政府は25日に、労働団体や経済界の代表者らと賃上げなどについて話し合う「政労使会議」を開いた。経団連の筒井会長、連合の芳野会長らが出席した。この政労使会議は安倍政権が2013年に始めたもので、岸田政権のもとで約8年ぶりに開かれ石破政権のもとでも続けられた。
高市首相は、「30年以上ぶりに5%を超える高水準となっている賃上げを確かなものとして定着させるために、おととし、昨年の水準とそん色のない水準での賃上げ、とりわけ物価上昇に負けないベースアップの実現に向けたご協力を心よりお願いいたします」と発言した。
春闘では、昨年、一昨年と定期昇給を含み5%を超える賃上げ率が実現した。高市首相の発言は、この水準を維持することを労使に求めたものであるが、消費者物価上昇率が賃金上昇率を1%程度上回る現状下で、過去2年と同水準の賃上げ率が維持されても、実質賃金の上昇率はプラスにはならず、国民生活は圧迫されたままとなる。
連合は、来年の春闘での大手企業の賃上げ方針を3年連続で5%以上に据え置いた。春闘での大手企業の賃上げ率が5%強の水準であっても、現在の平均賃金は所定内賃金でみて前年比2%程度である。これは、1%台半ば程度の定期昇給分は平均賃金に影響を与えないうえ、賃金上昇率が低い中小・零細企業が含まれるためだ。
賃金上昇が物価上昇に追い付かない状況が続く中でも、連合が春闘での賃上げ方針を引き上げないのは、これ以上の高い賃上げ率を実現することが、現在の経済状況の下では難しいことを理解しているからではないか。
現在の高い物価上昇率が強い経済を反映したものであれば、労働組合もより高い賃上げを要求できるだろう。しかし実際には、現在の高い物価上昇率は円安の影響によるコストプッシュ型であり、それ自体、経済に逆風となっている。こうした状況の下で、労働組合がより高い賃上げ率を実現した場合、その後に景気情勢が悪化すれば労働者は失業のリスクに直面してしまう。そのため労組は、これ以上の高い賃上げ率を要求することに慎重になっている。
他方、企業も、これ以上の高い賃上げ率を受け入れることに慎重だ。それは、景気情勢が悪化に転じ、あるいは大手輸出企業を中心に企業収益拡大に貢献している円安の流れが円高に転じた場合、基本給の大幅引き上げが、企業の収益を長期間圧迫してしまう可能性があるからだ。
こうした点を踏まえると、いくら政府が賃上げ率のさらなる引き上げを労使に求めても、それは実現されにくい。この点を理解しているからこそ、政府も高水準の賃上げ率の定着を求めているのだろう。
実質賃金の上昇を回復するために、名目賃金上昇率をさらに引き上げることが難しいとすれば、物価上昇率を下げることを通じてその実現を目指すべきだろう。そして、物価上昇率を下げるには、円安の流れを食い止めて、行き過ぎた円安を修正することが必要だ。
高市政権による積極財政や日本銀行の利上げをけん制する姿勢は、円安リスクを高め、実質賃金の上昇率のプラス回復を妨げてしまっている面がある。こうした姿勢を修正することが、実質賃金の上昇率をプラスとし、国民生活を物価高から守ることにつながるだろう。
高市首相は、「30年以上ぶりに5%を超える高水準となっている賃上げを確かなものとして定着させるために、おととし、昨年の水準とそん色のない水準での賃上げ、とりわけ物価上昇に負けないベースアップの実現に向けたご協力を心よりお願いいたします」と発言した。
春闘では、昨年、一昨年と定期昇給を含み5%を超える賃上げ率が実現した。高市首相の発言は、この水準を維持することを労使に求めたものであるが、消費者物価上昇率が賃金上昇率を1%程度上回る現状下で、過去2年と同水準の賃上げ率が維持されても、実質賃金の上昇率はプラスにはならず、国民生活は圧迫されたままとなる。
連合は、来年の春闘での大手企業の賃上げ方針を3年連続で5%以上に据え置いた。春闘での大手企業の賃上げ率が5%強の水準であっても、現在の平均賃金は所定内賃金でみて前年比2%程度である。これは、1%台半ば程度の定期昇給分は平均賃金に影響を与えないうえ、賃金上昇率が低い中小・零細企業が含まれるためだ。
賃金上昇が物価上昇に追い付かない状況が続く中でも、連合が春闘での賃上げ方針を引き上げないのは、これ以上の高い賃上げ率を実現することが、現在の経済状況の下では難しいことを理解しているからではないか。
現在の高い物価上昇率が強い経済を反映したものであれば、労働組合もより高い賃上げを要求できるだろう。しかし実際には、現在の高い物価上昇率は円安の影響によるコストプッシュ型であり、それ自体、経済に逆風となっている。こうした状況の下で、労働組合がより高い賃上げ率を実現した場合、その後に景気情勢が悪化すれば労働者は失業のリスクに直面してしまう。そのため労組は、これ以上の高い賃上げ率を要求することに慎重になっている。
他方、企業も、これ以上の高い賃上げ率を受け入れることに慎重だ。それは、景気情勢が悪化に転じ、あるいは大手輸出企業を中心に企業収益拡大に貢献している円安の流れが円高に転じた場合、基本給の大幅引き上げが、企業の収益を長期間圧迫してしまう可能性があるからだ。
こうした点を踏まえると、いくら政府が賃上げ率のさらなる引き上げを労使に求めても、それは実現されにくい。この点を理解しているからこそ、政府も高水準の賃上げ率の定着を求めているのだろう。
実質賃金の上昇を回復するために、名目賃金上昇率をさらに引き上げることが難しいとすれば、物価上昇率を下げることを通じてその実現を目指すべきだろう。そして、物価上昇率を下げるには、円安の流れを食い止めて、行き過ぎた円安を修正することが必要だ。
高市政権による積極財政や日本銀行の利上げをけん制する姿勢は、円安リスクを高め、実質賃金の上昇率のプラス回復を妨げてしまっている面がある。こうした姿勢を修正することが、実質賃金の上昇率をプラスとし、国民生活を物価高から守ることにつながるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。