鉱物資源の確保を目指す「ドンロー主義」
トランプ米政権は、ベネズエラ産原油の販売を管理すると発表した。米国はそのうち年間3,000万~5,000万バレルを獲得するという。
南北米大陸を中心とする西半球での覇権を目指す「トランプ版モンロー主義」、いわゆる「ドンロー主義」は、鉱物資源の確保が重要な目的となっている。こうした姿勢は重商主義的アプローチに近いと言えるが、やや懐古主義的な印象も否めない。
経済活動の中で、鉱物資源の重要性は低下している。生産効率の向上、技術革新の影響で、モノを1単位作る際に必要な原油投入量、いわゆる原単位は低下傾向を続けている。さらに、米国は世界最大の原油産出国であり、純輸出国でもある。原油の調達に支障がある訳ではない。
そうしたなか、トランプ大統領が鉱物資源確保へのこだわりを強めているのは、2025年にレアアースの輸出規制という強力な切り札を持つ中国に、貿易戦争で負けてしまったという経験が影響しているのではないか。
他国を支配して鉱物資源から米国が利益を得ることは簡単とは言えない。治安が安定しなければ米企業が当該国でのビジネスに慎重になるのは当然だ。そして治安維持を図るには、米軍が駐在する必要があるため、政府の費用が嵩んでしまう。
トランプ政権は、ベネズエラの反米政府を倒し、ベネズエラの原油の権益が中国に渡ることを妨げ、米企業が利益を上げられるようになることを目指している。しかし今後、トランプ政権の思惑通りになるとは限らないだろう。
南北米大陸を中心とする西半球での覇権を目指す「トランプ版モンロー主義」、いわゆる「ドンロー主義」は、鉱物資源の確保が重要な目的となっている。こうした姿勢は重商主義的アプローチに近いと言えるが、やや懐古主義的な印象も否めない。
経済活動の中で、鉱物資源の重要性は低下している。生産効率の向上、技術革新の影響で、モノを1単位作る際に必要な原油投入量、いわゆる原単位は低下傾向を続けている。さらに、米国は世界最大の原油産出国であり、純輸出国でもある。原油の調達に支障がある訳ではない。
そうしたなか、トランプ大統領が鉱物資源確保へのこだわりを強めているのは、2025年にレアアースの輸出規制という強力な切り札を持つ中国に、貿易戦争で負けてしまったという経験が影響しているのではないか。
他国を支配して鉱物資源から米国が利益を得ることは簡単とは言えない。治安が安定しなければ米企業が当該国でのビジネスに慎重になるのは当然だ。そして治安維持を図るには、米軍が駐在する必要があるため、政府の費用が嵩んでしまう。
トランプ政権は、ベネズエラの反米政府を倒し、ベネズエラの原油の権益が中国に渡ることを妨げ、米企業が利益を上げられるようになることを目指している。しかし今後、トランプ政権の思惑通りになるとは限らないだろう。
米石油大手はベネズエラへの投資に慎重な姿勢
トランプ米大統領は1月9日に、約20社の石油会社幹部をホワイトハウスに招き、世界最大級の石油資源を誇るベネズエラでの採掘を要請した。トランプ大統領は会合の冒頭で、米石油会社が同国での石油生産拡大に向けて少なくとも1,000億ドル(約15兆7000億円)を投資するよう期待していると述べた。
しかし幹部の間からは慎重な意見が出され、直ちにベネズエラでの投資を約束させることはできなかったのである。
現在ベネズエラで唯一操業している米大手石油会社は、シェブロンだけだ。その他の大手は、かつてベネズエラで資産が接収されたという経験を持っている。エクソンモービルとコノコフィリップスは、約20年前のチャベス政権時代に石油資産が国有化された際に資産を接収され、ベネズエラからの撤退を余儀なくされた。両社は現在も奪われた資産を取り戻そうとしている。エクソンモービルは120億ドル、コノコフィリップスは200億ドル の損害賠償を求めてベネズエラに対して訴訟を起こしている。
そうした苦い経験を踏まえると、各社は即座にベネズエラに投資を行うことはできないのは当然だ。まずは政治・治安の安定と、ベネズエラの政策が反米に戻らないことが投資の条件となるだろう。さらにチャベス政権以降、石油関連のインフラが大きく劣化していることから、インフラ整備に米政権が乗り出すことも求めるだろう。
エクソンモービルのダレン・ウッズ最高経営責任者(CEO)は、ベネズエラの商業的枠組み、法制度、炭化水素法が大幅に変更されない限り、同国での投資は不可能だとトランプ大統領に述べた。さらに「当社はこれまでに2度、同国で資産を接収されている。3度目の進出に踏み出すには、これまでの経験や現状から考えて、かなり大幅な変更が必要になることは想像に難くない」と述べている。
米企業がベネズエラで安心して投資を行い、ビジネスを継続するためには、米政府が米軍を駐留させて治安維持に努める必要があるだろうが、それはコストがかかるうえ、米軍に被害が出れば米国民からの批判も高まる。
米国がベネズエラから得る見込みの3,000万~5,000万バレルは、原油価格が1バレル50ドルで計算すると15億ドル~25億ドルとなる。これは、米国内の石油・ガス生産の年間生産額2,400億ドルの0.6%~1.0%に過ぎない。大きなリスクをとってベネズエラでのビジネスに注力するインセンティブは、米企業にはないだろう。
しかし幹部の間からは慎重な意見が出され、直ちにベネズエラでの投資を約束させることはできなかったのである。
現在ベネズエラで唯一操業している米大手石油会社は、シェブロンだけだ。その他の大手は、かつてベネズエラで資産が接収されたという経験を持っている。エクソンモービルとコノコフィリップスは、約20年前のチャベス政権時代に石油資産が国有化された際に資産を接収され、ベネズエラからの撤退を余儀なくされた。両社は現在も奪われた資産を取り戻そうとしている。エクソンモービルは120億ドル、コノコフィリップスは200億ドル の損害賠償を求めてベネズエラに対して訴訟を起こしている。
