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野村総合研究所と
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11月17日付の本コラムにおいて、一部の計算に誤りがありました。読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

昨日、中国政府が中国国民に対して日本への渡航を自粛するよう呼びかけたことを受けて、それが日本経済にもたらす影響の試算値を公表した。2012年の尖閣問題で、中国政府が今回と同様に日本への渡航自粛を要請した際の経験に基づいた試算である。試算方法をより明確化した上で、以下に訂正値を示したい。
 
中国からの訪日客数は、今年1-9月までで訪日客数全体の23.7%と、国別で最大である。昨年10月から今年9月の最新値までの1年間の中国からの訪日客数は922.1万人である。
 
他方、今年1-9月までの前年同期比+42.7%と同じペースで向こう1年間中国からのこの訪日客数が増加する、今年7-9月期の中国からの訪日客の一人当たり平均消費額23.9万円が今後1年続く、との前提で計算すると、旅行消費額は3.15兆円となる。これが、渡航自粛要請がなかった場合のベースケースである。

これに対して、中国からの訪日客数が2012年の尖閣問題の際と同様に1年間の平均で前年同月比25.1%減少する場合の旅行消費額を計算すると、1.65兆円となる。両者の差が、渡航自粛要請の影響と考えると、その規模は1.49兆円となる。

他方、香港に対しても日本への渡航自粛要請が出されている。ところで、今年の香港からの訪日客は、日本での自然災害への警戒から大きく攪乱された。そこで、昨年2024年の香港からの訪日客数268.3万人と同年の年間増加率+26.9%、今年7-9月期の香港からの訪日客の一人当たり平均消費額21.1万円の各数字から計算すると、渡航自粛要請がなかった場合のベースケースとなる向こう1年の旅行消費額は0.72兆円となる。

これに対して、中国からの訪日客数と同様に、香港からの訪日客数が1年間で25.1%減少する場合、1年間の旅行消費額は0.42兆円となる。両者の差が、渡航自粛要請の影響と考えると、その規模は0.29兆円となる。

中国からの向こう1年の訪日客の消費額が受ける渡航自粛要請の影響1.49兆円と香港からの訪日客の同様の影響0.29兆円を合計すると1.79兆円となる。これは2024年の名目GDPの607.9兆円の0.29%に相当する。向こう1年の名目及び実質GDPの水準、並びに成長率を同程度押し下げる計算となり、経済的な打撃は相当規模に及ぶ。

日本経済への影響は、上記の試算値以外に、国内旅行関連のビジネスへの打撃を通じて従業員の雇用や所得にマイナスの影響が生じ得ることから、波及効果も考慮すると悪影響はより大きくなる。

さらに、尖閣問題の際と同様に、中国がレアアースの輸出規制など、日本に対する貿易規制を実施すれば、日本経済に与える打撃はさらに大きくなる。農産物などの中国からの輸入が滞ることで、物価高が助長される可能性もあるだろう。それ以外に、日本企業の中国でのビジネスにも悪影響が生じる可能性も考えられる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。