1ドル158円までの円安進行の背景
11月19日の海外市場で、ドル円レートは1ドル157円台まで円安が進んだ。その背景はいくつかあるが、第1は、同日に米国で発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨(10月28~29日開催分)で、多くの参加者が年内の政策金利据え置きが適切となる可能性が高い、と意見を示したことが明らかになったことだ。この結果、12月の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が後退し、ドル高につながった。
第2は、日中間の対立のエスカレートに対する懸念だ。14日の日本への渡航自粛要請などに続き、19日には中国政府は日本産水産物の輸入を停止する制裁措置を決めた。日本産水産物の輸入停止措置は2023年に講じられ、その後緩和されてきた。
2024年の日本から中国への水産物の輸出額は61億円と、前年比-89.9%の大幅減少となった。仮にこの61億円が輸入停止措置によってゼロになっても、2024年の名目GDPに占める比率はわずか0.001%に過ぎず、日本への渡航自粛要請と比べると経済への打撃は限定的だ。しかし、中国側からの経済的な制裁措置がエスカレートするとの懸念が、円安を生じさせている面がある。
第3は、19日の夕刻に実施された日銀植田総裁と片山財務相、城内経済財政担当相の3者会談で、円安阻止に向けた強い姿勢が打ち出されなかったことへの市場の失望である。
会談後に、3者は「高い緊張感を持って市場動向を注視し、丁寧なコミュニケーションを継続する」方針を確認したと報道された。ただし、片山財務相は「為替に関する具体的な話はなかった」とも明言した。さらに片山財務相の「高い緊張感を持って市場動向を注視」との発言は、為替介入の実施を示唆する強いトーンの発言ではなかった。そのため、円買いドル売り介入への警戒感がやや後退したことでドル高円安が進んだ。
第2は、日中間の対立のエスカレートに対する懸念だ。14日の日本への渡航自粛要請などに続き、19日には中国政府は日本産水産物の輸入を停止する制裁措置を決めた。日本産水産物の輸入停止措置は2023年に講じられ、その後緩和されてきた。
2024年の日本から中国への水産物の輸出額は61億円と、前年比-89.9%の大幅減少となった。仮にこの61億円が輸入停止措置によってゼロになっても、2024年の名目GDPに占める比率はわずか0.001%に過ぎず、日本への渡航自粛要請と比べると経済への打撃は限定的だ。しかし、中国側からの経済的な制裁措置がエスカレートするとの懸念が、円安を生じさせている面がある。
第3は、19日の夕刻に実施された日銀植田総裁と片山財務相、城内経済財政担当相の3者会談で、円安阻止に向けた強い姿勢が打ち出されなかったことへの市場の失望である。
会談後に、3者は「高い緊張感を持って市場動向を注視し、丁寧なコミュニケーションを継続する」方針を確認したと報道された。ただし、片山財務相は「為替に関する具体的な話はなかった」とも明言した。さらに片山財務相の「高い緊張感を持って市場動向を注視」との発言は、為替介入の実施を示唆する強いトーンの発言ではなかった。そのため、円買いドル売り介入への警戒感がやや後退したことでドル高円安が進んだ。
3者会談の目的を市場は誤解か
ただし、3者会談の目的については、金融市場は誤解をしていた可能性がある。円安が進んだタイミングでの会談であったため、円安牽制がその狙いと考えられていたのだろう。しかしそこで、実際には円安阻止に向けた強い姿勢が示されなかったことから、失望でドル高円安が進んでしまったのである。
実際には、3者会談の主なテーマは日本銀行の金融政策であり、これは、18日に行われた高市首相と植田総裁の会談とセットであったと考えられる。
昨年の石破前政権発足直後にも、政権はデフレからの完全脱却に向けて日本銀行の利上げをけん制した。その際には、日本銀行の金融政策の目的がデフレからの完全脱却ではなく、政府と日銀の2013年の共同声明で示した2%の物価目標の持続的、安定的な達成であること、2%の物価目標はまだ達成していないことから、金融緩和はなお維持する考えであり、利上げは金融引き締めではなく金融緩和の段階的な縮小の一環であることを政権側に説明したとみられる。
この際にも植田総裁は、石破前首相との会談の後、加藤前財務相、赤澤前経済財政担当相との会談を行った。こうした一連の会談の後、政府から日本銀行に対する利上げ牽制の動きは収まっていった。今回も同様の流れとなる可能性をみておきたい。
実際には、3者会談の主なテーマは日本銀行の金融政策であり、これは、18日に行われた高市首相と植田総裁の会談とセットであったと考えられる。
昨年の石破前政権発足直後にも、政権はデフレからの完全脱却に向けて日本銀行の利上げをけん制した。その際には、日本銀行の金融政策の目的がデフレからの完全脱却ではなく、政府と日銀の2013年の共同声明で示した2%の物価目標の持続的、安定的な達成であること、2%の物価目標はまだ達成していないことから、金融緩和はなお維持する考えであり、利上げは金融引き締めではなく金融緩和の段階的な縮小の一環であることを政権側に説明したとみられる。