そうした苦い経験を踏まえると、各社は即座にベネズエラに投資を行うことはできないのは当然だ。まずは政治・治安の安定と、ベネズエラの政策が反米に戻らないことが投資の条件となるだろう。さらにチャベス政権以降、石油関連のインフラが大きく劣化していることから、インフラ整備に米政権が乗り出すことも求めるだろう。
エクソンモービルのダレン・ウッズ最高経営責任者(CEO)は、ベネズエラの商業的枠組み、法制度、炭化水素法が大幅に変更されない限り、同国での投資は不可能だとトランプ大統領に述べた。さらに「当社はこれまでに2度、同国で資産を接収されている。3度目の進出に踏み出すには、これまでの経験や現状から考えて、かなり大幅な変更が必要になることは想像に難くない」と述べている。
米企業がベネズエラで安心して投資を行い、ビジネスを継続するためには、米政府が米軍を駐留させて治安維持に努める必要があるだろうが、それはコストがかかるうえ、米軍に被害が出れば米国民からの批判も高まる。
米国がベネズエラから得る見込みの3,000万~5,000万バレルは、原油価格が1バレル50ドルで計算すると15億ドル~25億ドルとなる。これは、米国内の石油・ガス生産の年間生産額2,400億ドルの0.6%~1.0%に過ぎない。大きなリスクをとってベネズエラでのビジネスに注力するインセンティブは、米企業にはないだろう。
トランプ政権の鉱物資源確保の戦略に米企業がついていけない可能性も
このように、ドンロー主義に基づき西半球での資源確保に動くトランプ政権の戦略は、必ずしも米企業、米経済の利益になるとは限らない。トランプ大統領がグリーンランドの購入に強い意欲を見せる背景には、ロシア、中国への軍事面で対抗することに加えて、グリーンランドの鉱物資源を獲得する狙いがあるだろう。
グリーンランドはその約80%が氷床(氷に覆われた地域)であり、その厚さは場所によって最大約3kmにも達する。温暖化で氷床が縮小してきているとはいえ、鉱物資源の採掘にはかなりコストがかかる。過酷な地理的条件により、グリーンランドには、稼働中の鉱山は二つしかない。また、トランプ政権が期待するグリーンランドのレアアース(希土類)の埋蔵量は米国よりも少ない。
仮に米国がグリーンランドを購入しても、ベネズエラと同様に、米企業はそこでの投資に慎重な姿勢を崩さない可能性もあるだろう。
政府が自国の経済的利益を追求する重商主義的色彩が強いトランプ版モンロー主義、ドンロー主義の下で進められる鉱物資源の獲得は、まさに理念先行であり、米企業がそれについていけず、米国が経済的利益を十分に享受できない可能性もあるのではないか。
(参考資料)
“Venezuela Ushers in the Era of Trump’s ‘Donroe Doctrine’(トランプ氏「ドンロー主義」時代の到来告げるベネズエラ)”, January 6, 2026, Wall Street Journal
“The Economics of Taking Venezuela’s Oil: Low Risk, Low Reward(ベネズエラ産原油支配は「低リスク・低リターン」)”, January 9, 2026, Wall Street Journal
“Trump Presses Oil Executives to Invest in Venezuela-but Gets Lukewarm Reception(トランプ氏、石油大手にベネズエラ投資迫る 反応は冷ややか)”, January 10, 2026, Wall Street Journal
グリーンランドはその約80%が氷床(氷に覆われた地域)であり、その厚さは場所によって最大約3kmにも達する。温暖化で氷床が縮小してきているとはいえ、鉱物資源の採掘にはかなりコストがかかる。過酷な地理的条件により、グリーンランドには、稼働中の鉱山は二つしかない。また、トランプ政権が期待するグリーンランドのレアアース(希土類)の埋蔵量は米国よりも少ない。
仮に米国がグリーンランドを購入しても、ベネズエラと同様に、米企業はそこでの投資に慎重な姿勢を崩さない可能性もあるだろう。
政府が自国の経済的利益を追求する重商主義的色彩が強いトランプ版モンロー主義、ドンロー主義の下で進められる鉱物資源の獲得は、まさに理念先行であり、米企業がそれについていけず、米国が経済的利益を十分に享受できない可能性もあるのではないか。
(参考資料)
“Venezuela Ushers in the Era of Trump’s ‘Donroe Doctrine’(トランプ氏「ドンロー主義」時代の到来告げるベネズエラ)”, January 6, 2026, Wall Street Journal
“The Economics of Taking Venezuela’s Oil: Low Risk, Low Reward(ベネズエラ産原油支配は「低リスク・低リターン」)”, January 9, 2026, Wall Street Journal
“Trump Presses Oil Executives to Invest in Venezuela-but Gets Lukewarm Reception(トランプ氏、石油大手にベネズエラ投資迫る 反応は冷ややか)”, January 10, 2026, Wall Street Journal
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。