トランプ政権は軍事力を行使して「西半球」の支配を進める
国益重視の米国第一主義を掲げたトランプ政権は、2025年には貿易赤字削減、国内製造業復活を目指し、他国に対して一方的に関税を課した。2026年には、資源確保、移民・麻薬の流入抑制などを目指し、第三国の勢力を力で排除しつつ軍事力を用いて「西半球」の支配を強める戦略を本格化するだろう。
こうした戦略に基づいて、1月3日にトランプ政権はベネズエラを攻撃し、大統領を拘束した。ベネズエラには中南米で代表的な反米政府が存在していた。それ以外にも中南米には、中国やロシアとの協力を強化して米国の影響力の排除を目指すボリビア、ニカラグア、キューバなどの反米国家があり、そうした国々への今後のトランプ政権の対応が注目される。
トランプ米大統領は4日には、南北米大陸を中心とした西半球の麻薬生産地とみられる国々に対して、違法薬物の米国への流入を長くは容認しないと警告した。例えば「コロンビアも非常に病んでいる」と指摘し、今後何らかの介入を示唆する発言をしている。
米国が外交上言及する「西半球」とは、北米、南米を指すことが多いが、地理的概念で言えばもっと広く、南極大陸の西側、大西洋の大部分と太平洋の東側、欧州西端やアフリカ西部の一部も含まれると考えられる。北米大陸の北東側に位置するグリーンランドも「西半球」の一部であり、トランプ政権が支配を強めようとしている。
トランプ大統領はこれまでに、グリーンランドを米国が支配することは国家安全保障上必要だ、と繰り返し主張してきた。トランプ大統領は4日にも、「われわれは絶対にグリーンランドを必要としている。防衛のために必要だ」と改めて強調した。ベネズエラ軍事攻撃後のこうした発言について、グリーンランドが属するデンマークは、米国の軍事的野心に対する警戒感を高めている。
こうした戦略に基づいて、1月3日にトランプ政権はベネズエラを攻撃し、大統領を拘束した。ベネズエラには中南米で代表的な反米政府が存在していた。それ以外にも中南米には、中国やロシアとの協力を強化して米国の影響力の排除を目指すボリビア、ニカラグア、キューバなどの反米国家があり、そうした国々への今後のトランプ政権の対応が注目される。
トランプ米大統領は4日には、南北米大陸を中心とした西半球の麻薬生産地とみられる国々に対して、違法薬物の米国への流入を長くは容認しないと警告した。例えば「コロンビアも非常に病んでいる」と指摘し、今後何らかの介入を示唆する発言をしている。
米国が外交上言及する「西半球」とは、北米、南米を指すことが多いが、地理的概念で言えばもっと広く、南極大陸の西側、大西洋の大部分と太平洋の東側、欧州西端やアフリカ西部の一部も含まれると考えられる。北米大陸の北東側に位置するグリーンランドも「西半球」の一部であり、トランプ政権が支配を強めようとしている。
トランプ大統領はこれまでに、グリーンランドを米国が支配することは国家安全保障上必要だ、と繰り返し主張してきた。トランプ大統領は4日にも、「われわれは絶対にグリーンランドを必要としている。防衛のために必要だ」と改めて強調した。ベネズエラ軍事攻撃後のこうした発言について、グリーンランドが属するデンマークは、米国の軍事的野心に対する警戒感を高めている。
国家安全保障戦略(NSS)は「グローバル覇権」から「地域覇権」への転換を示す
トランプ政権が2025年11月に発表した「国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)」は、トランプ政権を自画自賛する言葉に溢れている。そこではトランプ政権が米国の安全保障政策を大きく見直す考えであることが示されている。
同戦略は、「グローバル覇権」を目指してきた米国の戦略は誤りだったと断じている。それは米国に大きな負担を強いる一方、米国の国益を効率的に高めるものではなかったとの考えだ。
そこで「グローバル覇権」を目指す戦略を、「西半球」という「地域覇権」を目指す戦略へシフトすることを宣言している。
その具体的な狙いは4点あり、第1に、中国・ロシア・イランによる港湾・エネルギー・通信インフラの支配を阻止すること、第2に、南米での資源確保を進めるエネルギー安全保障の強化、第3は、国境管理を国家安全保障の最優先課題にして移民流入を阻止すること、第4は、麻薬組織をテロ組織と見なし、麻薬対策として軍事行動を正当化することである。
同戦略は、「グローバル覇権」を目指してきた米国の戦略は誤りだったと断じている。それは米国に大きな負担を強いる一方、米国の国益を効率的に高めるものではなかったとの考えだ。
そこで「グローバル覇権」を目指す戦略を、「西半球」という「地域覇権」を目指す戦略へシフトすることを宣言している。
その具体的な狙いは4点あり、第1に、中国・ロシア・イランによる港湾・エネルギー・通信インフラの支配を阻止すること、第2に、南米での資源確保を進めるエネルギー安全保障の強化、第3は、国境管理を国家安全保障の最優先課題にして移民流入を阻止すること、第4は、麻薬組織をテロ組織と見なし、麻薬対策として軍事行動を正当化することである。
「モンロー主義のトランプ補論」
こうした新たな戦略は、「モンロー主義」をトランプ流に修正して現代に蘇らせるものだ。それは、「国家安全保障戦略」の中では、「モンロー主義のトランプ補論(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)」として説明されている。
