&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

価格高騰を受けて食料品の一部を関税の対象外に

関税政策をトランプ米政権自らが縮小させる傾向が明らかになってきた。トランプ大統領は11月14日に相互関税を修正する大統領令を出し、牛肉やコーヒーのほか、果物、ナッツ類、香辛料を含む100品目以上の農産物・食料品を相互関税の対象から除外した。この相互関税見直しの背景には、関税による物価高に対する国民の反発がある。牛肉などではここ数か月で記録的な価格上昇がみられた。トランプ大統領は、関税を支払うのは外国であり、国内では物価高は生じない、として関税政策の正当性を訴えてきたが、いよいよ軌道修正を迫られている。
 
大統領令の発令に先立ち、トランプ大統領は13日に、米国とアルゼンチン、エクアドル、グアテマラ、エルサルバドルが貿易枠組み協定で合意し、これらの国の多くの食品を関税の適用対象から除外する、と発表していた。しかし実際に相互関税の対象から外されたのは、すべての国からの食品の一部となった。
 
トランプ政権は今までも、米国で生産されていない品目や、国内供給業者だけでは需要を満たせない品目については例外として関税の対象外としてきた。しかし今回、新たに適用対象から除外された品目には、米国で一般的に生産されている多くの製品が含まれている。
 
関税による物価高に対する国民の不満を受けて、トランプ政権が関税政策全体を縮小させる傾向が明らかになっている。

最高裁判所が相互関税などに違法判決を下す可能性

さらに12月中には、相互関税など国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいてトランプ政権が発動した関税政策の違法性について、最高裁判所の判決が下される見通しだ。既に地方裁判所、高等裁判所では、同法に基づく関税政策は大統領の権限を逸脱しているとして違法判決が下されている。最高裁でも同様の判決が下されれば、トランプ政権は相互関税などを停止し、関税収入を輸入業者に返還する必要がある。
 
違法判決が下されても、トランプ政権は通商法など別の法律を根拠として再び相互関税を導入する可能性は残るものの、同じ規模での再開は難しいのではないか。違法判決をきっかけに、国民からの不満が高まる関税政策を一段と縮小させる可能性もあるのではないか。最高裁が違法判決を下す可能性は50%程度と見込まれる。
 
予想されていたことではあるが、世論の批判や司法の壁に阻まれて、トランプ関税は導入から1年未満で、縮小方向で大きく見直される可能性が出てきた。実際そうなれば、世界経済や金融市場の景況感にはプラスの影響を及ぼすだろう。
 
(参考資料)
“Trump Implements Major Rollback of Food Tariffs(トランプ氏、食品関税を大幅引き下げ)”,Wall Street Journal, November 15, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。