レアアースの中国依存度はなお高い
台湾を巡る高市首相の発言を受けて、中国政府は中国国民に対して日本への渡航自粛を要請した。さらに日本の海産物の輸入停止を決めた。両国の関係悪化が続く場合、中国政府はさらに日本との貿易の規制を強化する可能性があるだろう。日本政府や産業界が特に警戒するのは、レアアースの輸出規制である。
2012年に生じた尖閣問題の後にも、中国政府は日本に対するレアアースの輸出を規制した。その際には、日本の経済活動に大きな打撃が生じた。輸出規制は数か月程度で緩和されたが、この時の経験から、日本は中国産レアアースからの依存を脱する取り組みを進めてきた。主な取り組みは以下の4点だ。
第1は、調達先の多様化である。豪州、インド、カザフスタンなどとの連携を強化し、調達先の多様化を進めてきた。第2は、代替技術の開発だ。レアアースを使わない磁石や材料の研究開発を進めてきた。第3は、国家備蓄の強化だ。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じてレアアースの戦略備蓄を拡充してきた。第4は、リサイクルの促進だ。使用済み製品からのレアアース回収技術の開発を進めてきた。
こうした取り組みの結果、日本が輸入するレアアースの中国依存度は尖閣問題時の90%から現在60%程度に低下したとされる。それでも中国依存度はなお高い。
EV用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウム、テルビウムなどのレアアース(重希土類)は、ほぼその100%を中国に依存している。そのため、中国がレアアース輸出規制を行えば、日本が受ける影響は依然として大きい。
南鳥島海底に世界需要数百年分のレアアース泥が存在することが確認されている。来年から試験的な掘削が始められるが、水深6,000mにあることから、その採掘技術やコストが課題であり、商業化は2028年以降になる見込みだ。
2012年に生じた尖閣問題の後にも、中国政府は日本に対するレアアースの輸出を規制した。その際には、日本の経済活動に大きな打撃が生じた。輸出規制は数か月程度で緩和されたが、この時の経験から、日本は中国産レアアースからの依存を脱する取り組みを進めてきた。主な取り組みは以下の4点だ。
第1は、調達先の多様化である。豪州、インド、カザフスタンなどとの連携を強化し、調達先の多様化を進めてきた。第2は、代替技術の開発だ。レアアースを使わない磁石や材料の研究開発を進めてきた。第3は、国家備蓄の強化だ。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じてレアアースの戦略備蓄を拡充してきた。第4は、リサイクルの促進だ。使用済み製品からのレアアース回収技術の開発を進めてきた。
こうした取り組みの結果、日本が輸入するレアアースの中国依存度は尖閣問題時の90%から現在60%程度に低下したとされる。それでも中国依存度はなお高い。
EV用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウム、テルビウムなどのレアアース(重希土類)は、ほぼその100%を中国に依存している。そのため、中国がレアアース輸出規制を行えば、日本が受ける影響は依然として大きい。
南鳥島海底に世界需要数百年分のレアアース泥が存在することが確認されている。来年から試験的な掘削が始められるが、水深6,000mにあることから、その採掘技術やコストが課題であり、商業化は2028年以降になる見込みだ。
レアアースの輸出規制で特に打撃を受ける5分野
中国が日本に対してレアアースの輸出規制を導入する際に、特に打撃を受けるのは、1)自動車産業、2)電子部品、3)風力発電、4)医療機器(MRI)、5) 航空宇宙、の5分野と考えられる。それぞれ、状況を確認しよう。
1)自動車産業でEVやハイブリッド車の駆動モーターには、ネオジム磁石が必須であり、これに含まれる重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)は中国依存度がほぼ100%である。日本の自動車メーカーは、レアアース不足で一部車種の生産停止を経験した事例がある。代替技術(レアアースフリー磁石)はなお研究段階で、商業化の目途は立っていない。
