AI半導体の対中輸出規制を転換
トランプ米大統領は、米半導体大手エヌビディアのAI(人工知能)半導体「H200」について、中国向けの輸出を認めると述べた。条件として、米政府がその収入の25%を受け取ることを明らかにした。この件を中国の習近平国家主席に伝えたといい、「習主席は肯定的に応えてくれた」と説明している。
年初から、トランプ政権は最大の貿易赤字国である中国に対して一律関税を課し、さらに4月には相互関税で中国と激しく対立し、一時は135%という極めて高い関税を中国に課した。しかしその後は、中国によるレアアース輸出規制を回避するため、中国側に譲歩する弱腰の姿勢が目立っていった。今回の決定もその流れの一つという側面があると考えられる。
別の側面としては、トランプ政権が民間企業の経営に強く関与し、「国家資本主義」的傾向を強めていることの一端とも捉えることもできるだろう。トランプ政権によるインテルへの約10%の出資、日本製鉄が買収したUSスティールの黄金株取得などの延長にある措置とも言える。
いずれにせよ、中国に対する半導体輸出規制の政策は、これで大きく転換された感がある。中国企業に対し、米政府の最先端のAI半導体の輸出を規制する一方、性能を落とした「H20」の輸出を認めてきた。
トランプ米政権は4月にH20も輸出規制の対象に加えたが、7月には一転して輸出を認めた。H200はH20より高性能だが、今年発売された同社の最上位製品である「ブラックウェル」や、来年発売予定の「ルービン」世代の半導体ほどには高性能ではない。先端のAI半導体の中国向け輸出は認めるが、最先端ではないのである。
年初から、トランプ政権は最大の貿易赤字国である中国に対して一律関税を課し、さらに4月には相互関税で中国と激しく対立し、一時は135%という極めて高い関税を中国に課した。しかしその後は、中国によるレアアース輸出規制を回避するため、中国側に譲歩する弱腰の姿勢が目立っていった。今回の決定もその流れの一つという側面があると考えられる。
別の側面としては、トランプ政権が民間企業の経営に強く関与し、「国家資本主義」的傾向を強めていることの一端とも捉えることもできるだろう。トランプ政権によるインテルへの約10%の出資、日本製鉄が買収したUSスティールの黄金株取得などの延長にある措置とも言える。
いずれにせよ、中国に対する半導体輸出規制の政策は、これで大きく転換された感がある。中国企業に対し、米政府の最先端のAI半導体の輸出を規制する一方、性能を落とした「H20」の輸出を認めてきた。
トランプ米政権は4月にH20も輸出規制の対象に加えたが、7月には一転して輸出を認めた。H200はH20より高性能だが、今年発売された同社の最上位製品である「ブラックウェル」や、来年発売予定の「ルービン」世代の半導体ほどには高性能ではない。先端のAI半導体の中国向け輸出は認めるが、最先端ではないのである。
半導体分野の対中戦略はなお模索状態か
今回、トランプ政権が方針転換したのは、中国への譲歩に加えて、中国市場の回復を狙うエヌビディアからの強い働きかけの影響もあったと考えられる。ファンCEOは、「中国向け輸出規制をするよりも世界中に米国製品を流通させることで、米国が世界中でリーダーの地位を勝ち取り続けられるようにすべき、と主張してきた。
今までのAI半導体の対中輸出規制措置が、中国のAIおよびAI半導体の開発の制約になってきたかどうかは明らかではない。中国企業はすでにH20の性能を上回る代替品を開発している。米国が、安全保障の観点から、AI半導体の輸出規制を行えば行うほど、中国国内でAI開発のために独自の先端半導体を生産する取り組みを加速させてしまう面がある。
むしろ、エヌビディアのAI半導体を中国に輸出し、中国企業がそれへの依存を強めるようになれば、中国国内でのAI半導体の開発を抑えることになる可能性があるだろう。トランプ大統領の今回の決定には、そうした戦略があるのではないか。
エヌビディアの製品は、新たな世代ごとに性能が劇的に改善されてきた。今後、最新世代でなく1世代前のAI半導体を中国に輸出すれば、中国に最先端技術で遅れをとることもない、との計算がトランプ政権、あるいはエヌビディアにあるのかもしれない。
しかし、中国政府は安全保障の面を含め、米国への対抗から先端半導体の開発を国家戦略として進める考えであり、仮にエヌビディアなど米国の半導体への依存度が高まったとしても、その開発の手を緩めることはないのではないか。この点から。今回の決定が米国のAI半導体の世界での主導的地位を将来にわたって確保することにつながるかどうかは分からない。
年初から、トランプ政権の中国に対する関税政策は大きくブレ、迷走を続けてきたが、半導体分野での対中戦略についてもなお模索状態なのではないか。
(参考資料)
“Trump Says U.S. Will Allow Nvidia H200 Chip Sales to China, Get 25% Cut(エヌビディアのAI半導体「H200」、米が対中輸出容認)”,Wall Street Journal, December 9, 2025
「NVIDIAのAI半導体「H200」、トランプ氏が中国への輸出を承認」、2025年12月9日、日本経済新聞電子版
今までのAI半導体の対中輸出規制措置が、中国のAIおよびAI半導体の開発の制約になってきたかどうかは明らかではない。中国企業はすでにH20の性能を上回る代替品を開発している。米国が、安全保障の観点から、AI半導体の輸出規制を行えば行うほど、中国国内でAI開発のために独自の先端半導体を生産する取り組みを加速させてしまう面がある。
むしろ、エヌビディアのAI半導体を中国に輸出し、中国企業がそれへの依存を強めるようになれば、中国国内でのAI半導体の開発を抑えることになる可能性があるだろう。トランプ大統領の今回の決定には、そうした戦略があるのではないか。
エヌビディアの製品は、新たな世代ごとに性能が劇的に改善されてきた。今後、最新世代でなく1世代前のAI半導体を中国に輸出すれば、中国に最先端技術で遅れをとることもない、との計算がトランプ政権、あるいはエヌビディアにあるのかもしれない。
しかし、中国政府は安全保障の面を含め、米国への対抗から先端半導体の開発を国家戦略として進める考えであり、仮にエヌビディアなど米国の半導体への依存度が高まったとしても、その開発の手を緩めることはないのではないか。この点から。今回の決定が米国のAI半導体の世界での主導的地位を将来にわたって確保することにつながるかどうかは分からない。
年初から、トランプ政権の中国に対する関税政策は大きくブレ、迷走を続けてきたが、半導体分野での対中戦略についてもなお模索状態なのではないか。
(参考資料)
“Trump Says U.S. Will Allow Nvidia H200 Chip Sales to China, Get 25% Cut(エヌビディアのAI半導体「H200」、米が対中輸出容認)”,Wall Street Journal, December 9, 2025
「NVIDIAのAI半導体「H200」、トランプ氏が中国への輸出を承認」、2025年12月9日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。