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ベネズエラでの米国の石油の利権の回復・確保を目指す

米国のトランプ政権は1月3日に、南米ベネズエラの軍事施設を地上攻撃した。トランプ大統領は、反米左派のマドゥロ大統領夫妻を拘束し、国外に移送したことを明らかにしている。さらに、政権移行まで米国がベネズエラを運営するとし、事実上の管理下に置く考えを示した。
 
トランプ政権による今回の攻撃の狙いは主に3つあると考えられる。第1は、トランプ政権に敵対してきたマドゥロ政権を崩壊させること、第2は、米国への麻薬輸出経路を断つこと、第3は、ベネズエラでの米国の石油の利権を回復し、確保することだ。このうち、第3を最大の狙いとする見方が多い。
 
ベネズエラは原油埋蔵量世界一であり、米国は中国、ロシアなどとその利権を争う構図となっている。ベネズエラのチャベス前大統領は、資源関連産業の国有化を進め、2007年に複数の米企業から油田の開発権益を奪った。トランプ大統領は昨年12月に、ベネズエラによって奪われた米国の石油を取り戻したいと述べていた。さらに攻撃後には、ベネズエラの石油産業に米国が深く関与していく考えを示している。

国際法と米国憲法に違反するか

今回の攻撃についてトランプ政権は、ベネズエラからの大量の移民、テロリスト、麻薬の流入が米国の国益を大きく損ね、武力攻撃に匹敵すると解釈し、自衛のための措置と正当化しているようだ。
 
しかし世界、さらに米国内でも、今回の攻撃は他国への攻撃を禁じる国際法に違反するものとの指摘が多い。また、宣戦布告や事前に議会の承認を得なかったことは憲法違反であるとする批判が、米国内の与党共和党議員からも出ている。
 
高市首相は米国の行動についての評価を避けているが、自民党の小野寺・安全保障調査会長は「『力による現状変更』そのもので、中露を非難する論拠に矛盾する」と指摘している。また立憲民主党の野田代表は、「国際法に照らして正当性があるのか極めて疑問だ」と述べた。

モンロー主義に回帰する米国

今回のベネズエラ攻撃の背景には、米国政府の安全保障政策の転換があるとみられる。昨年12月にトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」では、米国の国益を優先し、中南米を中心とする「西半球」への対応を重視する方針に転換することを示した。これは、19世紀のモンロー主義への回帰である。南米での鉱物資源確保を狙う中国、ロシアなどに対しては徹底的に対抗する一方、「西半球」以外の地域への米国の安全保障政策上の関与を弱めていくものだ。
 
今回の米国によるベネズエラ攻撃は、米国自身がロシアや中国に対して批判してきた武力による一方的な現状変更に相当するものだ。そのため、ロシアによるウクライナ侵攻などを正当化してしまう恐れがある。
 
また、世界各地域での領土を巡る軍事攻撃を誘発するきっかけになる可能性も考えられる。一方、モンロー主義に基づき米国が介入に消極的ならば、軍事的な紛争拡大のリスクはより強まるのではないか。

金融市場はリスク回避傾向を強める:原油生産拡大への期待は経済的にプラス

米国によるベネズエラ攻撃と米国のモンロー主義への回帰は、世界全体の地政学リスクを高めることになる。新年早々の金融市場では株安、ドル安・円高、債券高などリスク回避の傾向がやや強まることが予想される。
 
ただし、米国の関与によってベネズエラでの石油産出量が拡大することは、原油価格を押し下げ、経済的には世界に恩恵をもたらすことになり得る。そうした期待が、金融市場のリスク回避傾向を弱める方向に働くことも考えられる。
 
金融市場はベネズエラ攻撃後のトランプ政権の対応や中国、ロシアなどの反応などを慎重に見極める展開となるだろう。
 
(参考資料)
「米ベネズエラ大統領拘束」、「米、国際法より国益優先」、2026年1月4日、日本経済新聞
「米、ベネズエラ首都攻撃」、「マドゥロ政権転覆」、2026年1月4日、読売新聞

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。