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イランの反政府デモにトランプ政権が介入の姿勢

イランの反政府デモに、トランプ政権が介入する可能性が高まっている。2週間程度続くイランのデモは、首都テヘランのグランドバザールで、物価高騰に抗議して商人らが店を閉めたことがきっかけだったとされている。デモが各地に広がる中で、改革や開放を求める反政府デモの様相が強まっていった。
 
イラン司法当局はデモ参加者が「神の敵」であり、死刑に値すると表明した。また、最高指導者ハメネイ師は、米国など外国勢力がデモを後押ししているとの見方を示している。イラン国外に拠点を置く放送局「イラン・インターナショナル」は13日に、大規模反政府デモで少なくとも1万2,000人が死亡し、その多くは30歳未満の若者だったと報じている。
 
トランプ大統領は、イランの反政府デモの支持を表明し、それに介入する可能性を示唆してきた。イラン政権に対し平和的な抗議活動の参加者を殺害しないよう警告し、1月8日には、当局がデモ参加者に発砲した場合、米国は「発砲を開始する」と述べた。トランプ政権はいよいよ本格的に介入することを検討し始めたとの見方が広がっている。
 
介入の選択肢には、オンライン上の反政府情報源の強化、イランの軍事施設および民間施設への秘密のサイバー兵器の配備、イラン政府への追加制裁、軍事攻撃などが含まれるとウォールストリート・ジャーナル紙は報じている。
 
1月8日からイラン国内のインターネット接続が急激に低下し、主要プロバイダで通信が完全に停止した状態が続いている。反政府デモを受けた政府による情報統制措置と考えられる。トランプ政権は、イーロン・マスク氏が提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」の端末をイランに配置することも検討しているという。これにより、抗議活動参加者はイラン政府によるインターネット遮断を回避できる可能性がある。
 
他方、軍事行動については、米国がイラン国内でのデモを後押ししているとのイラン政府のプロパガンダを助けることになりかねないとして、トランプ政権内では軍事行動について慎重な意見もある。また、地域の緊張を高め、米国とイラン、イスラエルとイランの直接対決を誘発する可能性があると懸念する向きもある。現状では、トランプ政権によるイラン攻撃が差し迫っているとまでは言えないだろう。
 
軍事攻撃に技術的な問題もある。米国防総省は、現時点で、軍事攻撃に備えて部隊を移動させていない。米国は最近、ベネズエラへの対応のため、空母ジェラルド・R・フォードとその打撃群を地中海から中南米に移動させたため、中東にも欧州にも空母は残っていない。

地政学リスクの高まり、原油価格上昇のリスクも

仮にトランプ政権がイランを空爆すれば、昨年8月以来となる。その際には、B-2ステルス爆撃機がイランの核施設3カ所に大きな損害を与え、政権の核開発計画を後退させた。この戦略が成功したと米国が判断していること、その他、ベネズエラ攻撃、ナイジェリア、ソマリア、シリア、イエメンでの一連の爆撃作戦によって米国は利益を得たと考える向きが政権内で少なくないことから、最終的にトランプ政権がイラン再攻撃に踏み切る可能性は否定できない。
 
その場合、イラク、シリア、レバノンなどでイランの影響下にある武装勢力が米国や同盟国を標的にする可能性があり、地政学リスクは一気に高まる。さらに、イランが、世界の原油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡を封鎖するとの観測から原油価格が急騰する可能性も考えられる。これはトランプ政権が管理するもとでベネズエラでの原油生産が増加するとの期待から下振れている原油価格を大きく上昇させ、世界経済、金融市場を不安定化させるだろう。原油価格の上昇は、米国内でも国民の不満を高め、11月の中間選挙で与党共和党に逆風となる。
 
(参考資料)
“U.S. Steps Up Planning for Possible Action in Iran”, Wall Street Journal, January 12, 2026
「イラン「米攻撃なら反撃」 トランプ氏、介入準備強調」、2026年1月12日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。