エストニアに欧州最大のレアアース工場
今年4月に、米国による関税への対抗措置として中国がレアアースの輸出規制を導入したことで、米国のみならず欧州でも中国への依存度を下げ、レアアースを独自に確保する動きが加速している。
欧州経済は長らく、ロシアから安価なガスを調達し、中国からレアアースを輸入できる環境の下で発展してきたと言える。しかし、2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻や中国が今年導入したレアアース輸出制限により、こうした前提が崩れつつある。
欧州委員会は、レアアースを含む重要素材に関する計画の策定を進めており、年内にも発表する予定だ。計画には、共同購入、備蓄、欧州プロジェクトへの資金拡充が含まれる可能性があるという。
欧州のレアアース確保に向けて最も期待されているのが、かつてのロシア帝国の繊維産業の中心地だったエストニア北東部ナルバ市でのレアアース磁石を生産する欧州最大の工場だ。これは、カナダのネオ・パフォーマンス・マテリアルズ社が建設し、欧州連合(EU)が資金の一部を提供している。
しかしこの工場が、欧州が必要とするレアアースをすぐに供給できる訳ではない。欧州全体のレアアースの需要は2030年までに約4万5,000トンに達する見通しだ。しかし、同工場が計画している生産能力の引き上げは5,000トンまでと、その1割程度でしかない。しかも当面の生産能力の目標は2,000トンに過ぎない。
欧州経済は長らく、ロシアから安価なガスを調達し、中国からレアアースを輸入できる環境の下で発展してきたと言える。しかし、2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻や中国が今年導入したレアアース輸出制限により、こうした前提が崩れつつある。
欧州委員会は、レアアースを含む重要素材に関する計画の策定を進めており、年内にも発表する予定だ。計画には、共同購入、備蓄、欧州プロジェクトへの資金拡充が含まれる可能性があるという。
欧州のレアアース確保に向けて最も期待されているのが、かつてのロシア帝国の繊維産業の中心地だったエストニア北東部ナルバ市でのレアアース磁石を生産する欧州最大の工場だ。これは、カナダのネオ・パフォーマンス・マテリアルズ社が建設し、欧州連合(EU)が資金の一部を提供している。
しかしこの工場が、欧州が必要とするレアアースをすぐに供給できる訳ではない。欧州全体のレアアースの需要は2030年までに約4万5,000トンに達する見通しだ。しかし、同工場が計画している生産能力の引き上げは5,000トンまでと、その1割程度でしかない。しかも当面の生産能力の目標は2,000トンに過ぎない。
トランプ政権はレアアースの生産を強く支援
他方、ネオ・パフォーマンス・マテリアルズ社は、米国ではより多くのレアアースの生産を計画している。2030年までに米国で4万トン超の生産能力構築が計画されている。その背景には、トランプ政権による強い後押しがある。中国が4月に新たなレアアース輸出規制を課した後に、トランプ政権は業界支援のための補助金やその他の措置を強化して、米国での採掘、加工、製造能力の拡大を後押しした。
ネオ・パフォーマンス・マテリアルズ社は、ナルバ市でのレアアースの生産能力拡大で、EUから約1,690万ドルの資金調達を確保した。しかし米国での最近の政府支援はその水準をはるかに上回っている。米政府は7月、レアアース企業MPマテリアルズに15%出資し、さらに同社製品の価格に下限を設定すると発表した。
英国に本拠を置くレアアース企業で、アンゴラで鉱山を開発しているペンサナは、英国で計画していた加工施設の建設を中止して、米国に焦点を移すと最近発表した。これも、トランプ政権による強い支援策の結果だ。米国輸出入銀行が同鉱山に対して提示した融資が1億6,000万ドルだったのに対し、加工施設向けの英国の補助金はわずか約660万ドル相当だった。
ネオ・パフォーマンス・マテリアルズ社は、ナルバ市でのレアアースの生産能力拡大で、EUから約1,690万ドルの資金調達を確保した。しかし米国での最近の政府支援はその水準をはるかに上回っている。米政府は7月、レアアース企業MPマテリアルズに15%出資し、さらに同社製品の価格に下限を設定すると発表した。
英国に本拠を置くレアアース企業で、アンゴラで鉱山を開発しているペンサナは、英国で計画していた加工施設の建設を中止して、米国に焦点を移すと最近発表した。これも、トランプ政権による強い支援策の結果だ。米国輸出入銀行が同鉱山に対して提示した融資が1億6,000万ドルだったのに対し、加工施設向けの英国の補助金はわずか約660万ドル相当だった。
レアアース確保は国策に
トランプ政権が欧州に対しても関税措置など貿易規制を課していることを踏まえれば、欧州はレアアースの確保を米国に強く依存することも避けたいところだ。
レアアースの中国離れ、米国離れを進めるためには、民間企業の活動に任せているだけでは十分でなく、政府が補助金などでレアアースの欧州内での生産拡大を強く支援する必要が高まっているだろう。民間企業の活動だけでは、中国が供給する安価なレアアースに競合できる製品を生産することは簡単ではない。
こうした点は日本についても言えることだ。南鳥島海底に世界需要の実に数百年分のレアアース泥が存在することが確認されている。来年から試験的な掘削が始められる。しかしそれは水深6,000mにあることから、その採掘技術やコストが大きな課題となっている。
これについても、中国の安価な製品に競合する生産を商業ベースに乗せることは難しく、日本国内でレアアースの確保を進めていくには、補助金など政府の強い支援が必要となるだろう。いわば国策として進めていくことが求められる。
(参考資料)
“New Rare-Earths Plant in Europe Shows How Tough Breaking China’s Grip Will Be(欧州レアアース新工場、「脱中国」の困難浮き彫り)”, November 18, 2025
レアアースの中国離れ、米国離れを進めるためには、民間企業の活動に任せているだけでは十分でなく、政府が補助金などでレアアースの欧州内での生産拡大を強く支援する必要が高まっているだろう。民間企業の活動だけでは、中国が供給する安価なレアアースに競合できる製品を生産することは簡単ではない。
こうした点は日本についても言えることだ。南鳥島海底に世界需要の実に数百年分のレアアース泥が存在することが確認されている。来年から試験的な掘削が始められる。しかしそれは水深6,000mにあることから、その採掘技術やコストが大きな課題となっている。
これについても、中国の安価な製品に競合する生産を商業ベースに乗せることは難しく、日本国内でレアアースの確保を進めていくには、補助金など政府の強い支援が必要となるだろう。いわば国策として進めていくことが求められる。
(参考資料)
“New Rare-Earths Plant in Europe Shows How Tough Breaking China’s Grip Will Be(欧州レアアース新工場、「脱中国」の困難浮き彫り)”, November 18, 2025
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。