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11月13日に自民党の税制調査会は「インナー」と呼ばれる幹部会合を開き、2026年度税制改正のスケジュールや主な論点を確認した。年末には税制改正大綱を決定する。
 
高市首相は、税調会長を計8年務めた財政健全化重視の宮沢洋一氏を小野寺五典前政調会長に交代させた。また、経済産業省とのつながりが強く積極財政派と考えられる商工族の西村康稔元経済産業相、山際大志郎元経済財政・再生相をインナーに起用した。
 
「年収の壁」の引き上げが最大の注目点となる。それ以外には、法人税を軽減する「租税特別措置」の見直しなども議論される。「租税特別措置」の見直しは、自民と維新の連立合意にも含まれた。企業の研究開発への投資額に応じて減税する「研究開発税制」や「賃上げ促進税制」が見直しの対象になるとみられる。また、ガソリン税と軽油引取税の暫定税率の廃止の代替財源の一つともされる。
 
金融所得の多い富裕層への課税強化策、住宅ローンに応じて税額を減らす「住宅ローン減税」の延長・見直し、少額投資非課税制度(NISA)の拡充も論点となる。
 
自動車関係では、購入時に燃費性能に応じて価格の3%を上限に課税する「環境性能割」の見直しが検討される。
 
観光振興の財源確保では、出国時に1人1000円を徴収している国際観光旅客税(出国税)の引き上げが検討される。
 
最大の注目点となる「年収の壁」の引き上げについては、今年の年末調整から、基礎控除等の非課税枠が103万円から160万円に引き上げられる。しかし、国民民主党は178万円までの引き上げを引き続き求めている。178万円の根拠は、前回基礎控除等が見直された1945年以降の最低賃金の引き上げ幅であるが、一部の人に適用される最低賃金の引き上げを基準に基礎控除等の引き上げを決めるのは適切ではないと高市首相は国会で答弁している。基礎控除等を単純に178万円まで引き上げる制度改正がなされる可能性は高くないものの、自民党税調も「年収の壁」対策のさらなる拡充を検討する。
 
税調では、物価の上昇に応じて非課税枠を引き上げる仕組みが検討されている。基礎控除等の非課税枠や税率区分が一定の下で物価が上昇すると、実質増税がなされることになる。足もとの物価上昇によって、物価高に対応していない税制や社会保障制度の弱点が浮き彫りとなった。
 
目先の物価高対策は、補助金、減税などで実施するとしても、より根本的な対策としては、制度改正が必要だ。自民党税制調査会の会合では、物価の上昇に応じて非課税枠を引き上げる仕組みが取り上げられ、出席者の多くは消費者物価指数を基に算出する方法が適切だと主張したという。
 
ただし、非課税枠をどの程度の頻度で改定するかについては、毎年実施するべきだとの意見がある一方、年末調整のシステム改修の負担が重いことから3年おきが望ましいとの声が出たという。年末調整のシステム改修の負担はあるとは言え、物価が顕著に変動する局面では、3年おきの見直しでは十分ではないだろう。
 
(参考資料)
「「年収の壁」引き上げ 議論へ 自民税調 論点整理 租税特別措置 見直しも」、2025年11月14日、東京読売新聞
「自民税調:税制改正へ議論開始 自民税調が幹部会合」、2025年11月14日、毎日新聞
「自民税調、随所に高市色、インナーに西村康氏、目立つ財政積極派・商工族」、2025年10月25日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。