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高市内閣の高い支持率を背景に衆院解散を検討か

高市首相が、1月23日召集予定の通常国会の冒頭で衆院解散に踏み切る、との観測がにわかに強まっている。その場合、衆院選は2月上中旬に実施される可能性が高い。「1月27日公示-2月8日投開票」「2月3日公示-15日投開票」といった日程が考えられる。
 
1月9日深夜に読売新聞がオンラインで高市首相が衆院解散を検討していると報じ、他のメディアもそれに追随した。高市首相が衆院解散を検討するのは、自身の高い支持率が維持されているうちに衆院選挙を実施し、衆院での自民党の議席を回復させることで長期政権の実現を狙うためだ。
 
衆院では昨年11月に、自民会派に「改革の会」3議員が入り、連立を組む日本維新の会と合わせて、与党がぎりぎり過半数を回復した。衆院選挙でさらなる議席の積み増しを実現し、政策推進力を高めることを高市首相は目指す。
 
ただし、参院では与党は過半数の議席を得ておらず、「ねじれ国会」の状態にある。そこで、衆院選挙を通じて衆院での自民党の議席を積み増すとともに、野党との協議を通じて連立を拡大させ、参院での与党の過半数の議席獲得を同時に狙う可能性があるのではないか。
 
その場合、日本維新の会に加えて国民民主党を連立に組み入れること、あるいは連立のパートナーを日本維新の会から国民民主党に組み換え、参院では無所属の議員を新たに組み入れることで、与党の過半数の議席獲得を目指す可能性も考えられるだろう。

衆院解散をしても自民党の議席は期待されるほど伸びない可能性も

報道各社の世論調査によると、高市内閣は6~7割の高い内閣支持率を維持している。ただし、高市首相個人の人気は高いものの、政治とカネの問題などで国民の信認を失った自民党に対する支持率は決して高くない。昨年12月の読売新聞の世論調査によると、高市内閣の支持率が73%であったのに対し、自民党の支持率は30%にとどまっている。この自民党の支持率は、石破前首相の下で自民党が惨敗した2024年の衆院選の前よりも低い。
 
さらに、公明党の選挙協力を得られなくなったことから、衆院解散をしても自民党の議席は期待されるほど伸びない可能性もある。こうした点も踏まえ、高市首相は衆院解散の是非を慎重に判断するだろう。

解散総選挙で円安・株安・債券安の「高市トレード」がさらに進むか

任期満了前の衆院解散となれば、それを実施する大義が必要となる。選挙を通じて国民の信をまだ得ていない高市首相は、昨年10月の政権発足以降に打ち出した危機管理投資、物価高対策などの積極財政の是非について、国民の信を問うことが選挙の大義と説明するのではないか。
 
そのため、実際に衆院選挙が実施される方向となり、さらに自民党が議席を伸ばす展開が予想されていくなかでは、選挙後に、国民の信を得たとして、高市首相はさらに積極財政政策を推進するとの見方が強まるだろう。
 
ただし、解散総選挙は政治空白を生み、予算成立を遅らせて国民を犠牲にするとの批判が出てくることが予想される。
 
1月9日深夜に読売新聞がオンラインで高市首相が衆院解散を検討していると報じると、金融市場は大きく反応した。ドル円レートは1ドル157円台半ばから、一時158円台までドル高円安が進んだ。高市首相が積極財政姿勢を続け、財政環境が一段と悪化するとの観測が強まったためだ。
 
さらに、日経平均先物価格は、9日の海外市場で1,500円~1,600円程度の大幅上昇となった。積極財政による経済効果への期待と円安進行を受けたものだ。日本が休日だった12日には、日経平均先物価格はさらに上昇傾向を強め、現物の日経平均株価は史上最高値を大きく更新し、5万4千円台が視野に入っている。
 
昨年10月に高市新総裁が誕生して以降、積極財政や金融緩和への期待から金融市場では円安、株高、債券安(金利上昇)が急速に進んだ。ドル円レートは147円台から157円台に10円程度円安が進んだ。日経平均株価は4.6万円程度から5.2万円程度へ6,000円程度、10%以上上昇した。10年国債利回りは1.6%台から2.1%程度へと上昇した。
 
解散総選挙で自民党が勝利し、高市政権の積極財政が続くとの期待から、金融市場では円安、株高、債券安(金利上昇)の「高市トレード」がさらに進むことが予想される。

「高市トレード」の余地はそれほど大きくない可能性も

しかし、昨年10月以降、金融市場は高市政権の積極財政政策を既に相当分織り込んできたことから、さらなる円安、株高、債券安(金利上昇)の余地は、もはやそれほどには大きくないのではないか。
 
さらに、ドル円レートが1ドル160円程度と想定される政府の防衛ラインにかなり接近してきていることも見逃せない。政府は1ドル160円を超えてさらに円安が進むことを防ぐために、ドル売り円買い介入を実施する可能性がある。それでも1ドル160円を超えて円安が進むことを阻止できないかもしれないが、円安の余地はもはやそれほど残されていないのではないか。そうなれば、円安に後押しされる株高、財政悪化に加えて円安・物価高にも後押しされる債券安(金利上昇)の余地も、それぞれそれほど大きくはないのではないか。

中長期的な財政健全化が経済の安定を通じて長期政権の実現を助けるか

高市政権による積極財政観測を受けた円安・債券安は、経済の安定を損ねる恐れがある。今年はようやく物価上昇率の低下が見込まれる情勢になったが、円安がさらに進めば物価上昇率の高止まりは解消されず、個人消費の逆風になる。
 
さらに、2%の水準を超える10年国債利回りは、企業の資金調達コストを引き上げ、景気に悪影響を及ぼしかねない。そうしたなか、日本銀行が利上げを控えても、長期金利を下げることはできない。逆に利上げの見送りが円安・物価高を助長するとの見方から、さらなる長期金利の上昇につながりかねないだろう。円安と長期金利上昇のリスクを軽減できるのは、政府の財政姿勢の修正だ。
 
高市政権が中長期的な財政の健全化を目指す姿勢をより明確に打ち出すことは、物価の安定、長期金利の安定をもたらし、持続的な経済成長につながる。それこそが、長期政権の実現を助けることになるのではないか。
 
(参考資料)
「高市首相が衆院解散を検討、23日通常国会の冒頭に…2月上中旬に投開票の公算」、2026年1月9日、読売新聞速報ニュース
「高市政権安定へ勝負…衆院解散検討、高支持率で慎重論振り切る」、2026年1月9日、読売新聞速報ニュース
「<高市政権の行方>衆院解散案が浮上 23日の通常国会冒頭で 高市首相は慎重に判断」、2026年1月10日

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。