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さらに進む「高市トレード」

共同通信は13日に、高市首相が通常国会冒頭で衆院を解散する意向を自民党幹部に伝えたことを関係者が同日に明らかにした、と報じた。23日の通常国会冒頭での解散の可能性については、読売新聞が9日に政府関係者の情報を基に報道していた。金融市場は衆院解散をほぼ確信するに至っている。
 
高市首相の支持率が高いうちに衆院の解散総選挙が行われ、衆院で自民党が議席を伸ばせば、高市政権が掲げる積極財政等の政策が国民の信を得たことになり、選挙後はその傾向が強まるとの観測が、金融市場に広まっている。
 
積極財政は、財政環境を悪化させることから債券安(長期金利上昇)をもたらす一方、財政とともに通貨の信頼性を損ねることで円安を生じさせる。さらに円安と積極財政の短期的な経済効果への期待は株高を生む。
 
13日の東京市場では、こうした円安、株高、債券安のいわゆる「高市トレード」が一段と強まり、日経平均株価は5万3千円台と史上最高値に乗せ、10年国債利回りは2.15%と約27年ぶりの高い水準、ドル円レートは158円90銭台と2024年6月以来の円安水準になるなど、いずれも大きな動きが見られている。

円安・債券安は経済にマイナス:「トリプル安」に転化する可能性も

他方、円安進行は物価高を助長し、長期国債利回りの上昇は企業の長期性資金調達コストを引き上げて、景気抑制効果を生じさせる可能性がある。このまま「高市トレード」が続けば、株高の景気浮揚効果は、円安・物価高、長期国債利回り上昇による景気抑制効果に相殺されかねない。
 
さらに、財政悪化への懸念は日本の金融資産全体への信頼を損ね、いずれ、円安、株安、債券安の「トリプル安」に転化する可能性を秘めていよう。

さらなる円安・債券安が高市政権に積極財政姿勢の軌道修正を促す可能性も

「高市トレード」のうち、最も限界に近いとみられるのが円安だろう。政府は1ドル160円を概ね防衛ラインと考えているのではないか。
 
片山さつき財務相は13日に、ベッセント米財務長官と会談し、一方的な円安を憂慮していると伝え、認識を共有したと述べた。これは、円安を食い止めるための口先介入である。1ドル160円に近い円安水準のもとでは、政府はいつドル売り円買い介入を実施してもおかしくない。そのため、さらなる円安進行の余地は大きくないのではないか。円安の余地が大きくないとすれば、株高、債券安の余地も限定されやすい。
 
衆院解散を受けた今回の「高市トレード」は、昨年10月の高市政権発足後の「高市トレード」の第2弾、「高市トレード2.0」とも言えるものだ。しかし、円安が政府の防衛ラインまで接近する中、さらなる円安、そして「高市トレード」全体の余地は第1弾ほどには大きくない。
 
ただし、政府がドル売り円買い介入を実施しても円安に歯止めがかからない場合、例えば1ドル165円を目指す動きになるような場合には、債券安も一段と進むだろう。
 
その際には、高市政権はさらなる円安、債券安が経済や金融市場に与える悪影響を警戒して、積極財政姿勢の軌道修正を余儀なくされる可能性も出てくるのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。