パウエル議長のレームダック化を進める狙い
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11日に、「司法省が9日、FRBに大陪審の召喚状を送り、昨年6月の上院銀行委員会での私の証言に関連した刑事訴追を警告した」と述べた。これに先立ち、米紙ニューヨーク・タイムズ紙はワシントンの連邦検察がFRBの本部改修を巡り、パウエル議長に対する捜査を開始した、と報じていた。パウエル議長が議会で改修工事の規模について偽証したかどうかも捜査対象となり、同氏の発言に関する分析や支出記録の検証などが行われるという。
パウエル議長は、本部改修を巡る自身への刑事捜査は「口実に過ぎない」とし、トランプ大統領の利下げ圧力に自身が応じなかったことと関連している可能性をにじませる発言をしている。
パウエル議長は今年5月に議長職としての任期を終える。トランプ政権は今月中にパウエル議長の後任人事を発表する予定だ。トランプ大統領に忠誠を誓い、積極的な利下げを約束する人物をパウエル議長の後任に指名することで、パウエル議長に一段の利下げ圧力をかけることに加え、パウエル議長のレームダック化を進める狙いがある。今回の刑事訴追の警告も同様の狙いと考えられる。
パウエル議長は、本部改修を巡る自身への刑事捜査は「口実に過ぎない」とし、トランプ大統領の利下げ圧力に自身が応じなかったことと関連している可能性をにじませる発言をしている。
パウエル議長は今年5月に議長職としての任期を終える。トランプ政権は今月中にパウエル議長の後任人事を発表する予定だ。トランプ大統領に忠誠を誓い、積極的な利下げを約束する人物をパウエル議長の後任に指名することで、パウエル議長に一段の利下げ圧力をかけることに加え、パウエル議長のレームダック化を進める狙いがある。今回の刑事訴追の警告も同様の狙いと考えられる。
11月の中間選挙も視野に入れ
FRB議長への刑事捜査という異例の事態は、政府から独立するFRBに対するトランプ政権による不当な政治介入が一気に強化されたことを意味する。FRBの独立性は過去最大の危機に直面しており、大いに憂慮される状況だ。
トランプ政権がFRBへの政治介入を強め、FRBの支配を進める背景には、雇用情勢の悪化などを受けたトランプ政権に対する国民の支持の低下があるだろう。それは、11月の中間選挙での共和党の敗北につながりかねない。11月の中間選挙までに利下げを通じて雇用情勢を回復させるためには、金利低下が経済効果を生むまでに時間がかかることを踏まえ、5月のパウエル議長の退任を待たずに、今年前半中にも利下げを進める必要があるとトランプ政権は判断しているのではないか。
さらに、FRBの積極利下げを通じてドル安誘導を行うことで、景気浮揚とともに関税策に代わって新たに貿易赤字削減を進める手段とする狙いも考えられる。
トランプ政権がFRBへの政治介入を強め、FRBの支配を進める背景には、雇用情勢の悪化などを受けたトランプ政権に対する国民の支持の低下があるだろう。それは、11月の中間選挙での共和党の敗北につながりかねない。11月の中間選挙までに利下げを通じて雇用情勢を回復させるためには、金利低下が経済効果を生むまでに時間がかかることを踏まえ、5月のパウエル議長の退任を待たずに、今年前半中にも利下げを進める必要があるとトランプ政権は判断しているのではないか。
さらに、FRBの積極利下げを通じてドル安誘導を行うことで、景気浮揚とともに関税策に代わって新たに貿易赤字削減を進める手段とする狙いも考えられる。
ドル資産離れ、トリプル安を生じさせる可能性も
しかし、トランプ政権がFRBへの政治介入を強めれば、金融政策とともに通貨への信認低下をもたらす。それは単純にドルの価値を下げるだけではなく、ドル資産を保有することへの不安を金融市場で高めるだろう。
昨年夏には、トランプ政権が人事を通じてFRBの政治介入を強めると、ドル資産を金に移す動きが強まった。その結果、金価格の高騰が生じた。ドル安を警戒して資産を移すこうした動きは、「ディベースメント取引」と呼ばれる。
トランプ政権がFRBへの政治介入を一段と加速させれば、米国金融資産全体から資金逃避が生じ、ドル安、株安、債券安、いわゆるトリプル安につながりかねない。これは米国にとどまらず、世界の金融市場に動揺をもたらすだろう。
こうした点を踏まえれば、トランプ政権はFRBに対する不当な政治介入を直ちにやめるべきだ。
(参考資料)
「米政権が刑事訴追警告とパウエル氏、金利巡る圧力強化の「口実」」、2026年1月12日、ロイター通信ニュース
「パウエルFRB議長を捜査、米連邦検察 本部改修巡り=報道」、2026年1月12日、ロイター通信ニュース
「FRBパウエル議長、刑事捜査の対象に トランプ氏の政治圧力を示唆」、2026年1月12日、日本経済新聞電子版
昨年夏には、トランプ政権が人事を通じてFRBの政治介入を強めると、ドル資産を金に移す動きが強まった。その結果、金価格の高騰が生じた。ドル安を警戒して資産を移すこうした動きは、「ディベースメント取引」と呼ばれる。
トランプ政権がFRBへの政治介入を一段と加速させれば、米国金融資産全体から資金逃避が生じ、ドル安、株安、債券安、いわゆるトリプル安につながりかねない。これは米国にとどまらず、世界の金融市場に動揺をもたらすだろう。
こうした点を踏まえれば、トランプ政権はFRBに対する不当な政治介入を直ちにやめるべきだ。
(参考資料)
「米政権が刑事訴追警告とパウエル氏、金利巡る圧力強化の「口実」」、2026年1月12日、ロイター通信ニュース
「パウエルFRB議長を捜査、米連邦検察 本部改修巡り=報道」、2026年1月12日、ロイター通信ニュース
「FRBパウエル議長、刑事捜査の対象に トランプ氏の政治圧力を示唆」、2026年1月12日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。