最大限の控除上乗せを中間層にまで広げ追加の減税規模は年間約6,500億円に
2026年度自民党税制改正大綱の取りまとめを翌日に控えた12月18日に、自民党と国民民主党は、党首会談で年収の壁引き上げに合意した。自民党の2026年度税制改正は、これで最大の難所を越えた。
年収の壁(非課税枠)は現状の160万円から178万円へと、昨年12月の3党合意に沿って、国民民主党が当初から主張していた水準まで引き上げられる。
年収200万円までの低所得層の所得税の非課税枠は、当初の103万円から今年160万円まで引き上げられ、年末調整で減税が実施される。今回の措置では、基礎控除の最大限の上乗せを年収200万円の低所得層から650万円以下の中間層まで拡大し、その水準を178万円まで引き上げることが決まった。
国民民主党が当初から主張していた、住民税も含め、基礎控除、給与所得控除の合計を一律178万円まで引き上げる案では、その減税規模は年間7~8兆円と巨額になると試算された。
財務省の試算では、今回の措置による追加の減税規模は年間6, 500億円となる。103万円から160万円までの引き上げによる減税規模は約1.2兆円であることから、合計の減税規模は年間約1兆8,500億円となる。
年収の壁(非課税枠)は現状の160万円から178万円へと、昨年12月の3党合意に沿って、国民民主党が当初から主張していた水準まで引き上げられる。
年収200万円までの低所得層の所得税の非課税枠は、当初の103万円から今年160万円まで引き上げられ、年末調整で減税が実施される。今回の措置では、基礎控除の最大限の上乗せを年収200万円の低所得層から650万円以下の中間層まで拡大し、その水準を178万円まで引き上げることが決まった。
国民民主党が当初から主張していた、住民税も含め、基礎控除、給与所得控除の合計を一律178万円まで引き上げる案では、その減税規模は年間7~8兆円と巨額になると試算された。
財務省の試算では、今回の措置による追加の減税規模は年間6, 500億円となる。103万円から160万円までの引き上げによる減税規模は約1.2兆円であることから、合計の減税規模は年間約1兆8,500億円となる。
自民党は「名を捨てて実を取った」か
合計で約1兆8,500億円という減税規模は、国民民主党が当初から求めていた、年収に限らず一律の非課税枠引き上げの場合の減税規模である年間7~8兆円と比べると格段に小さい。このことは、国民民主党が大幅に譲歩する形で、自民党と合意したことを意味している。
非課税枠を178万円まで引き上げるといっても、主な対象を年収650万円以下の中間層にとどめれば、全体の減税規模を抑えることができる。今回の合意で、国民民主党は、選挙公約であった178万円までの年収の壁引き上げを中低所得層では実現させる一方、減税規模は大幅に縮小させることを受け入れた。いわば「名を取って実を捨てた」形だ。
他方、自民党としては、財源確保が困難な巨額の減税となることを避け、長期金利上昇や円安進行のリスクを抑えることを目指す一方、国民民主党が求める178万円までの年収の壁引き上げを、中低所得層中心で数字上実現するという「名を捨てて実を取った」形である。
大幅な減税になることは回避されたが、それでも追加の約6,500億円の減税について、その財源をしっかりと明示しないと、金融市場の財政への信頼を損ねることになるだろう。
非課税枠を178万円まで引き上げるといっても、主な対象を年収650万円以下の中間層にとどめれば、全体の減税規模を抑えることができる。今回の合意で、国民民主党は、選挙公約であった178万円までの年収の壁引き上げを中低所得層では実現させる一方、減税規模は大幅に縮小させることを受け入れた。いわば「名を取って実を捨てた」形だ。
他方、自民党としては、財源確保が困難な巨額の減税となることを避け、長期金利上昇や円安進行のリスクを抑えることを目指す一方、国民民主党が求める178万円までの年収の壁引き上げを、中低所得層中心で数字上実現するという「名を捨てて実を取った」形である。
大幅な減税になることは回避されたが、それでも追加の約6,500億円の減税について、その財源をしっかりと明示しないと、金融市場の財政への信頼を損ねることになるだろう。
年収の壁引き上げは低所得層中心の対応が妥当
自民党は国民民主党に対して、基礎控除、給与所得控除を2年間の物価上昇分に相当するそれぞれ4万円ずつ、合計8万円引き上げる一方、低所得層への上乗せ特例を10万円引き上げることを当初提案していた。
年収200万円までの低所得層の当初の非課税枠は103万円だったが、基礎控除、給与所得控除をそれぞれ10万円、合計で20万円引き上げ、さらに上乗せ特例で37万円が追加され、合計が160万円となっていた。
最終的には、基礎控除の最大限の上乗せ分の対象を年収200万円以下から年収650万円以下まで拡大する一方、基礎控除等非課税枠の一律引き上げ分を当初の自民党案の8万円から4万円に圧縮したと推察される。つまり、年収650万円を超える中高額所得層の減税額をより抑えたと考えられる。
本来、年収の壁引き上げの狙いは、働き控えの緩和と物価高による生活環境悪化への対応であった。一定の年収がある人には、新たな所得税支払いを避けるための働き控えは生じにくい。また、物価高の打撃を特に受けるのは、低所得層だ。この点から、年収の壁引き上げは低所得層中心の対応であるべきだろう。
国民民主党が、年収に限らず一律の非課税枠引き上げを求めてきたのは、現役世代の「手取りを増やす」という党の公約を実現するためだが、これは、現役世代の支持を獲得するための政治的な戦略の側面が強かったのではないか。
年収200万円までの低所得層の当初の非課税枠は103万円だったが、基礎控除、給与所得控除をそれぞれ10万円、合計で20万円引き上げ、さらに上乗せ特例で37万円が追加され、合計が160万円となっていた。
最終的には、基礎控除の最大限の上乗せ分の対象を年収200万円以下から年収650万円以下まで拡大する一方、基礎控除等非課税枠の一律引き上げ分を当初の自民党案の8万円から4万円に圧縮したと推察される。つまり、年収650万円を超える中高額所得層の減税額をより抑えたと考えられる。
本来、年収の壁引き上げの狙いは、働き控えの緩和と物価高による生活環境悪化への対応であった。一定の年収がある人には、新たな所得税支払いを避けるための働き控えは生じにくい。また、物価高の打撃を特に受けるのは、低所得層だ。この点から、年収の壁引き上げは低所得層中心の対応であるべきだろう。
国民民主党が、年収に限らず一律の非課税枠引き上げを求めてきたのは、現役世代の「手取りを増やす」という党の公約を実現するためだが、これは、現役世代の支持を獲得するための政治的な戦略の側面が強かったのではないか。
国民民主党の与党化が進むか
「名を取って実を捨てた」国民民主党の玉木代表は、同党が求めていたガソリン暫定税率廃止と年収の壁の178万円までの引き上げという2つの減税策を実現したとして、高市首相を高く評価する発言をしている。
今回の合意によって国民民主党と自民党の距離はさらに縮小し、国民民主党の与党化が進むのではないか。玉木代表は、自民党に対して、参院での赤字国債の特例法案の成立に協力すると発言している。国民民主党の与党化は、高市政権の安定性を高める方向に働くだろう。
今回の合意によって国民民主党と自民党の距離はさらに縮小し、国民民主党の与党化が進むのではないか。玉木代表は、自民党に対して、参院での赤字国債の特例法案の成立に協力すると発言している。国民民主党の与党化は、高市政権の安定性を高める方向に働くだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。