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グリーンランド問題と世界的株安

世界規模で株安が進行している。1月20日の米国市場では、ダウ平均株価は前日比870ドルの下落と大幅安となった。また、ドル安と債券安も顕著に生じており、米国市場は「トリプル安」、「米国売り」の様相を強めている。
 
世界的な株安の主因は、グリーンランドを巡る米国と欧州の対立である。トランプ政権は、グリーンランドで軍事活動を強化する欧州8か国に対して、2月から10%の関税を課す考えを表明した。これが、世界経済に悪影響を与えるとの懸念から、株安をもたらしている。
 
さらに米国では、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が刑事捜査の対象になるなど、FRBに対する政治介入が一段と強まっている。これは、ドルの信認を損ね、ドル安を助長する。さらに、足元では債券安(長期金利上昇)も顕著となっている。
 
FRBへの政治介入が金などへの資金逃避を促す構図は昨年から続いているが、足元では債券安を伴い、米国市場からの資金逃避の傾向がより明らかになっている。状況は、昨年4月の相互関税発表時に似てきている。
 
金融市場の安定回復のために、トランプ政権は欧州に対する関税策の見直しやグリーンランド取得に向けた戦略の修正を迫られる可能性もあるだろう。

トリプル安が「トラスショック」を彷彿とさせる面も

一方日本で進む株安には、グリーンランド問題を受けた世界的な株安の影響に加えて、消費税減税観測を受けた財政悪化懸念が株安につながり始めたという要素もあるのではないか。
 
従来、高市政権による積極財政姿勢を反映した「高市トレード」のもとでは、円安、債券安、株高が進行してきた。しかし、円安、債券安は物価高と資金調達コストの上昇を通じて経済活動、そして株式市場にマイナスとなる面がある。衆院選に向け、野党とともに与党も消費税減税を掲げたことで、高市政権の積極財政色はより強まった。
 
他方、その財源確保の手段については、与野党ともに不明確だ。高市首相は、この消費税減税について社会保障と税の一体改革を議論する「国民会議」の審議に委ねるとしている。結局は、より抜本的な物価高対策として給付付き税額控除の創設を急ぐとし、実施までに時間を要す消費税減税は実施しない可能性は相応にあるだろう。

「高市トレード」の変質、世論の変化が積極財政策の修正を迫るか

それでも財源確保の目途がないまま、政府が大型減税を掲げたことで、長期金利はさらに大幅に上昇し、英国の「トラスショック」を彷彿させる状況になっている。円安、債券安、株安の「トリプル安」、「日本売り」へと、「高市トレード」が変質しつつある可能性があるだろう。
 
従来は、円安、債券安の懸念はあるものの、同時に株高が進んだことで、高市政権の積極財政策はプラスに受け止められ、支持されてきた面があるだろう。
 
しかし、今後株安が進めば、積極財政のマイナス面が国民にも意識されやすくなり、高市政権への支持率にもマイナスに働きやすくなるだろう。「高市トレード」の変質、支持率の低下を受けて、高市政権が積極財政姿勢の修正を余儀なくされる可能性もあるのではないか。それは、経済、金融市場の安定にとってはプラスだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。