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OTC類似薬の保険適用外は実現に近いか

自民党と日本維新の会は11月12日に、社会保障制度改革を検討する協議体の初会合を開いた。
 
両党は連立合意書の中では、1)現役世代の負担増を抑制し、社会保障制度の持続可能性を確保するために抜本的な改革を推進すること、2)医療・介護・年金を含む制度全体の効率化と公平性を重視すること、3)改革を段階的に進め2025年度中に骨子を合意、2026年度に制度設計を行い、順次実施していくこと、が記されている。
 
日本維新の会は7月の参院選挙で、「医療費を4兆円削減し、現役世代一人あたりの社会保険料を6万円軽減する」ことを公約に掲げた。協議体では、社会保障制度の中でも特にこの医療制度の改革が大きな論点となっており、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、年齢によらない真に公平な応能負担の原則、診療報酬の改定の3点が議論の中心となっている。
 
日本維新の会は、市販薬と成分や効果が似る「OTC類似薬」を保険適用から外すことで、医療費の削減につなげることを主張してきた。患者が自ら購入せず、病院で診察を受けて保険適用のOTC類似薬の処方を受ければ、自己負担は1割から3割で済む。これが、過剰な受診と医療費の増加、そして保険料の上昇につながっていると考えているためだ。
 
OTC類似薬は湿布薬や保湿剤、抗アレルギー薬、便秘薬など約7000品目あり、比較的軽い症状に対する薬剤が多い。これを保険適用から外す場合には、健康保険組合連合会によると、OTC類似薬と診療代などを含めた医療費削減額は1兆635億円に上るという。これにより、日本維新の会が目指す4兆円の医療費削減の4分の1程度が達成できる計算となる。
 
しかしOTC類似薬を保険適用外とする場合、受診控えによる健康被害が起きるリスクを指摘する向きがある。また、長期療養者、低所得者にとって大きな負担となることを懸念する声も出ており、そうした課題への対応を講じつつ、OTC類似薬の保険適用外が進められていくとみられる。
 
社会保障制度改革の中で、最も実現に近いのが、このOTC類似薬の保険適用外だろう。

高齢者の医療費自己負担の原則3割は実現可能か

日本維新の会は、高齢者の医療費自己負担について、現在の原則1割を原則3割に引き上げることを主張してきた。実際には、一律に自己負担の割合を高めるのではなく、支払い能力のある高齢者の自己負担割合を高めることが検討されていくとみられる。後期高齢者医療制度では、所得水準が高いために3割の自己負担となっている人は、全体の約8%にとどまっているという。
 
11月5日に開かれた財務省の財政制度等審議会財政制度分科会では、高齢者医療における患者自己負担は、「年齢による自己負担割合の不公平を是正するため、70歳以上の患者自己負担割合を現役世代と同様に3割とすべきであり、その実現に向けた具体的な道筋を明確に示すべき」との考えが記載されている。
 
連立政権合意書などで、「金融所得の反映など応能負担の徹底」と明記されており、株式売買益など金融所得の高い高齢者に医療費の自己負担引き上げを求めることが検討されているとみられる。
 
ただし、金融所得については、確定申告をしていない人の分は一部捕捉されないため、金融所得を自己負担割合に反映させる場合には、まずその捕捉を徹底することが公平性の観点から求められる。

「診療報酬」の改定は医療費削減の方針に逆行

高市首相は、医療サービスの公定価格である「診療報酬」の改定を通じて、医療従事者への処遇を改善する考えを示している。自民党と日本維新の会との間での社会保障制度改革は、基本的には医療費の大幅削減を進め、それを社会保険料の引き下げにつなげて現役世代の負担を軽減することを目指している。
 
診療報酬の改定は2年に一度行われており、次回は2026年6月の予定だ。しかし高市首相は、それを前倒しして医師の人件費など「本体」部分を相応の規模で引き上げる考えだ。2016年度以降は、毎回の改定で、本体の引き上げ分を「薬価」部分の引き下げ分で相殺し、全体の診療報酬を引き下げてきた。しかし、次回は、本体部分を大幅に引き上げれば、全体も増加に転じる可能性が高い。
 
過去5回の診療報酬で、「本体」部分の改定は平均で+0.56%、「薬価」部分の改定は平均で-0.48%だった。次回は仮に「本体」部分の改定幅は過去5年の平均の2倍となる+1.12%、「薬価」部分の改定幅は過去5年の平均の-0.48%になるとすれば、全体の改定幅は+0.64%となる。
 財政制度等審議会の資料に基づいて計算すると、診療報酬全体が+0.64%増加すれば、医療費は3,200億円増加する一方、保険料はその半分の1,600億円増加することになる。これは、医療費の削減を通じて現役世代の保険料を引き下げる、という日本維新の会の方針に逆行するものだ。
 これら3つのテーマ以外にも、病院機能の再編・強化、創薬機能の強化、大学病院の教育・研究体制改善、高度医療を担う病院の経営安定化なども協議体で議論されていくが、OTC類似薬の保険適用外の他は、実施の目途は立っていない状況だ。日本医師会との距離感の違いといった政治的な要素も、両党間の協議をより難しくしているだろう。
 
(参考資料)
「社保改革 自維実務者協議 攻防火ぶた」、2025年11月13日、読売新聞
「社会保険料:社保料、金融所得反映 公平化へ本格検討 政府・与党」、2025年11月13日、毎日新聞
「社会保障改革「政治主導で」=市販類似薬負担増、年内に結論―自維」、2025年11月12日、時事通信ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。