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トランプ政権は日本政府のドル売り円買いの為替介入を容認する姿勢か

昨年10月の高市政権発足以降、為替市場ではほぼ一貫してドル高円安が進んでおり、足元ではいよいよ政府の防衛ラインと考えられる1ドル160円に接近している。
 
片山財務大臣は、13日のベッセント米財務長官との会談を受けて、「最近の行き過ぎたファンダメンタルズを反映していない動きについては行き過ぎだという認識を共有した」と発言した。また昨年9月の日米財務相共同声明の合意の中には対応策として「為替介入が含まれている」ことも改めて指摘している。米国政府と協調する姿勢を見せることで、円安けん制の影響力を高める狙いがあるのだろう。
 
米国との協調介入も選択肢かと質問に対しては、片山大臣は「あらゆる手段は排除されないものと考えている」と述べた。仮に日米がドル売り円買いの協調介入を実施すれば、それは大きなサプライズであり、高い効果を発揮するだろう。しかし、少なくとも近い将来、その実現可能性は低い。
 
日本政府が前回為替介入を実施したのは、2024年(4月、5月、7月)だった。2025年には為替介入は実施されなかった。近い将来に為替介入を再び実施する場合には、米国政府の反発は前回よりも小さいだろう。前回の為替介入実施は、為替操作を嫌うバイデン政権の下であったが、今回は、トランプ政権が円安を問題視し、円安修正を望んでいるからだ。

為替介入は時間を買う政策

為替介入によって為替の水準や方向性を持続的に変えることはできない。為替介入が為替の需給に与える影響は大きくないためだ。日本銀行によると、2022年4月の1営業日当たりの平均取引額は4,325億ドルだ。現在の為替レートで計算すると68.5兆円となる。他方、政府が2022年に実施した為替介入でのドル売りは1年間の合計で約9.2兆円、2024年は約9.8兆円である。これらは、1日の為替取引額と比べればかなり小さく、それだけで為替の需給に持続的な影響を与えることはできない。
 
為替介入は為替市場に一時的な影響しか与えることはできない。それでも、円安の流れを通常、1~2か月食い止めることはできる。為替介入は「時間を買う政策」である。
 
為替介入で時間を買い、何とかしのぐ間に、経済ファンダメンタルズが変わり、為替の流れが変わるのを待つ、というのが為替介入の本質だ。

為替介入で時間稼ぎをする間に高市政権が積極財政政策を修正できるか

為替介入で一時的に円安の流れを抑えている間に、高市政権が積極財政姿勢を後退させれば、持続的に円安の流れを変えることは可能だろう。それは、物価高を抑えることにもつながり、また長期金利の上昇を抑えることにもなる。
 
為替介入で時間稼ぎをしている間に、高市政権が財政政策を修正し、円安・債券安の流れが止まることが、日本経済や国民生活にとっては望ましいだろう。
 
(参考資料)
「片山財務相『あらゆる手段含め断固たる措置』、円安けん制強める」、2026年1月16日、ブルームバーグ

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。