この際にも植田総裁は、石破前首相との会談の後、加藤前財務相、赤澤前経済財政担当相との会談を行った。こうした一連の会談の後、政府から日本銀行に対する利上げ牽制の動きは収まっていった。今回も同様の流れとなる可能性をみておきたい。
高市政権の利上げ牽制姿勢は徐々に後退か
植田総裁は14日の植田総裁と高市首相の会談後に、金融政策に対する自身の説明に対して高市首相が「そういうことかな」と了解した、と述べた。詳細は不明であるが、日本銀行が2%の物価目標の持続的、安定的な達成のために、政策金利の引き上げを通じて徐々に金融緩和状態を縮小していくという政策方針について、高市首相が一定程度受け入れた可能性も考えられる。
実際、金融政策を巡る高市首相の発言は変化してきており、利上げ牽制の姿勢は後退しているように見える。2024年の自民党総裁選時には、「いま金利を引き上げるのはアホやと思う」と発言していた。今年10月の首相就任直後にも、「財政政策と同様に政府が金融政策に責任を持つ」「日本銀行は金融政策の手段を決める」などと発言し、政府の経済政策との整合性を金融政策に求める日本銀行法第4条を根拠に、日本銀行が独立して金融政策を決めることはできない、との見解を示していた。
しかしその後の国会答弁では、「日本銀行には2%の物価目標の持続的、安定的な達成に向けて適切な金融政策運営を期待する」といった、従来の政府の公式見解を繰り返す発言に転じていた。日本銀行の独立性という法的な問題も踏まえ、高市首相の利上げ牽制の姿勢は後退しているように見える。
実際、金融政策を巡る高市首相の発言は変化してきており、利上げ牽制の姿勢は後退しているように見える。2024年の自民党総裁選時には、「いま金利を引き上げるのはアホやと思う」と発言していた。今年10月の首相就任直後にも、「財政政策と同様に政府が金融政策に責任を持つ」「日本銀行は金融政策の手段を決める」などと発言し、政府の経済政策との整合性を金融政策に求める日本銀行法第4条を根拠に、日本銀行が独立して金融政策を決めることはできない、との見解を示していた。
しかしその後の国会答弁では、「日本銀行には2%の物価目標の持続的、安定的な達成に向けて適切な金融政策運営を期待する」といった、従来の政府の公式見解を繰り返す発言に転じていた。日本銀行の独立性という法的な問題も踏まえ、高市首相の利上げ牽制の姿勢は後退しているように見える。
変わらぬ積極財政姿勢が円安傾向を強め物価高を助長
高市首相の経済政策は、金融緩和の継続と積極財政の2つを柱としている。このうち、金融緩和の継続については、既述のようにその姿勢に変化が見られる。他方、積極財政の姿勢については、揺らいでいないようにみえる。
21日には経済対策が閣議決定される予定であるが、その真水の規模は歳出増加で17兆円、減税を含めて20兆円程度と報じられている。これは、昨年2024年の経済対策の13.9兆円、2023年の経済対策の13.1兆円(いずれも一般会計の歳出増加分)と比べて大きくなっている。
しかしこのような積極財政姿勢が、先行きの財政環境悪化への懸念から長期金利を上昇させている。20日の10年国債利回りは一時1.8%台に乗った。さらに先月以来、為替市場でドル安円高傾向が進む最大の要因は、高市政権による巨額の経済対策が財政リスクを高め、国債と通貨の信認を低下させていることだ。円安進行は物価高を助長し、物価高対策を柱とする経済対策の効果を相殺してしまう。ここに、巨額の経済対策が抱える矛盾があると言えるだろう。
他方、経済対策による短期的な景気浮揚効果と円安進行による物価高リスクの上昇は日本銀行の利上げを後押しすると考えられる。利上げに向けて高市政権から一定程度の理解を得られたのであれば、日本銀行は12月18・19日の金融政策決定会合で利上げを実施することが見込まれる。
21日には経済対策が閣議決定される予定であるが、その真水の規模は歳出増加で17兆円、減税を含めて20兆円程度と報じられている。これは、昨年2024年の経済対策の13.9兆円、2023年の経済対策の13.1兆円(いずれも一般会計の歳出増加分)と比べて大きくなっている。
しかしこのような積極財政姿勢が、先行きの財政環境悪化への懸念から長期金利を上昇させている。20日の10年国債利回りは一時1.8%台に乗った。さらに先月以来、為替市場でドル安円高傾向が進む最大の要因は、高市政権による巨額の経済対策が財政リスクを高め、国債と通貨の信認を低下させていることだ。円安進行は物価高を助長し、物価高対策を柱とする経済対策の効果を相殺してしまう。ここに、巨額の経済対策が抱える矛盾があると言えるだろう。
他方、経済対策による短期的な景気浮揚効果と円安進行による物価高リスクの上昇は日本銀行の利上げを後押しすると考えられる。利上げに向けて高市政権から一定程度の理解を得られたのであれば、日本銀行は12月18・19日の金融政策決定会合で利上げを実施することが見込まれる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。