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日本銀行の利上げ後に円安・債券安が進んだ

12月22日の東京市場で、10年国債金利が26年10か月ぶりとなる2.1%台に乗せた。先週末の19日に日本銀行の利上げを受けて円安とともに債券安が進んだが、週明け後も債券安の流れには歯止めがかかっていない。10年国債金利は2営業日で0.1%以上上昇しており、例外的な大幅上昇である。債券市場は危機モードに入った感がある。
 
19日の日本銀行の0.25%の利上げは、事前の金融市場の予想通りだった。しかしその後、円は対ドルで2円以上円安に振れ、債券安も進んだ。日本銀行が、政策金利の中立水準まで距離があると説明したため、利上げに頭打ち感が出なかったことがその理由と言える。
 
しかし、長期金利に大きな影響を与える政策金利のピーク、つまりターミナルレートについての市場の見方は1.25%~1.50%程度と、従来と大きな差はない。その中で、債券安が進んだのは、利上げをきっかけにした市場のテクニカルな動きに加えて、財政悪化懸念を反映したものだろう。

長期金利の上昇は財政悪化懸念が主導

2026年度当初予算の規模は、2025年度当初予算の約115兆円を上回り120兆円超と過去最大規模になる見込みであるとの報道が、22日の一段の債券安の背景にある。10年国債金利は、高市政権発足前の1.6%台から0.5%程度上昇しており、財政悪化懸念がそれを主導したことは明らかだ。
 
短期的な市場の反応はともかく、日本銀行が利上げを実施し、さらなる利上げを実施する方向を見せたことは、インフレ懸念を緩和させ、円安・債券安に歯止めをかける効果が期待できる。政策金利の0.75%は、まだ中立金利の水準よりも低く、景気への悪影響は生じないと見られる。
 
他方、10年国債金利で2%を超える水準は、中立水準を上回り、景気に悪影響を生じさせかねないと考えられる。特に、企業の固定金利での借り入れコストが上昇し、設備投資に悪影響をもたらす可能性があるのではないか。
 
長期金利上昇のペースが加速し、債券市場のボラティリティが顕著に高まる危機モードに入ったことや、長期金利上昇の経済への悪影響が懸念される状況になったことを踏まえると、当局は債券市場の安定回復に努める必要がある。

高市政権は債券市場の強い警告を受け止める必要

日本銀行は国債買い入れオペの実施、国債の買い入れ削減ベースの低下などを通じて長期金利の上昇を抑えるオペレーションの実施に踏み切る可能性があるが、それは対処療法でしかない。長期金利上昇の底流にある債券市場の財政悪化懸念を低下させないと、長期金利の上昇には歯止めがかからないだろう。
 
円安による物価高や債券安(長期金利の上昇)は、いずれも経済に悪影響を与え、国民生活の逆風となる。この流れを変えることができるのは、高市政権が積極財政路線を軌道修正することだけである。
 
債券市場は12月26日の2026年度予算案の閣議決定に注目している。歳出規模が120兆円台後半あるいはそれ以上になる場合には、長期金利は一段と上昇ペースを高め、債券市場は混乱の度を強めることになるだろう。
 
現状は、債券市場の危機モードが一段と強まるかどうかの分岐点にあるのではないか。高市政権は2.1%台に乗せた10年国債金利を「市場の強い警告」と受け止め、財政健全化に向けた姿勢を早急に打ち出さないと、債券市場の混迷は一段と深まり、手遅れの状態に陥る可能性がある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。