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中央銀行の政策などに関するシンクタンクである公的通貨金融機関フォーラム「OMFIF」が11月26日に、ドイツ連邦準備銀行や韓国銀行など欧州、アジア、アフリカ、中南米の10の中央銀行が参加したグループで、外貨準備の構成などについての調査結果「外貨準備管理のレジリアンスの再定義(Redefining resilience in reserve management)」を発表した。
 
各中央銀行が外貨準備を選択する際に、従来は安全性(Safety)と流動性(Liquidity)の2点を重視してきた。そうした基本構造は変わりないが、新たに3つの要素を重視するようになっている。① 地政学リスクへの適応力、② 資産構成の柔軟性、③ 技術変化への対応力である。
 
多くの中央銀行は準備金の70%から80%をドル建てで保有している。ドルは今後10年、世界の準備資産の5割以上を占めると予想され、ドルにとって代わる準備資産はないと結論付けられた。米国債市場の流動性は代替不可能とされ、92%の中央銀行が「十分に流動的」と評価している。
 
しかし、米国の政策環境への信頼は低下しており、58%の中銀当局者が「今後1、2年で準備資産の多様化を計画している」と回答した。米国債に対する信認や、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性が揺らぐことがあれば、準備資産を別の通貨の国債へ緩やかに移すことを検討するとの声も上がった。
 
そして、ドルに次ぐ準備資産として金の重要度が高まっている状況も明らかになった。金は「独立性の象徴」として評価され、先進国・新興国ともに、ほぼすべての中央銀行が保有比率を引き上げる方針だ。金の価格上昇への期待よりも、地政学的緊張や制裁リスクへの備えが背景にある。中央銀行の金準備は、2008年のリーマン・ショック以降、増加傾向にある。
 
同調査とは別に、ロシア中央銀行は11月27日に、主要7か国(G7)がロシアの凍結資産を活用しようとしていることを受けて、新興国の中央銀行が外貨準備分散のため金を購入しているとの見方を示している。
 
また同調査では、ドルの代替となり得る通貨について、ユーロは「ユーロ圏の経済見通し」「地政学的リスク」、中国人民元は「市場の透明性」がそれぞれ問題とされた。
 
中銀の93%がデジタル資産に投資していないことも明らかになった。「トークン化には関心が寄せられているが、暗号資産には慎重な見方が多い」という。
 
外貨準備とは別に、同調査では中央銀行のAIの利用についても報告された。61%の中央銀行は、AIの利用をデータの要約や市場の監視といった低リスク領域にとどめており、意思決定を伴う中核業務をサポートしていないと回答している。それは、AI利用のリスクへの警戒がなお強いためであり、今まで低リスク領域でのAI利用を最も積極的に進めてきた中央銀行ほど、リスクについても最も慎重である。
 
(参考資料)
“Redefining resilience in reserve management”, OMFIF, November 26, 2025
「外貨準備、2年内にドルから多様化=金の重要度高まる―中銀調査」、2025年11月27日、時事通信ニュース
「新興国中銀が金購入拡大、G7による凍結資産活用の動きで=ロ中銀」、2025年11月28日、ロイター通信ニュース
「世界の中銀、AIに警戒感 ドル離れも進まず=調査」、2025年11月27日、ロイター通信ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。