モンロー主義(Monroe Doctrine)は、1823年にジェームズ・モンロー大統領が議会への年次教書で示した外交方針であり、南米諸国のスペインからの独立を米国が尊重する姿勢を示すものだった。米国は欧州諸国の内政や戦争に介入しない代わりに、欧州諸国にも米国大陸への植民地化や干渉を行わないよう求めた。
このようにモンロー主義は当初は「不干渉」を強調する孤立主義的な性格を持っていたが、やがて、米国による中南米への介入を正当化する根拠として使われるようになっていた。その一つがルーズベルト補論(Roosevelt Corollary)だ。南米諸国の債務問題や政情不安に対して、欧州諸国の介入を防ぐため、米国が南米地域で警察権を行使することを表明した。
トランプ補論は、モンロー主義、ルーズベルト補論をトランプ流に修正、発展させたものだ。中南米地域への欧州の介入を防ぐというものから、米国が中南米地域を中心とする「西半球」への支配を進めることで、米国の国益を最大限高めていくことを目指すものと言えるだろう。
重点地域を世界全体から「西半球」に絞り込んでいくが、最終的には米国が経済、金融、軍事など多くの面で世界最強の地位を盤石にすることが目指されている。
モンロー主義(Monroe Doctrine)は、1823年にジェームズ・モンロー大統領が議会への年次教書で示した外交方針であり、南米諸国のスペインからの独立を米国が尊重する姿勢を示すものだった。米国は欧州諸国の内政や戦争に介入しない代わりに、欧州諸国にも米国大陸への植民地化や干渉を行わないよう求めた。
このようにモンロー主義は当初は「不干渉」を強調する孤立主義的な性格を持っていたが、やがて、米国による中南米への介入を正当化する根拠として使われるようになっていた。その一つがルーズベルト補論(Roosevelt Corollary)だ。南米諸国の債務問題や政情不安に対して、欧州諸国の介入を防ぐため、米国が南米地域で警察権を行使することを表明した。
トランプ補論は、モンロー主義、ルーズベルト補論をトランプ流に修正、発展させたものだ。中南米地域への欧州の介入を防ぐというものから、米国が中南米地域を中心とする「西半球」への支配を進めることで、米国の国益を最大限高めていくことを目指すものと言えるだろう。
重点地域を世界全体から「西半球」に絞り込んでいくが、最終的には米国が経済、金融、軍事など多くの面で世界最強の地位を盤石にすることが目指されている。
トランプ版モンロー主義のもと日本は防衛費の増額を求められる
軍事力を行使するトランプ政権の「西半球」支配の試みは、同地域で米国と反米勢力との間の新たな紛争を誘発するだろう。またそうした米国の軍事行動が、米国が軍事的な影響力を相対的に低下させる他地域での新たな紛争を引き起こすことも考えられる。このように、2026年に、より明らかになっていくトランプ政権の安全保障戦略は、世界の地政学リスクを高め、経済活動にも悪影響を及ぼしかねない。金融市場では、リスク回避で金、スイスフランが買われている。
「西半球」支配に注力する戦略のもと、トランプ政権は他地域で同盟国に対して防衛費の負担増加を求めている。インド太平洋地域では、潜在的敵対勢力として中国を想定した、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にかけての島々を結ぶ線、いわゆる第1列島線を防衛するために、日本と韓国に対して防衛費の負担増加をトランプ大統領が強く要求していることが、「国家安全保障戦略」の中では明らかにされている。
トランプ政権に防衛費の負担増加を要求され、それを実現するなかで財政悪化が加速しかねない。それは円安、長期金利の上昇を通じて、日本経済の逆風となる。この点が、トランプ版モンロー主義によって日本が直接被る影響となるだろう。
(参考資料)
“National Security Strategy of the United States of America”, The White House, November 2025
「西半球」支配に注力する戦略のもと、トランプ政権は他地域で同盟国に対して防衛費の負担増加を求めている。インド太平洋地域では、潜在的敵対勢力として中国を想定した、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にかけての島々を結ぶ線、いわゆる第1列島線を防衛するために、日本と韓国に対して防衛費の負担増加をトランプ大統領が強く要求していることが、「国家安全保障戦略」の中では明らかにされている。
トランプ政権に防衛費の負担増加を要求され、それを実現するなかで財政悪化が加速しかねない。それは円安、長期金利の上昇を通じて、日本経済の逆風となる。この点が、トランプ版モンロー主義によって日本が直接被る影響となるだろう。
(参考資料)
“National Security Strategy of the United States of America”, The White House, November 2025
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。