次回利上げ時期についての明確なヒントは示されず
会合後の総裁記者会見での記者からの質問は、次回の利上げ時期に関わるものと長期金利上昇への日本銀行の対応の2点に集中した。後者に関連して、日本銀行と政府との距離感や日本銀行の独立性についても質問が出た。
少なくとも次回3月の利上げ実施を示唆するようなメッセージは打ち出されなかった。実際、日本銀行が次回3月に追加利上げを実施する可能性は低く、金融市場の注目は4月以降の会合となっている。
植田総裁は、次回利上げの時期について、明確なヒントを与えなかった。その中で、早期利上げをやや意識させる説明は以下の点だ。
・昨年10月の展望レポート発表時と比べて、物価上昇率の見通しが達成される確度は高まっている。
・前回の利上げの経済への影響を見極める必要があるが、消費、設備投資、住宅投資に直接表れるのを待つのではなく、それに影響を与える金融環境で判断する
・すぐにでも消費者物価上昇率は2%を下回るが、金融政策は基調的な物価上昇率で判断する
一方、追加利上げまでに一定の時間がかかることを示唆する以下のような発言もしている。
・昨年12月の利上げ実施時と比べて、物価上昇率の見通しが達成される確度は変わっていない
・次回利上げに向けては特定の材料ではなく、前回の利上げの影響、物価上昇のペースと持続性など多くの指標から判断したい。利上げの影響が経済活動に表れるにはかなりの時間がかかる
・4月は価格改定の頻度が高いことから、それは物価を判断する一つの材料として関心を持っている
・海外で物価2%を超える場合にはサービス価格が上振れているが、日本はそうはなっていない
利上げは年後半にずれ込む可能性
他方、4月の価格改定の動向を数字で確認するのであれば、4月の消費者物価統計の発表が5月下旬であることから、日本銀行の利上げは早くて6月となる。
ただし、年前半は、高市政権の積極財政姿勢の修正や政治圧力を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが予想以上に進むことで円高・ドル安が進み、さらに、消費者物価上昇率が顕著に下振れることで、高市政権からの利上げけん制が再び強まることが予想される。そうした前提の下では、日本銀行の利上げは年後半にずれ込むと見ておきたい。現時点では9月と予想したい。
長期金利上昇への対応を巡り政府と日本銀行は対立か
ただし日本銀行の対応を巡る質問については、植田総裁の回答はかなり慎重であり、違和感があった。総裁は長期金利上昇への対応について、「政府と連携してそれぞれの役割を踏まえて実施する」との想定問答を何度も読み上げた。これは、総裁記者会見としては異例である。長期金利上昇の背景やそれへの対応を巡って、政府と日本銀行との間で軋轢が生じていることを疑わせるものだ。
政府は日本銀行に対して国債買い入れの増加などを通じて長期金利上昇を抑えることを求めたのに対して、日本銀行は、長期金利上昇の最大の要因である政府の積極財政姿勢を修正し、財政健全化を重視する姿勢を示すように政府に求めたのではないか、と推察される。
積極財政政策が主因で長期金利が上昇する際に、日本銀行が国債買い入れを増やしても、それは持続的な市場安定化にはつながらない。問題の抜本的な解決にはならないのである。
また、そうした政策は、財政を助けるものとして日本銀行の信認を損ねるリスクもある。日本銀行としては長期金利上昇を市場の警鐘として政府に受け止めてもらうことを望んでいるのではないか。実際、植田総裁は、「中長期的に財政健全化についての市場の信認を確保することは重要であると、日本銀行は政府に言っている」と発言した。
この問題を巡っては政府と日本銀行の間に軋轢があり、それが外部に露呈しないように、想定問答を政府と日本銀行の間で事前にすり合わせた可能性があるのではないか。
いずれにしても、長期金利の上昇は政府の積極財政姿勢に対する市場の懸念を反映したものであり、市場の安定回復には政府が財政健全化の姿勢を示す以外に術はないだろう(コラム「日本銀行は金融政策維持を決定:長期金利上昇への対応が注目される」、2026年1月23日)。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。