2)スマートフォン、半導体製造装置、HDDなどに使われる電子部品には、レアアースが広く使用されている。特に蛍光体や磁性材料にレアアースは不可欠であり、他の素材での代替は技術的に難しい。中国はその精製工程で圧倒的シェアを持つ。
3)風力発電で、大型風力タービンの発電機に高性能磁石が使われ、レアアース依存度が高い。再エネ設備の増加で風力発電の需要が急拡大している。代替技術は存在するものの、それを利用すれば、効率が低下しコスト増になることが課題だ。
4)医療機器では、MRI装置の強力磁石などにレアアースが使用される。医療機器全体では使用量は限定的だが、特定機器では不可欠である。代替は可能だが性能低下の懸念がある。
5)航空宇宙では、航空機エンジンや防衛関連機器にレアアースを含む合金や磁石が使用される。特に軍事・安全保障分野では代替が難しく、供給途絶は重大なリスクとなる。
1)自動車産業でEVやハイブリッド車の駆動モーターには、ネオジム磁石が必須であり、これに含まれる重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)は中国依存度がほぼ100%である。日本の自動車メーカーは、レアアース不足で一部車種の生産停止を経験した事例がある。代替技術(レアアースフリー磁石)はなお研究段階で、商業化の目途は立っていない。
2)スマートフォン、半導体製造装置、HDDなどに使われる電子部品には、レアアースが広く使用されている。特に蛍光体や磁性材料にレアアースは不可欠であり、他の素材での代替は技術的に難しい。中国はその精製工程で圧倒的シェアを持つ。
3)風力発電で、大型風力タービンの発電機に高性能磁石が使われ、レアアース依存度が高い。再エネ設備の増加で風力発電の需要が急拡大している。代替技術は存在するものの、それを利用すれば、効率が低下しコスト増になることが課題だ。
4)医療機器では、MRI装置の強力磁石などにレアアースが使用される。医療機器全体では使用量は限定的だが、特定機器では不可欠である。代替は可能だが性能低下の懸念がある。
5)航空宇宙では、航空機エンジンや防衛関連機器にレアアースを含む合金や磁石が使用される。特に軍事・安全保障分野では代替が難しく、供給途絶は重大なリスクとなる。
レアアース輸出規制(3か月)の経済損失は6,600億円でGDPを0.11%押し下げる
2012年の尖閣問題の際に公表された、経済産業省「レアアース供給制約影響調査」(2010年10月)及び業界団体報告(日本自動車工業会・電子情報技術産業協会)に基づいて、当時の分野ごとの生産減少率(想定損失率)を推定した。これを各分野の市場規模の推定値に当てはめて生産減少額を試算したものが下に示した図表である。
2012年のレアアース輸出規制は、9月下旬から11月にかけて続いた後、緩和に向かった。この際の経験を踏まえ、以下ではレアアース輸出規制が3か月続くと仮定して、生産減少額、損失額を試算した。その結果は、6,600億円程度である。これは年間の名目・実質GDPを0.11%押し下げる計算となる。
また仮に輸出規制が1年間続く事態となれば、損失額は2.6兆円程度、年間の名目・実質GDPの押し下げ効果は-0.43%に達する計算だ。
このように、レアアース輸出規制が導入されれば、日本経済にはかなりの規模の損失が生じる計算となる。ただし、以上は一定の想定の下での試算結果であることには留意されたい。
2012年のレアアース輸出規制は、9月下旬から11月にかけて続いた後、緩和に向かった。この際の経験を踏まえ、以下ではレアアース輸出規制が3か月続くと仮定して、生産減少額、損失額を試算した。その結果は、6,600億円程度である。これは年間の名目・実質GDPを0.11%押し下げる計算となる。
また仮に輸出規制が1年間続く事態となれば、損失額は2.6兆円程度、年間の名目・実質GDPの押し下げ効果は-0.43%に達する計算だ。
このように、レアアース輸出規制が導入されれば、日本経済にはかなりの規模の損失が生じる計算となる。ただし、以上は一定の想定の下での試算結果であることには留意されたい。
図表 中国レアアース規制の産業別損失額推定


プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。