投資の費用を減価償却費として初年度に一括して計上できる「即時償却」の導入が検討されているとされる。
さらに、高市首相の看板政策である「危機管理投資」の拡大も補正予算に盛り込まれる見通しだ。高市首相はAI・半導体、造船、量子、エネルギー安全保障といった17の戦略分野を定め、来夏に成長戦略をとりまとめる方針を示していた。その一部を前倒しで実施するとみられる。
昨年の石破政権下での経済対策は、「真水」にあたる国の一般会計13.9兆円、事業規模39.0兆円であったが、今回の経済対策は「真水」で20兆円を超えるなど、規模が大幅に拡大する可能性がある。
また、企業による大型投資を促すため「大胆な設備投資促進税制」の創設が検討されている。設備投資の費用を減価償却費として初年度に一括して計上できる「即時償却」の導入が検討されているとされる。
さらに、高市首相の看板政策である「危機管理投資」の拡大も補正予算に盛り込まれる見通しだ。高市首相はAI・半導体、造船、量子、エネルギー安全保障といった17の戦略分野を定め、来夏に成長戦略をとりまとめる方針を示していた。その一部を前倒しで実施するとみられる。
昨年の石破政権下での経済対策は、「真水」にあたる国の一般会計13.9兆円、事業規模39.0兆円であったが、今回の経済対策は「真水」で20兆円を超えるなど、規模が大幅に拡大する可能性がある。
財政政策の効率性と財政規律に課題
その際には、財政政策の効率性と財政規律が大きく損なわれる恐れがある。今回の経済対策には、ガソリン暫定税率廃止等の恒久的な減税措置が含まれる。それに対して恒久的な財源を充てられない場合には、長期的な財政悪化懸念が強まるだろう。
「危機管理投資」とされる政府の投資拡大は概して効率が低く、民間の投資を誘発するような波及効果も小さくなりやすい。またそれは一時的な需要増加で終わる傾向がある一方、巨額な政府債務を残し、中長期的な経済成長を阻害してしまう恐れもある。
中長期的な財政健全化への姿勢が後退したと受け止められれば、長期金利の上昇や物価高を助長する円安を引き起こし、経済対策の経済効果を相殺してしまう可能性もある。
成長期待で決まる面が強い企業の投資が、減税措置によってどの程度促されるかも疑問だ。政府の投資拡大、減税策、補助金の増額などによって企業が政府に依存する傾向が強まれば、成長力強化につながるような企業の投資は逆に委縮してしまう可能性もあるのではないか。経済対策では、こうした問題点に十分配慮することが求められる。
(参考資料)
「大胆な減税」成長投資促す AIなど17分野 複数年度で予算措置 高市政権、初の経済対策」、2025年11月9日、日本経済新聞
「おこめ券:経済対策に「おこめ券」 地方交付金を拡充 政府方針」、2025年11月9日、毎日新聞
「危機管理投資」とされる政府の投資拡大は概して効率が低く、民間の投資を誘発するような波及効果も小さくなりやすい。またそれは一時的な需要増加で終わる傾向がある一方、巨額な政府債務を残し、中長期的な経済成長を阻害してしまう恐れもある。
中長期的な財政健全化への姿勢が後退したと受け止められれば、長期金利の上昇や物価高を助長する円安を引き起こし、経済対策の経済効果を相殺してしまう可能性もある。
成長期待で決まる面が強い企業の投資が、減税措置によってどの程度促されるかも疑問だ。政府の投資拡大、減税策、補助金の増額などによって企業が政府に依存する傾向が強まれば、成長力強化につながるような企業の投資は逆に委縮してしまう可能性もあるのではないか。経済対策では、こうした問題点に十分配慮することが求められる。
(参考資料)
「大胆な減税」成長投資促す AIなど17分野 複数年度で予算措置 高市政権、初の経済対策」、2025年11月9日、日本経済新聞
「おこめ券:経済対策に「おこめ券」 地方交付金を拡充 政府方針」、2025年11月9日、毎日新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。