経済対策に異例の金融政策への注文
政府は11月21日に、経済対策「『強い経済』を実現する総合経済対策」を閣議決定した。その中には、以下のように日本銀行の金融政策についての記述も盛り込まれている。経済対策の中で金融政策に言及するのは異例なことだろう。
(日本銀行への期待)
「今後の強い経済成長と物価安定の両立の実現に向けて、適切な金融政策運営が行われることが非常に重要である。政府は、引き続き、日本銀行と緊密に連携し、デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく。日本銀行には、経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
こうした一連の取組によって、政府は、経済成長の果実を広く国民に行き渡らせ、誰もが豊かさを実感し、未来への不安が希望に変わり、安心できる社会の実現を目指す。」
積極財政と金融緩和の維持を掲げる高市政権は、その発足時から、日本銀行の利上げをけん制する発言をしてきた。この記述も、日本銀行の利上げが経済に悪影響をもたらし、物価高対策を柱に据えた政府の経済対策の効果を削いでしまうことへの警戒の表れ、と言えるだろう。
(日本銀行への期待)
「今後の強い経済成長と物価安定の両立の実現に向けて、適切な金融政策運営が行われることが非常に重要である。政府は、引き続き、日本銀行と緊密に連携し、デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく。日本銀行には、経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
こうした一連の取組によって、政府は、経済成長の果実を広く国民に行き渡らせ、誰もが豊かさを実感し、未来への不安が希望に変わり、安心できる社会の実現を目指す。」
積極財政と金融緩和の維持を掲げる高市政権は、その発足時から、日本銀行の利上げをけん制する発言をしてきた。この記述も、日本銀行の利上げが経済に悪影響をもたらし、物価高対策を柱に据えた政府の経済対策の効果を削いでしまうことへの警戒の表れ、と言えるだろう。
政府の姿勢に変化の兆しか
しかし、より詳細にこの記述を見ると、金融緩和の維持を掲げる高市政権の姿勢に変化もみられる。
「日本銀行には、経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」との文言は、日本銀行の金融政策に関する政府の従来の見解の繰り返しに過ぎない。「財政政策同様に金融政策の決定にも政府が責任を持ち、日本銀行は金融政策手段のみ独立して決定できる」とした、政権発足当時の高市首相の発言からは相当変化したようにも見える。
また、この記述では、政府と日本銀行の政策の目的が書き分けられている点にも注目したい。政府は「デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現」を目指すとしている。これに対して日本銀行は「2%の物価目標を持続的・安定的に実現」することを目指すと、それぞれ異なる目的を持っている。
「日本銀行には、経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」との文言は、日本銀行の金融政策に関する政府の従来の見解の繰り返しに過ぎない。「財政政策同様に金融政策の決定にも政府が責任を持ち、日本銀行は金融政策手段のみ独立して決定できる」とした、政権発足当時の高市首相の発言からは相当変化したようにも見える。
また、この記述では、政府と日本銀行の政策の目的が書き分けられている点にも注目したい。政府は「デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現」を目指すとしている。これに対して日本銀行は「2%の物価目標を持続的・安定的に実現」することを目指すと、それぞれ異なる目的を持っている。
日銀は「共同声明」を盾に政府の金融政策への介入を押し返すことに成功したか
こうした記述は、2013年1月の政府と日本銀行の「共同声明」、いわゆる「アコード」を踏まえたものと考えられる。
そこでは、政府と日本銀行は連携しつつも、政府は物価上昇率の基調を引き上げることにつながる経済の潜在力向上を目指して、機動的なマクロ経済政策運営と持続可能な財政構造を確立するための取り組みを進めるとした。他方で日本銀行は、金融緩和を通じて2%の物価目標の達成を目指すとされた。
政府と日本銀行が、それぞれが有する政策手段で、それぞれの目標達成に取り組む、というのがこの共同声明の主旨である。政府がその目標達成のために日本銀行の政策に関与することを認めるものではない。この共同声明に照らせば、政府が目指すデフレからの完全脱却の達成のために、日本銀行が協力を求められることはない。
日本銀行の利上げをけん制し、日本銀行の独立性を認めない主旨の発言を続けた高市政権に対して、日本銀行はこの共同声明の主旨に立ち返ることを政府に求め、それは一定程度成功した可能性がある。これが、今回の経済対策における金融政策についての記述の意味するところと考える。
そこでは、政府と日本銀行は連携しつつも、政府は物価上昇率の基調を引き上げることにつながる経済の潜在力向上を目指して、機動的なマクロ経済政策運営と持続可能な財政構造を確立するための取り組みを進めるとした。他方で日本銀行は、金融緩和を通じて2%の物価目標の達成を目指すとされた。
政府と日本銀行が、それぞれが有する政策手段で、それぞれの目標達成に取り組む、というのがこの共同声明の主旨である。政府がその目標達成のために日本銀行の政策に関与することを認めるものではない。この共同声明に照らせば、政府が目指すデフレからの完全脱却の達成のために、日本銀行が協力を求められることはない。
日本銀行の利上げをけん制し、日本銀行の独立性を認めない主旨の発言を続けた高市政権に対して、日本銀行はこの共同声明の主旨に立ち返ることを政府に求め、それは一定程度成功した可能性がある。これが、今回の経済対策における金融政策についての記述の意味するところと考える。
日本銀行は12月にも利上げを再開
こうした解釈が正しいとすれば、日本銀行は高市政権の日本銀行の金融政策への介入姿勢を修正することに成功しており、12月の次回金融政策決定会合で利上げを再開することが予想される。
これが現時点での筆者のメインシナリオであるが、仮に利上げ時期が来年1月にずれ込むとすれば、それは日本銀行が、高市政権の日本銀行の金融政策への介入姿勢をなお十分に修正できていない場合か、今回の経済対策と円安を受けて日本銀行の経済、物価見通しが上方修正され、それが利上げを正当化することを、日本銀行が来年1月の展望レポートで具体的な数字を持って示すことを選ぶ場合だろう。
これが現時点での筆者のメインシナリオであるが、仮に利上げ時期が来年1月にずれ込むとすれば、それは日本銀行が、高市政権の日本銀行の金融政策への介入姿勢をなお十分に修正できていない場合か、今回の経済対策と円安を受けて日本銀行の経済、物価見通しが上方修正され、それが利上げを正当化することを、日本銀行が来年1月の展望レポートで具体的な数字を持って示すことを選ぶ場合だろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。