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9日にも最高裁が関税の合法性の判断を示す:金融市場に大きな影響が及ぶ可能性

国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠にしたトランプ米政権の相互関税、中国、カナダ、メキシコに対する一律関税の合法性について、米最高裁の判断が間もなく下される。最高裁はこれまで審理済みの案件に関する意見公表日を9日に設定している。そこに関税に関する判断も含まれる可能性がある。
 
最高裁が違法判決を下せば、第2次トランプ政権の1年目を大きく特徴づけた関税策は、急速に縮小に向かう可能性が考えられる。トランプ政権の自国第一主義は堅持されるが、その場合、2年目の政策の重点は、軍事力の行使を伴い資源確保も視野に入れたトランプ版モンロー主義に基づく「西半球」覇権の強化、米連邦準備制度理事会(FRB)への政治介入強化とそれに伴うドル安誘導策などに移っていくだろう。
 
仮に最高裁が違法判決を下せば、関税による世界経済、米国向け輸出企業への悪影響が緩和されるとの期待から、世界的に株式市場に追い風となるのではないか。
 
また、支払った関税が一部返還されることから、米国でビジネスを行う企業の収益にもプラスの期待が生じる。他方、リスク回避傾向の後退は、ドル高円安要因となるが、関税縮小を通じた米国の貿易赤字再拡大への懸念によるドル安が、その効果を一部相殺するだろう。
 
さらに、関税収入の減少が米国債市場の逆風となる。IEEPAに基づく関税収入は、昨年12月14日時点で約1,330億ドル(約20.9兆円)に及んでいる。

相互関税などに米最高裁が違法判決を下す可能性

1審、2審ともに、IEEPAを根拠にした関税導入は大統領に与えられた権限を超えているとして、違法と判断され、トランプ政権は最高裁に上訴していた。最高裁の判事9人中6人はトランプ大統領が第1次政権で指名した人を含む保守派である。そのため、当初はトランプ政権寄りの判断が示されるとの見方が多かった。
 
しかし、昨年11月5日に開かれた最高裁の口頭弁論では、保守派の判事からも、厳しい指摘が相次いだ。現時点では、最高裁でも違法判決が下されるとの見方の方がやや優勢だ。

トランプ関税策は縮小方向へ

仮に違法判決となれば、相互関税、一律関税は失効し、トランプの関税政策は大きな壁に当たることになる。トランプ政権は最大の貿易赤字を抱える中国に対する関税率を大幅に引き下げ、また、米国民の食料品価格上昇への不満に配慮して南米産農産物を関税の対象から外すなど、既に関税策を縮小させる姿勢を見せているのである。違法判決はそうした流れを加速させるだろう。仮に合法判決となっても、関税策の縮小方向は変わらないだろう。
 
トランプ政権は違法判決となる場合でも、通商法など他の法律に基づいて関税を再導入する考えを示している。しかしその場合でも、同規模の相互関税、一律関税は難しいと考えられる。
 
通商法を根拠に関税を課す場合には、商務省や米通商代表部(USTR)が事前に綿密な調査を行うことが求められる。それは、自動車、鉄鋼など分野別関税では可能であっても、ほぼすべての国、すべての輸入品を対象にする相互関税では現実的でない。
 
そもそも、そうした問題を回避するために、トランプ政権は通商法ではなくIEEPAを初めて根拠にして相互関税、一律関税を課すことを決めたという経緯がある。IEEPAを根拠にできない場合には、相互関税、一律関税を再度課す場合でも、その範囲、規模はかなり限定されるだろう。

企業は関税の返還を求めて提訴

相互関税について最高裁で違法判決が出ても、それは「将来の課税を止める(prospective relief)」ことに限定される可能性が高く、既に企業が支払った関税が自動的に返還されることは保証されない。この点は米国最高裁の口頭弁論でも指摘されており、返還を受けるには別途手続きが必要となる。
 
過去の判例に照らすと、暫定的に支払った関税が314日後に正式に確定された後では、仮に相互関税に違法判決が下されても、支払った関税が返還されない可能性があるようだ。
 
4月に導入された相互関税の確定は年明けから2月にかけて始まることから、違法判決が下される前に、企業は返還を求める請求権の保全を裁判所に提訴しておく必要がある。実際、米国企業による提訴は相次いでおり、また、住友化学や豊田通商、リコーなどの日系企業も、現地法人が支払った関税の返還を求める裁判を起こしている。裁判記録によると、現在1000を超える企業が提訴している。
 
そうした対応をした企業であっても、関税の返還を求めて米政府と法廷闘争となる可能性がある。また、裁判で返還が命じられた場合でも、返還の手続きは煩雑となり、数年を要するとの指摘がある。
 
最高裁で違法判決が下され、トランプ関税が縮小に向かう場合でも、関税の返還を巡る政権と企業との間の混乱は続くことになる(コラム「米最高裁が相互関税に違法判決を下せば、トランプ関税策は後退へ:企業は関税の返還を求め提訴」、2025年12月24日)。
 
(参考資料)
「トランプ関税、米最高裁が近く合法性判断」、2026年1月8日、ブルームバーグ
「トランプ関税」、1000超の企業が提訴」、2026年1月8日、ブルームバーグ
「国・「トランプ関税」裁判・”最高裁で政権敗訴”の見方も」、2025年12月20日、NHK

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。