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追加利上げに前向きな姿勢をアピール

日本銀行は2025年12月29日に、「金融政策決定会合における主な意見(2025年12月18、19日開催分)」を公表した。2025年12月19日の金融政策決定会合で、日本銀行は0.25%の政策金利引き上げを決めたが、今回の主な意見は、その際に政策委員が決定会合内で発言した主な内容を要約したものだ。
 
利上げの決定について反対意見はなく、全体としてはさらなる利上げに前向きの発言が大勢だった。今回の主な意見では、利上げをけん制する政府に対するメッセージも込めて、追加利上げに前向きな姿勢がアピールされた。
 
唯一慎重なトーンであったのは、「名目金利では久方ぶりの水準となるので、経済や金融市場への影響のモニタリングが肝要となる」との発言1つだけだった。9人の政策委員のうち、追加利上げに慎重な委員が仮にいるとしても、現時点では1人にとどまるものと考えられる。

利上げを巡る日本銀行と政府の間の軋轢はなお続く

利上げの条件は、経済的な側面では既に2025年10月の会合で満たされていたと考えられる。そうしたなか、日本銀行が2025年10月の利上げを見送ったのは、高市政権が利上げをけん制していたからだろう。そして、円安進行が後押しとなって、高市政権が利上げ容認に傾いたことで、利上げが可能になったと考えられる。
 
しかし、高市政権は引き続き利上げによる経済への悪影響を懸念しており、今後も利上げに対する慎重な姿勢は変わらないだろう。そうしたなか、日本銀行の政策委員がほぼ追加利上げに前向きな姿勢に傾いていることは、政府と日本銀行の組織としての軋轢が続くことを意味する。日本銀行は利上げを志向する基本姿勢は変わらず、政府が利上げに明確に反対しているタイミングを外して、今後も利上げを進めることになるだろう。
 
為替市場が円安に振れる際には、政府による日本銀行の利上げ姿勢は弱まり、そのタイミングを狙って日本銀行は追加利上げを決める可能性が考えられる。

財政リスクの高まりが長期金利上昇に

一人の委員は「財政政策と金融政策は補完し合う関係」として、財政による景気下支えと、利上げによる物価抑制はともに経済の安定にプラスであり、適切なポリシーミックスであると主張し、政府の財政政策と日本銀行の金融政策との間には矛盾はない点を示唆している。しかし、政府はそのようには理解しない可能性があるだろう。
 
他方、「長期金利の水準と変動はリスクプレミアム要因も相応にあるとみている。グローバルにも財政やインフレが意識されており、丁寧にみていきたい」との意見は、政府の積極財政が長期金利の上昇をもたらす一因であることを示唆しており、政府の財政政策を暗に批判しているとも理解できる。

中立金利の水準が不確実であるなか、日本銀行の利上げはより慎重に

今後の利上げの余地を巡って、政策金利の中立水準が注目される。主な意見では、理論的に中立金利の水準を推定することは困難であり、実際の経済指標を踏まえて中立金利を推定していく作業が重要であるとの意見が複数みられた。
 
「当面は数か月に一回のペースを念頭に、経済・物価の反応を確認しながら、金融緩和度合いの調整を進めるべきである」というタカ派色の強い意見も見られたが、これは少数意見である。
 
政策金利が既に中立金利のゾーンに入った可能性にも配慮し、経済情勢を見極めつつ、日本銀行は今までよりも慎重に利上げを進めていくことになるだろう。2026年前半は、米国の成長率の鈍化、政治介入を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待が高まり、ドル安円高のリスクが高まる可能性がある。この点も踏まえて、日本銀行が利上げに動くのは、2026年後半と予想される。
 
現時点で筆者は、次回の利上げは2026年9月、さらに2027年6月に政策金利が1.25%まで引き上げられ、そこがターミナルレート(政策金利の到達点)になると予想する。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。