廃止された「ジュニアNISA」と18歳未満への新たなNISA解禁
政府・与党は、2026年度税制改正に、小額投資非課税制度(NISA)の拡充策を含めることを検討している。具体的には、投資信託を定期的に積み立てる「つみたて投資枠」を、18歳未満にも解禁する。年間60万円まで投資でき、総額は600万円までとする方向だ。運用によって増えた資金を学費など子育て費用に充てることが期待される。
金融庁の「令和8年度税制改正要望」によると、「NISA対象商品の拡充等により、これから資産形成を始めようとする若年層や高齢層などを含め、あらゆる世代の長期・安定的な資産形成を支援し、NISAの一層の充実を図ること」が、制度改正の狙いとなっている。
子供が対象となるNISAとしては、かつて年間投資額80万円までの「ジュニアNISA」が存在した。しかし、利用者は全NISA口座の1~5%程度にとどまり、2023年末に廃止された。利用が低迷したのは、原則18歳まで払い出し不可という厳しい制限があり、教育資金など急な出費に対応できない点、中途引き出し時には過去の利益にさかのぼって課税される仕組みであった点、が理由であったと考えられる。
金融庁の「令和8年度税制改正要望」によると、「NISA対象商品の拡充等により、これから資産形成を始めようとする若年層や高齢層などを含め、あらゆる世代の長期・安定的な資産形成を支援し、NISAの一層の充実を図ること」が、制度改正の狙いとなっている。
子供が対象となるNISAとしては、かつて年間投資額80万円までの「ジュニアNISA」が存在した。しかし、利用者は全NISA口座の1~5%程度にとどまり、2023年末に廃止された。利用が低迷したのは、原則18歳まで払い出し不可という厳しい制限があり、教育資金など急な出費に対応できない点、中途引き出し時には過去の利益にさかのぼって課税される仕組みであった点、が理由であったと考えられる。
NISA拡充の3つの課題と対応策
2024年1月の新NISAの開始後、NISA口座数は2025年6月末時点で約2,700万口座にまで増えた。しかし、政府の目標である3,400万口座を達成するためには、口座開設率の低い若年層や高齢者層への普及がカギとなっていた。そこで、18歳未満にも解禁することで、親や祖父母の資金を引き込み、新たに若年層の口座開設を促すことが、今回の措置の狙いにあるだろう。
今回のNISA拡充については、課題も指摘されている。第1は、子どものNISA口座を使って積み立てた資金を、親が使ってしまう可能性があることだ。
この問題は完全に解決はできないが、12歳までは引き出せないこととし、12歳以降での引き出しも子供の同意などを条件にすることで対応する。「ジュニアNISA」の18歳までの引き出し制限が利用の低迷につながったことに配慮し、引き出し年齢は12歳へと引き下げられる。
第2の課題は、資金の余裕のある世帯では子供のNISA口座での投資を拡大させることができ、子供が成長した時点で相応の資産を得ることができることだ。これが資産格差を固定してしまうとの指摘がある。この問題についても完全に解決はできないが、今回は年間投資額の上限を60万円とし、「ジュニアNISA」の80万円から減額することで、一定程度対応しているのではないか。
第3は、一般に、NISA制度の拡充は、高額所得層の非課税枠での投資を助け、金融所得、金融資産の格差を拡大させてしまう、という問題だ。
この点については、2026年度税制改正で超富裕層の金融所得課税の強化を図ることで、一定程度対応されるものと考えることができる。金融所得が多い富裕層は税負担率が低くなることから、年間所得1億円前後で所得税負担率が低下する「1億円の壁」の問題が指摘されてきた。それへの対応から、超富裕層に追加の税負担を課すミニマムタックスが適用される年間所得水準を現行の約30億円から約6億円へと引き下げることが検討されている。
今回のNISA拡充については、課題も指摘されている。第1は、子どものNISA口座を使って積み立てた資金を、親が使ってしまう可能性があることだ。
この問題は完全に解決はできないが、12歳までは引き出せないこととし、12歳以降での引き出しも子供の同意などを条件にすることで対応する。「ジュニアNISA」の18歳までの引き出し制限が利用の低迷につながったことに配慮し、引き出し年齢は12歳へと引き下げられる。
第2の課題は、資金の余裕のある世帯では子供のNISA口座での投資を拡大させることができ、子供が成長した時点で相応の資産を得ることができることだ。これが資産格差を固定してしまうとの指摘がある。この問題についても完全に解決はできないが、今回は年間投資額の上限を60万円とし、「ジュニアNISA」の80万円から減額することで、一定程度対応しているのではないか。
第3は、一般に、NISA制度の拡充は、高額所得層の非課税枠での投資を助け、金融所得、金融資産の格差を拡大させてしまう、という問題だ。
この点については、2026年度税制改正で超富裕層の金融所得課税の強化を図ることで、一定程度対応されるものと考えることができる。金融所得が多い富裕層は税負担率が低くなることから、年間所得1億円前後で所得税負担率が低下する「1億円の壁」の問題が指摘されてきた。それへの対応から、超富裕層に追加の税負担を課すミニマムタックスが適用される年間所得水準を現行の約30億円から約6億円へと引き下げることが検討されている。
NISA拡充策で「貯蓄から投資へ」の流れが後押しされると期待
このように、今回のNISA拡充策には幾つか課題もあるが、それらへの対応措置も一定程度講じられている。また、「ジュニアNISA」同様に利用が広がらない可能性もあるだろう。しかし全体としては、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しし、経済の潜在力向上や少子化対策にも貢献する取り組みと評価できるだろう。
また、今回のNISA拡充策では、つみたて投資枠で債券中心の投資信託を認めることも別途検討されている。つみたて投資枠では、長期分散投資に適した一定の条件を満たす投信が認められている。従来は個別に指定した投信を除き株式が50%を超えていることが条件だったが、運用資産に株式が含まれていれば、債券比率が50%超の投信も可能にする。
金利上昇によって債券投資へのニーズが高まり、債券投資が長期の資産形成により貢献するようになってきたことを踏まえた措置だろう。この拡充策も「貯蓄から投資へ」の流れを後押しするものであり、評価したい。
(参考資料)
「税制改正大綱与党案 NISA 18歳未満に拡大 非課税保有600万円上限」、2025年12月12日、産経新聞
「NISAつみたて枠、18歳未満は600万円上限 12歳で引き出し可能」、2025年12月9日、日本経済新聞電子版
「債券中心の投信、NISAつみたて枠に追加へ 政府・与党」、2025年12月11日、日本経済新聞電子版
また、今回のNISA拡充策では、つみたて投資枠で債券中心の投資信託を認めることも別途検討されている。つみたて投資枠では、長期分散投資に適した一定の条件を満たす投信が認められている。従来は個別に指定した投信を除き株式が50%を超えていることが条件だったが、運用資産に株式が含まれていれば、債券比率が50%超の投信も可能にする。
金利上昇によって債券投資へのニーズが高まり、債券投資が長期の資産形成により貢献するようになってきたことを踏まえた措置だろう。この拡充策も「貯蓄から投資へ」の流れを後押しするものであり、評価したい。
(参考資料)
「税制改正大綱与党案 NISA 18歳未満に拡大 非課税保有600万円上限」、2025年12月12日、産経新聞
「NISAつみたて枠、18歳未満は600万円上限 12歳で引き出し可能」、2025年12月9日、日本経済新聞電子版
「債券中心の投信、NISAつみたて枠に追加へ 政府・与党」、2025年12月11日、日本経済新聞電子版
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。