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FOMCは3会合連続での利下げへ

12月10日まで開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、3会合連続での利下げ実施が見込まれている。しかし、反対票が出ることが予想され、パウエル議長の来年5月の退任を前にFOMC内での意見の相違がより表面化することになる可能性がある。この点は、来年5月に就任する新議長のもとでも、FOMC内でのコンセンサス形成が難しくなる、との金融市場の懸念を強めることになるだろう。

FOMC内で金融政策を巡って意見の相違が大きくなった一因は、連邦政府機関の一部閉鎖の影響によって新たな経済指標の発表が滞ったことで、経済情勢の判断にばらつきが生じたことが挙げられるだろう。最重要指標である11月雇用統計は12月16日、11月CPIの発表は12月18日といずれもFOMC後の発表となる。

11月21日にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長と考え方が近いとされるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が、近いうちにもう1回の利下げを行う余地があると述べ、10日の利下げを示唆したことで、金融市場の見方は利下げに傾いた。

FOMCでの反対票が歴史的な数となる可能性も

10月会合で利下げに反対票を投じたカンザスシティ連銀のシュミッド総裁とセントルイス連銀のムサレム総裁の2人は、今回のFOMCで金利据え置きを主張して反対票を投じる可能性が比較的高いだろう。また、ボストン連銀のコリンズ総裁、シカゴ連銀のグールスビー総裁、バーFRB理事らも前回会合以降、インフレに対する懸念を示していることから、利下げに反対票を投じる可能性がある。他方でミラン理事は、前回までの2会合と同様に0.5ポイントの大幅利下げを主張して反対票を投じることが予想される。

2025年7月会合では、ウォーラー理事とボウマン副議長が政策据え置きに反対票を投じた。これは1993年以来の複数理事による反対票であった。今回のFOMCでは3人以上の反対票が出る可能性が考えられるが、仮に3名の反対となれば1988年以来、4名の反対となれば1978年以来、5名の反対となれば1963年以来のこととなる。

ちなみに、FOMCで投票権を持つのはFRB理事7名、ニューヨーク連銀総裁(常任)1名、その他11地区連銀総裁のうち、毎年ローテーションで選ばれる4名(1年任期)の合計12名である。

今回のFOMCは、賛否が大きく分かれる歴史的な会合となる可能性がある。そして、それを背景に、次回は利下げが見送られるとの見方が金融市場で強まる可能性が考えられる。

ハセット氏は市場の信認に課題

ところで、トランプ大統領は9日、次期FRB議長の数人の候補者を検討する考えを示した。英紙フィナンシャル・タイムズは、トランプ大統領が今週、候補者との面接を開始すると報じた。トランプ大統領は「何人かの候補を検討するつもりだが、自分が望んでいる人物についてはかなり明確な考えがある」と語っている。ホワイトハウスのハセット国家経済会議(NEC)委員長が、引き続き次期FRB議長の最有力候補であるとみられる(コラム、「FRB次期議長は積極金融緩和派のハセット氏が有力か」、2025年12月3日)。

ただし債券市場でのハセット氏に対する評価は、必ずしも高くはないようだ。11月下旬にハセット氏が次期議長候補に有力との見方が広がった後、ドル安が進んだ。これは、トランプ大統領への忠誠心が高い同氏のもとで、FRBの利下げが進むとの見方を反映している。

ところが注目されるのは、この間、米国10年国債利回りは4%割れの水準から4.2%近くまで上昇していることだ。利下げ期待の高まりは、通常では長期国債利回りを低下させるが、逆に上昇したのは、トランプ大統領の意向を受けて利下げが過度に進み、中長期的なインフレリスク、通貨のリスクを高めてしまうとの懸念を反映しているだろう。さらに、意見の対立が目立つFOMC内で、ハセット氏がリーダーシップを発揮できず、金融政策決定が混乱するとの懸念も、通貨のリスクと中長期的なインフレリスクを高めてしまうとの懸念もあるだろう。

ハセット氏は積極金融緩和派でありトランプ大統領への忠誠心が高い、という点で議長に選出される重要な条件を満たしていると言えるが、債券市場からの十分な信認は得ていないと言えるかもしれない。この点にも配慮して、トランプ大統領は年明けに次期FRB議長を正式決定することになるだろう。

(参考資料)
“Fed Cut This Week May Be Last for a While: Decision-Day Guide(FRB利下げの流れ、今週でいったん停止も)”, Bloomberg, December 10, 2025
“Trump to Start Final Round of Fed Chair Interviews This Week: FT(トランプ氏、次期FRB議長候補に誰を望むか「明確な考えある」)”, Bloomberg, December 9, 2025

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。