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高市政権が次期衆院選で消費税減税を公約に掲げることを検討

高市政権が、次期衆院選で食料品の消費税率を時限的にゼロにする案を選挙公約に掲げることを検討している。
 
2025年10月の自民党と日本維新の会による連立政権合意では「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化を検討する」としていた。しかし、高市首相は、消費税減税の実施に時間がかかることなどを理由に、消費税減税には慎重な姿勢を見せており、それに代わる物価高対策として、ガソリン暫定税率の廃止、電気・ガス補助金、地方交付税を財源に自治体が独自に物価高対策(プレミアム商品券配布、生活支援事業など)を展開できるようにする、などの施策を補正予算に盛り込んだ。
 
他方、より抜本的な物価高対策としては、給付付き税控除制度創設の議論を進めるとしていた。仮に高市政権が食料品の消費税率ゼロ化を衆院選の主要公約に掲げるのであれば、従来の方針が修正された理由を説明することが求められる。

消費税減税は有権者の関心を引くための選挙戦略でしかなかった

高市政権が食料品の消費税率ゼロ化を公約に掲げることを検討し始めたきっかけは、新党「中道改革連合」が食料品の消費税率ゼロ化を政策綱領に盛り込む方針であることだ。つまりは、選挙に勝つための選挙戦略として、高市政権が消費税率ゼロ化を公約に掲げることを検討し始めたものと考えられる。
 
昨年の参院選では、石破政権は給付金による物価高対策を掲げたのに対して、すべての野党は消費税の減税あるいは廃止を掲げ、消費税減税の是非が選挙の大きな対立軸となった。
 
ところが、選挙が終わると、各党ともに消費税減税を経済政策の優先課題として掲げることを一斉にやめた。これは、有権者に対する不誠実な姿勢に見えるが、各党とも、社会保障支出を支える主要財源と位置付けられている消費税減税の問題点を認識しており、また、その財源を賄うことの難しさを理解していたということだろう。消費税減税は、有権者の関心を引くための選挙戦略でしかなかったのである。

「責任ある積極財政」を一段と有名無実化し円安・債券安がさらに進むリスク

それにも関わらず、再び野党は消費税減税を選挙公約に掲げる方向であり、さらに自民党もそれに加わる動きであることは問題だ。
 
仮に自民党が衆院選で議席を伸ばすとしても、食料品の消費税率ゼロ化を実現しない可能性もあるが、それを正式に公約に掲げること自体、財政の信頼性を大きく損ねるリスクがあるだろう。またそれは、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を一段と有名無実化するものだ。その結果、財政と通貨の信頼性が低下し、円安・債券安(長期金利上昇)がさらに進む可能性がある。それは、経済と国民生活の大きな逆風となる。

実質GDPの押上げ効果は+0.22%と減税の大きな代償と比べれば恩恵は小さい

食料品の消費税率ゼロ化は、消費税の逆進性を緩和し、物価高から低所得者を守るという観点からは一定の妥当性のある施策と言えるだろう。しかし、高額所得者が購入する食料品の消費税率もゼロになることから、低所得者向けの物価高対策としては、有効性は高くない。それならば、低所得者に絞った給付金支給の方が良いのではないか。
 
さらに単純に減税を実施すれば、社会保障支出の基礎的財源が損なわれ、財政を悪化させるなど弊害が大きくなる。食料品の消費税率ゼロ化するのと同時に、消費税率全体を2%引き上げ、消費税収を維持するのであれば、それは検討に値する政策だろう。しかし、消費税率全体の引き上げが難しい情勢の下では、食料品の消費税率ゼロ化は実施すべきでない。
 
自民党が検討している食料品の消費税を2年間ゼロにする場合、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.22%と大きくない(図表)。2年目以降は押し上げ効果はほぼ期待できない。食料品の消費税を恒久的にゼロにする場合でも、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.43%である。社会保障支出の基礎的財源が損なわれ、財政を一段と悪化させるなどといった大きな代償と比べれば経済効果の恩恵は小さい。
 
図表 消費税減税の経済効果

給付付き税控除制度創設の議論を優先すべき

仮に2年の時限措置であっても、各年5兆円程度の食料品の消費税ゼロ化の財源を確保することはかなり難しく、結果的に国債発行増加を招く可能性が高い。
 
高市政権は、根本的な物価高対策として、恒久財源の確保を伴う給付付き税控除制度創設の議論を進めることが重要だ。選挙で消費税減税を公約に掲げるのは、財政政策に対して責任ある姿勢とは言えないだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。