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政府は12月初めにも政府の租税特別措置(租特)、基金、補助金などでの無駄遣いをチェックする、新たな組織を内閣官房に立ち上げる。正式名称は「租税特別措置・補助金見直し担当室」となる見通しだ。
 
トランプ米政権下では政府支出の削減と規制緩和を推し進める政府効率化省(DOGE)が創設され、当初は実業家のイーロン・マスク氏がそれを率いた。連邦職員の解雇などで混乱も生じさせたが、このDOGEの日本版を日本でもスタートさせる。
 
これは、「小さな政府」を志向する、日本維新の会の要望を取り入れたものだ。自民党と日本維新の会が結んだ連立政権の合意文書に「政府効率化局」(仮称)の設置が明記されていた。そこでは、「租特や高額補助金の総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する」と述べられている。
 
租税特別措置は、事実上、大企業への補助金として機能してきた面がある。特に高市首相が問題視したのは、安倍政権時代に創設され、岸田政権時に強化した賃上げ税制である。高い賃上げ率を実現した企業は税控除を受けられる。しかし、赤字企業の割合が多い中小・零細企業は法人税を支払っていないことから、税控除の対象になっていない。国税庁の法人税統計によると2023年度の赤字法人率は64.7%と全体の6割を超えている。賃上げを実施できる経営状況が良い大手企業が税控除の対象となり、ますます収益を拡大させる構図となっている。
 
財務省によると租税特別措置による減税額は2023年度で2.9兆円だった。そのうち賃上げ促進税制と研究開発税制の減税額の合計は約1.7兆円と全体の6割近くにのぼる。
 
また、無駄が多いと指摘されてきた基金も、同組織の見直しの対象となる。基金は単年度主義の予算編成の問題点に対応するため、より長期の視点から予算を計上することを可能にする。しかし、基金に予算を計上した時点ではその使途は明確に定められないことが多いことから、使われずに余るなど無駄に使われることも多い。国の基金残高は新型コロナウイルス禍以降に特に増大し、2022年度末で16.6兆円もある。
 
これらに加えて、企業への補助金の見直しも重要だ。巨額の補助金に企業が依存する傾向が強まり、企業の自助努力が損なわれている面がないか、確認する必要があるだろう。
 
このように租税特別措置、基金、補助金を改めて確認し、無駄な使われ方がされてないかを厳しくチェックすることは、政府の歳出削減を可能にするだけでなく、企業活動を活性化させ、経済の潜在力を高めることにも資するだろう。同組織の今後の活動に期待したい。
 
(参考資料)
「「日本版DOGE」基金も点検対象に 週明け新設、内閣官房に担当室」、2025年11月22日、日本経済新聞電子版
「補助金効果点検 効率化局創設へ 官房長官表明」、2025年11月13日、産経新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。